契約満了後の無能な大聖女は婚約破棄されても幸せを掴み取る!
どうぞ宜しくお願い致します。
私は大聖女オリビアとしてこのピグン王国で多くの人の命を救ってきた。
ピグン王国の国王陛下との契約期間はちょうど三年。
三年間だけ全力で治療薬、回復薬を作り、魔法で人々の病気やケガを治すと約束してきた。
「オリビア大聖女様!! どうか息子の失った足を治して下さい!」
「ええ、任せて頂戴」
光輝く治癒魔法を見て、その母親は涙を流し、周りで見ていた人々は素晴らしいと両手を叩いて喜んでくれる。
(でも、私にはそんな感謝の言葉は要らないの。だって契約期間は三年なのだから三年間、しっかり職務を全うするだけのことよ)
私の大聖女としての活動は二十四時間体制だ。
(私が過労で倒れたら、誰が世話をしてくれるのかしら?……残念ながら、そんな人誰もいないわね)
聖女が清楚でいないといけないなんて、誰が決めたの?
清らかのイメージなんか要らない。
私だって愛する人と結婚したいし、素敵な家庭を持ちたい。
だから、三年間でしっかり大聖女として稼いだら、私の魔法を全て自ら封印してしまうの。
だって、魔法が使えたら、みんな縋りついてくるでしょ?
あとは、勝手に国王陛下が結んだアルファ第一王子との婚約をどうするか。
「私は三年だけ大聖女を務めるだけですので、婚約なさらないほうがいいと思います。別の高貴なご令嬢とご婚約することをお勧めします」
って去年、言っていたのに勝手に婚約手続きを行われていた。
(三年契約だからその後を心配して、アルファ第一王子と婚約すれば、その後も王家に仕えて大聖女として働いてくれるのだと思っているんだわ。どうなっても知らないわよ)
私は婚約しない方がいいって言ったからね。
そしてやってきた、三年契約の期間満了の日。
その日を無事に乗り切ると、私は私自身の魔法に封印をかける。
(三年休んで、その間に素敵な殿方を見つけて……それから、家庭が持てたらいいわね)
私の幸せ家族計画を実行する日がやってきた。
「無職万歳!!」
私は、契約期間が満了した次の日に国王陛下に挨拶に行く。
「契約期間中の三年間、お世話になりました。無事に任期を終えることができましたことをご報告いたします」
「大聖女殿! 何を申しているのだ? 契約など関係ない。このままアルファ第一王子と婚姻を結べば良いだろう」
(国王陛下はやはり狸のおじさんだった。嘘ばっかりよね、どこの国も)
「いえ、私はもう大聖女の仕事は受けませんので失礼致します」
「大聖女の仕事などしなくても良いから、アルファ第一王子と結婚すればよかろう?」
「私が欲しいのは、契約満了時のお金だけです。さぁ、契約書に記載されている退職金を宜しくお願い致します」
国王陛下の顔がみるみる赤くなり、腹を立てているのがよくわかる。
(あらあら、血圧が高いですわよ。あまり怒らない方が長生きできますのに)
「ほら、これが金だ。受け取れ」
無愛想になった国王陛下から金貨の入った袋が私に向かって投げつけられる。
(痛いな~もう。回復魔法を封印したのだから、痛めつけるのはよしてほしい。あざが残るじゃないか)
そう思って、私の肩に当たって床に落ちた金貨の入った袋を拾うと私は立ち上がる。
「こやつを、捕らえろ! そして、塔の牢屋に連れていけ!!」
(あ~あ。やっぱりこの国もそうなのか。仕事を拒否すると途端に手のひらを返す。昨日まではあんなに私を持ちあげていたのにね。この後の展開も読めてしまう自分が悲しい)
「塔の中で、さっさとアルファと結婚させてしまえ。そうすれば、おまえはこの国で一生働くしかできなくなるのだ!!」
そう言って、私は金貨の入った袋を大事に抱えたまま塔の牢屋に閉じ込められた。
「はぁ~早く、アルファ第一王子来てくれないかしら。早く婚約破棄してもらわないと、私、婚活できないんですけど」
塔の中で、家畜の餌のような食事を三日三晩与えられた。飲み水も濁っているからお腹も下してしまう。生きていくのに必要だから、食べるけどさ。小さい頃の空腹で道端に座り込んでいたことを思い出す。でも、下痢は困る。今は回復魔法使えないのだから、脱水症状起こすじゃないの。
三日目の夜。塔の牢屋の入り口扉を叩く音がする。
「はい、どうぞ」
「私だ。アルファだ」
(やったわ! やっと王子の登場ね! 婚約破棄!!婚約破棄!!)
私は、心の中で婚約破棄ダンスを踊る。
「さぁ、明日はオレと婚姻を結ぶ日だ。もう我が国からは逃げられないぞ」
アルファ王子は私の顎をクイッと持ち上げ、腹を括れと遠回しに言ってくる。
「大事なお話があります……」
私はしおれた悲し気な女性を装いながら、自分のことを話す。
「実は……私はもう大聖女ではございません。魔法が使えないのです……それで結婚をしてもアルファ王子は良いのですか? 無能な元大聖女を娶った愚か者と呼ばれてしまっても構いませんか?」
「何? その話は本当なのか?!」
まだ大聖女として魔法が使えると思っていたアルファ王子は、困惑しながらも私が嘘を述べていないか確認するために、魔力測定の水晶を牢屋に持ってこさせた。
「アルファ殿下……この者には……もう魔力がないようです。反応がございません。大聖女の力が使えないというのは本当のようです」
「……なんてことだ!! じゃあ、こんな女と婚姻を結ぶ必要はどこにでもないじゃないか!!」
アルファ王子は怒りに任せて、私をドンっと突き飛ばした。
(元大聖女に……ひどい仕打ちですこと。でも、これで婚約破棄は決まりだわ! やったわ!!)
■■■
次の日。
もちろん婚姻の儀など行われるはずもなく、私は見知らぬ森にポンッと捨てられた。
「お前はもう不要だ。別の新たな聖女を探すからどこかで野垂れ死にしてしまえ……との国王陛下のお言葉だ。……でも、何とか生き抜いて頑張れよ」
誰かわからないけれど、アルファ王子の護衛騎士だっただろうか。
金貨の入った袋もポンッと手のひらに忘れずに乗せてくれる。
(この方、私は治療したことあったかしら? 金貨をくすねることなく手渡してくれるなんて……感謝するわ!)
そこから、私は森の中を歩き、適度に良い洞穴を見つけるとそこに住むことにした。
(一番大事なのは、水場が近くにあることよね! ここなら川も近いし木の実もとれる。黒曜石も見つけたししばらくここで生きていけるわ!)
私は森で生活を始めた。なかなか快適な空間で、自由を満喫することができそうだ。
■■■
森での生活も慣れたころ、私は婚活のために殿方に会うためには街中に行くしか、どこかの村を探して移住しようかと検討を始めていた。
そんなある日。
昨晩は大雨で川が増水していた。今日は川で洗濯はできないかもしれないと思いながら川の様子を見に行くと、一人の男性が足を半分川の中につけた状態で仰向けになって倒れていた。
「あら、大変。 昨日の増水で川に落ちたのかしら?」
胸の上下運動を確認する。まだ生きているようだ。
私は、小柄な身体に体躯の良い男性を背中にかついで、引きずりながら洞窟まで運んだ。
「ん~、擦り傷と足の骨折くらいかしらね」
藁を大量に敷きつめてベットにしている上に男性を寝かせて、診察をする。
今の私は大聖女の力を封印している。だから魔法を使って治療はできない。
だってしっかり休暇をとると決めたんだもの。
だから、森の中にある薬草と添え木で様子を見ることにした。
一週間ほど眠り続けた男性が目を覚ました。
「あら、やっと目を覚まされたのですね? 痛みはどうですか?」
「……あなたは……誰ですか?」
その男性は頭を押さえながら、ぼんやりと私の顔を見つめる。
(まだ意識が混濁しているのかしら? 私の質問には答えてくれなかったわね)
「私は、オリビア。この洞窟に住んでいます」
「……ここは洞窟なのですね……」
「あなたのお名前は何て言うの?」
「……」
(自分の名前がわからないらしい)
「まぁ、名前なんてわからなくてもいいわ。 あなた怪我が治るまで、ここにいたらいいわ。私の話相手になって頂戴」
そう言って、彼が目覚めてからも私は看病を続けた。
(彼が歩けるようになって、自力で去れるようになった時に私もこの洞窟から別の街か村に移住しましょう)
洞窟のんびり生活を謳歌していた私は、気長にその男性の怪我が治るのを待った。
そんなある日。
洞窟の外が物々しい雰囲気に包まれた。
「あら? 誰か来たのかしら?」
馬の嘶く声が聞こえたので、誰かがこの洞窟にやってきたことがわかった。
私が洞窟の外に出ると、騎士服を着た男性五名が立っている。
(見た事のない騎士服ね。ピグン王国の騎士ではないということね)
私は、私を追い出したピグン王国の騎士でないことに安堵した。また連れ戻されるのは御免だ。
(では、一体どこの国かしら?)
「……あのう、すみません。人を探しているのですが、三週間前くらいに川に転落した男性を探しておりまして……この男性を見かけませんでしたか?」
騎士服を着ている男性が、私に一枚の姿絵を見せる。
「あら? この方ですか? この洞窟にいらっしゃいますよ?」
私の返事を聞いた騎士たち五人は、手を取り合って喜んでいる。
涙を流している人もいる。
(ずっと探していらっしゃったのね。知り合いの方が迎えにきてくれて、本当に良かったわ!)
「あ。でも、この男性、記憶障害があるのかお名前もお忘れになっているようです」
私が正直に伝えると、五人の騎士の表情が曇ったのがわかる。
(それはそうよね。再会しても顔を忘れられていたら、悲しいもの)
「わかりました。それでも構いませんので案内していただけますか?」
騎士の一人の言葉に、私は「もちろんですよ」と答えて、洞窟の中にいて藁の上に横たわっている男性まで案内する。
(この騎士の人たちが、この男性を連れて行ってくれたら……私は晴れて婚活の為の移住ができるわね!だって……この洞窟にいても出会いがないもの!!)
私は、のんきに彼らがこの男性を連れて帰ってくれることを喜んでいた。
「あのう…大変、申し上げにくいのですが、この看病してくださっていた男性があなたも一緒でないと不安だから、あなたがついてきてくれるのなら私たちと一緒に帰ると言っているのですが……少しの間だけでもご同行いただくことは可能でしょうか?」
騎士の人たちは、私がその申し出を断ると思っていたのだろう。
「えぇ! 私も洞窟から出ようと思っていたからいいわよ!」
私が快諾すると、目を見開いて驚いた後、私の荷物を持つと申し出てくれた。
「残念ながら、私に必要なのはこの金貨袋一つですので自分で持ちますわ。お申し出、どうもありがとうございます」
そんなやり取りがあり、私と記憶障害の男性と騎士五名は洞窟をあとにした。
騎士五名が近くに馬車を停めていたようで、そこに私と記憶障害の男性を乗せるとゆっくりとどこかにむかった。
(この男性を送った帰り道に良い街が村があるなら、そこに寄って……新しい住まいを探しましょう!)
私は、流れてゆく景色を窓から見ながら、自分の次なる移住地を探すためにずっと外ばかり見ていた。
馬車に揺られること五日。
騎士の人が、やっと到着したと教えてくれる。
(なんだかなー。そんな気はしていたけれども。やっぱり記憶障害の男性は王族だった)
どこの国の王族も似たり寄ったりかと思ったけれど、この国の国王陛下は洞窟で看病し命を助けてくれた私を大事に扱った。
(大聖女でもないのに、ボロボロの服を着た私を大事に扱ってくれるなんてありがたいわね)
私はしばらくこの城に留まることが決定した。
記憶障害の彼が、不安だからしばらく一緒にいてくれと頼んでくるからだ。
どうやらここはライカ国らしい。確かピグン王国の北西に位置していたと思う。
私は生まれてきたのは別の国で、この国で五か国目になる。東から西へと移動してきた。
そんなある日。
ピグン王国の国王陛下とアルファ第一王子が病死したという話を耳にした。
「あぁ、あの二人、ずいぶん持ったのね」
私は、三年契約が満了した時に大聖女の力は自ら封印していたけれど、どこが悪いのかは目で見えていた。
『治せないけれども、悪い部分がどこかはわかる』
そんな状態だった。だから、契約満了の時にすでにピグン国王陛下とアルファ第一王子の肺に黒い影のような物が見えていた。
(あの時は言っても治せないから、言わないでいたのだけれど……まぁ、あの病気を治すのは相当な魔力が必要だから私以外の聖女に治せていたのかも今となってはわからないわ。というか、もうどうでもいいのだけれど)
私は記憶障害を持つ男性の精神がなかなか安定しないので、ずるずると城に住み続けた。
大聖女の仕事は封印したままだから、その男性の看病と身の回りの世話をする侍女になると申し出た。
「なかなか大聖女以外の仕事もいいものよね。新しい刺激があって楽しいわ」
しかもライカ国の国王陛下は、侍女の私だけでなく国民を大事にする王だった。
(ふむふむ。今まで渡り歩いてきた四つの国の王とは違うみたいね。良い国王に恵まれてこの国の民は幸せね)
しかも、侍女だというのに記憶障害の男性、彼はこの国のジーク第一王子だったのだが、その彼が私に婚姻を申し込んできた。しかもライカ国王陛下も承諾してくれている。
(確かに何も持たない私に好意を寄せてくれているのだし、良い伴侶になるのは間違いないわね)
そう判断した私と記憶障害の彼、ジーク王子は来年の春に婚儀を執り行うことになった。
「身分の差を気にせずに、好きな者と結婚したらよい」
ライカ国王はそういう人物だった。そんな義父なら私も安心して嫁ぐことができる。
何て寛大で面白い国王なんだ!と心で思いながら過ごしているうちに、私が私自身に封印した魔法が解ける日がやってきた。
私はライカ国王陛下に謁見を申し込み、明日から大聖女の仕事ができるようになりますと真実を述べた。
「実は、三年休職しておりまして明日から大聖女の仕事に復職致します。三年働いたら、また休職するのですがそれでも構わないようでしたら、ジーク王子の妻として、そして大聖女として働きたいと思います」
「何? それは真か?……では、一番最初に診てもらいたい患者がいるのだが……」
「えぇ、わかっております。ご子息のジーク第一王子ですよね?」
「あぁ、彼の記憶を取り戻して欲しい」
「……とりあえず、明日診てみますわ」
私は、曖昧に返事をした。記憶障害の彼が治せるかはわからなかったからだ。
そして次の日。
大聖女新規オープンの私は、椅子に座っているジーク第一王子の両手をとって瞳を見つめる。その横にはライカ国王陛下もいる。彼の記憶障害を治療するためだ。
「ライカ国王陛下……残念ながら、私に彼は治せません」
「何? 記憶障害を治すことは大聖女でもできないのか?!」
ライカ国王陛下は少なからずショックを受けたようだった。
「いいえ、違います。彼はどこも患っておりません。だから治せないのです」
しばらくの沈黙の後。
「あ~あ、残念。私の休暇もこれにて終了か」
「人が悪いですね。仮病は良くありませんわよ。記憶障害のフリをいつまで続けるのかと……思っておりました」
「私はずっとこの素敵な女性、オリビアとゆっくりと生活をしたかったのだが、そうもいかないか」
「残念ですわね。私も今日から大聖女として働くのですから、しっかり第一王子としての役目を果たされたらいかがですか?」
そう私たちは笑いながら、春にめでたく婚儀を執り行い、子宝にも恵まれた。
私の幸せな家族計画は始まったばかりだ。
読んで下さりありがとうございます。
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