人体実験、被験体は僕!
クラスで浮いてる軀方さんを、不憫に思ったあの日から一週間。
それからの僕は、わりと忙しかった。
昼は普通に学園生活。
放課後は学園地下のイレブンギアで作業三昧。
資料をめくって、ナノパーツを弄って。
そして今―――その〝締め〟に取り掛かってる。
おかげで、軀方さんのことも少しずつ見えてきた。
所属の経緯、任務の履歴。
黒塗りばかりだけど、断片をつなげれば輪郭は浮かぶ。
……やっぱり、規格外だ。
「―――ナノパーツ作成完了、作業を終了します」
プシュー、と機械が息を吐く。
取り出したのは、新しいナノパーツ注入器。
「今回はどう?」
姿は見えないけど、空間にミゴちゃんの声が返ってくる。
《回復三十、開発二十、強化五十。バランス型だねー》
「悪くない。でも、結局実戦だな」
《じゃ、訓練室行く?空いてるよ》
「いいね。いつまでも守られてるのは情けないし」
ホルスターに注入器を差し込み、訓練室へ向かう。
◇
扉が開いた瞬間、冷気が押し寄せてきた。
校庭並みの広さの無機質な空間。
「いつもの教室でお願い」
《あいよー!》
次の瞬間、机と黒板が出現する。
見慣れた教室。
首筋に注入器を当て―――プシュッ。
視界が研ぎ澄まされ、頭の奥で起動音が鳴った。
「いつでもいいよ!」
《じゃあ、お試しね!》
壁が開き、小型ボットが四機。
赤いセンサーが光り、突進してくる―――速い。
でも。
……見える。
身体が勝手に動いた。
一歩、半歩、ひらり。
「うん、問題なし!」
《次、回復テスト》
飛んできた刃を、あえて手で受け止める。
ザクッ!
痛み。
でも、肉が蠢いて傷が塞がる。
「……毎回これ、自分でやる必要ある?」
《あるある!治るし、前の唯一枢もそうしてたよ》
「今は普通の男の子のつもりなんだけどな」
僕が一学期の記憶がないことを、ミゴちゃんは知っている。
そんな僕を、ミゴちゃんは完璧に支えてくれている。
それだけで、どれだけ助かっているか。
《ほらほら、ボーッとしてると危ないよ?》
「えっ―――」
いつの間にか、ボットが六機に増えていた。
拳と蹴りで次々と叩き落とす。
「よし、今回の配合は当たりだ!」
《スタンダード登録するねー》
「……名前も欲しいな」
《名前?》
「紅の強制駆動とかどうかな!」
《ダッサッ!》
「即否定⁉」
《六番目だし、六号でいいでしょ》
「あ、それで……」
一号の地獄を思い出す。
強化百パーセント。
動くたびに体が壊れた、悪夢の試作品。
まだ一本、ボルスターにある。
早々に処分した方がいいな。
―――そのとき。
「うむ、唯一君。動きが良くなっているな!」
低い声。
振り返ると、白い制服の九藤会長が立っていた。
「会長!いつから……」
「小型ボットを倒していたところからだ」
……よかった。
余計な話は聞かれてない。
「最近よく会うな!強くなりたいのか、唯一君?」
「最弱は……正直、恥ずかしいので」
「だがな。男の強さは力だけではないぞ」
真っ直ぐな瞳。
分かってる。
僕だって本気で〝最弱〟という汚名を返上したいわけじゃない。
「守れる男になりたいだけです」
「俺も同じだ」
即答だった。
「守りたい人がいる」
その言葉が、胸に刺さる。
「といっても、これは俺の独り善がり、だがな!」
「……どうしてですか?」
「もし、相手がそれを望んでいなかったとしたら?」
軀方さんは、一人で戦う人だ。
僕がいなくても、ずっと強い。
「……だとしたら、独り善がりになりますね」
「そういうことだ!」
会長は力強く笑った。
「俺が強くなって守りたいという気持ちは―――独り善がり、なんだよ」
その言葉は、まっすぐ胸に突き刺さった。
軀方さんにとっての〝守る〟は、誰にも邪魔されず一人で戦うことなのかもしれない。
実際、僕が一緒だった戦いは、足を引っ張ってばかりだったし……。
なら、軀方さんは一人でいる方が、やっぱり強いのかもしれない。
だとしたら、この訓練は何のために……。
「でもな」
不意に会長が呟く。
「アイツは、俺がケガすると悲しい顔するんだよ。小さい頃から、ずっとな」
その横顔は少しだけ真剣で、けれどすぐに笑みに戻る。
「やっぱり、大切な人には笑っててもらいたいものだ!なぁ唯一君!」
「え、あ、はい」
大切な人に、笑顔でいてほしい―――。
その言葉が胸の奥で引っかかる。
僕にとっての〝軀方さん〟は、大切な人、なんだろうか?
答えの出ないモヤモヤが、心に渦を巻く。
「ところで、会長の〝大切な人〟って誰なんですか?」
「んっ?気になるのか?」
会長はニヤリと笑う。
「組手で一本取れたら教えよう!」
「面白そうです!ちょうど体も温まったので、ぜひ!」
「その意気や良し!では、始めようか!」
「準備体操はしなくていいんですか?」
「実戦に準備体操をしている暇があるとでも?」
徹底した超実戦主義。
会長が準備体操しているところなんて一度も見たことがない。
「それでは―――始めさせていただきます!」
「いつでも!」
スタートの合図は無かった。
代わりに僕は、呼吸を整えて―――止めた。
今日こそ、会長から一本取る!
その決意を胸に、僕は地を蹴った。
どうも、雁木真理です。
ルビの大幅削減、行間の調整をしました。
感想、ご意見、ブクマありましたら嬉しいです。
それでは、皆様に楽しんで頂けましたら幸いです。




