クリスマスソング
もうすぐクリスマス
恋人たちは手を繋いで歩き
明日に向けて距離を縮める準備をしている
その未来だ、と家族連れは身を寄せあい
充足の手本を見せる
老いた夫婦は遠い目で感慨
過去、現在、未来
全てを眺め微笑む
若者たちが思い思いに歩く
伴侶は無くとも友人は有る
未来や希望だってあるさ
俺は独りで歩く
羨ましいとは思わない
寂しいが悲しいとは思わない
喜べるようになった
隣人や友人やすれ違う人々や
赤の他人の幸福を
喜べるようになった
この国では
今のところ大きな災いも無く
俺個人もそれほどの苦しみを抱えていない
妬みや嫉みや
それに由来する怨みは
誰かの幸福がもたらす喜びで
簡単に吹き飛ぶのを知った
他人の幸福を喜べるようになった
明日はクリスマス
遠い国では戦乱が続くのに
俺の手は細く短い
どうやら魔法使いとか賢者でも無さそうだ
勇者でも無いらしい
俺はとにかく研鑽なんてしなかったし
年齢に見合った責任も果たしていない
悪いニュースが地球の様々な場所から届く
感情を揺さぶられ憂鬱になる
未来や希望が無い人の事を考える
俺は独りで歩く
悲しい事に
今日も明日も仕事だ
明後日もその次も
それでも世の中が見えるようになった
昔に比べればだが
力が及ばない事について
感情を整理できるようになった
この国でも
今この瞬間に禍を受けている人がいて
取り返しのつかない傷口に泣いている人がいる
取るに足らない俺が
手を差し伸べても
誰もが胡散臭いと
振り払うはずだ
だが感情を整理できるようになった
今日はクリスマス
難しいことばかり考えても
何も変わらない
簡単にできることを
ただただ貫こう
日本人のほとんどに関係ない
この祭を祝おう
祭の由来になった人物は
きっと信仰が無くても赦してくれるさ
道行く人に笑顔を見せよう
まずは作り笑いだ
ぎこちなくとも睨むよりは良いぜ
誰かの幸福を喜ぼう
ささやかな幸せが心を暖め
潤すことを胸に刻もう
背を伸ばしてまっすぐ歩こう
襟を正して胸を張って
後ろめたいことなんて無いんだ
幸福はまやかしなんかじゃない
確かにこの世界に存在し
幸運と努力で
誰もが獲得できる可能性があると示そう
喜びそのものを
他者に分けられるのだと
喜びは憎しみを上回るのだと
人生で刻もう
昨日はクリスマス
今日は昨日の続きさ
明日は今日の続きで
1年後にはまたクリスマス
未来を信じられることこそが
俺個人もそれほどの苦しみを抱えていない
(精々痔の痛みと高い尿酸値への怯えくらいだ)