第四十三話「|」
『文化祭が終わった週明けの月曜日。
文芸部の部室で、碧と志保はいつもの席に座っていた。
ドアが開く。
碧は反射的に椅子を倒しながら立ち上がり、ドアの方へ向かった。
そこには、一年生の男女三人が、少し緊張した面持ちで立っていた。
「……あの、こんにちは!」
「文化祭の演劇、すごく感動しました!」
律儀に挨拶をする一年生に、碧はぎこちなく微笑みながら会釈した。
遅れて志保も隣に並び、「よかったら、部室の中へ」と促す。
文化祭の演劇を見て脚本に感動し、文芸部に興味を持ったという。
二人で手を変え品を変え、文芸部の魅力を語る。
思いのほかあっさりと「入部します!」と即答してくれた。
最初から小説や物語に興味を持っていたので、
文化祭は最後の後押しになったのだろう。
部員は碧、志保、一年生男子一名、一年生女子二名の計五人になった。
二人と五人。
たったそれだけの違いなのに、部室の熱気はまるで別物だ。
話す内容のバリエーションも増え、賑やかになった。
楽しい雰囲気に部室が包まれるのは、嬉しかった。
ファミレスでの歓迎会。
山盛りのポテトを頼んだら、一年生が凄まじい勢いで食べていく。
碧と志保は顔を見合わせながら苦笑し、結局何度も追加注文する羽目になった。
実はあの時、二人の予算は大幅にオーバーしていた。
バイトのシフトを増やすことを余儀なくされたことは、言うまでもない。
新しい活動。
WEBでの小説投稿を始めたり、新しい執筆企画を立てた。
気づけば部活らしい忙しさになっていた。
正直、もっと小説を読む時間も欲しかったけど、悪くはなかった。
最後の文化祭。
今年は、昨年とは打って変わってコメディの脚本を書き、演劇部に渡した。
結果は、もちろん大反響だった。
でも、それ以上に嬉しかったのは、
自分が生み出した物語が目の前で動く感動を、
後輩たちに味わわせてあげられたことだ。
忘れられない思い出になっているのなら、こんなに嬉しいことはない。
今、書いているこの文章。
これは、後輩たちへのサプライズとして渡す小説だ。
物語の形式にこだわるつもりはない。
小説になっていなくてもいいと思っている。
碧は、文芸部の創設者として、ここに伝統を生み出したかっただけだ。
この伝統を、本当に伝統にするかどうかは、君たちにかかっている。
最高の文芸部物語を、ありがとう。|』
『文化祭が終わった週明けの月曜日。
文芸部の部室で、碧と志保はいつもの席に座っていた。
ドアが開く。
碧は反射的に椅子を倒しながら立ち上がり、ドアの方へ向かった。
|』
『文化祭が終わった週明けの月曜日。
文芸部の部室で、碧と志保はいつもの席に座っていた。
ドアが開く。
碧は反射的に椅子を倒しながら立ち上がり、ドアの方へ向かった。
——おかえり。|』
『|』
『時が流れ、新しい仲間たちが席を埋めていく。
碧の席は、二つに増えた。
志保は、君の名を呼び続けた。
まるで、その席に君がいたことを、忘れないように。
君がここにいたら、何を書くのだろう。
きっと、ろくなことは書かない。
きっと、締め切りギリギリになって、一言で終わらせる。
それでも、君に、書いてほしかった。|』
『|』
『君に、生きていてほしかった|』
『|』
『君のことが、|』
『|』
『生きろ。|』




