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久しぶりの手がかり

「ところで、リーシャさんとオスカーさんはどうして旅をなさっているの?」

「色々と理由はあるのですが、祖母の遺品を探していて」

「おばあさまの?」

「はい。祖母が集めていた蒐集物コレクションが盗まれてしまいまして、その行方を追っているんです」


 リーシャは収納鞄から蒐集物のリストを取り出すとマリーに見せた。


「まぁ! 宝石の蒐集物ですね! 素敵!」

「リストの端に印があるでしょう? 印がついている物が見つかったもので印が無いものがまだ見つかっていない物なんです」

「見つかっていない物がまだこんなに……。他人の宝物を盗むなんてとんだ不届き物です!」

「この中に見たことがある物はありませんか? ほんの些細なことでも良いのです。何か情報があればありがたいのですが」


 マリーはリストを一枚ずつ丁寧にめくり、隅から隅まで目を通した。時折「素敵……!」「こんな宝石があるなんて!」と感嘆の声を漏らしながら貪るようにページをめくる。


「宝石、お好きなんですか?」


 リストに並ぶ宝石の写真に夢中になっているマリーにリーシャが声をかけると、マリーは恥ずかしそうに「ごめなさい」と慌てた。


「あまりにも素敵な宝石ばかりでつい夢中になってしまったわ。ごめんなさい」

「いえ、そう言っていただけて祖母も喜んでいると思います」

「私、あまり宝石と言う物を見たことがなくて……。まるでおとぎ話に出てくるような素敵な物ばかりで感動してしまったのです」


 装飾品が魔道具として使われるようになって以降、鉱脈の枯渇も相まって宝石の値段は高騰した。天然宝石は金を持っている上流階級、庶民は研磨の際に出た端材や粉を集めて作った魔工宝石と自然と棲み分けがされるようになり、庶民にとって「本物の宝石」は縁遠い物となってしまったのだ。


 だからこそマリーが「宝石」に憧れるのも無理はなかった。王様が被る冠やお姫様が身につけているようなネックレス、そういう宝飾品に使われている大きな宝石など、おとぎ話や絵本の中の空想の産物と同じような物だったからだ。


「祖母の蒐集物は今よりずっと昔、それこそ宝石がまだありふれたものだった時代に集められた物です。昔は誰でも、今よりずっと安いお金で綺麗な鉱物や宝石を集めることが出来たんですよ」

「まぁ、そうなんですか?」

「はい。今宝石の値段があがっているのは宝石の元となる原石を採掘しすぎて世界中の鉱脈が枯れ始めてしまったり、宝石が魔道具の核として最も良いものだと知れ渡ってしまったからなんです」

「魔道具の核って宝石なんですか?」


 驚くマリーにリーシャはトランクから取り出した小さな袋を手渡した。皮袋に入っていてずしりと重みがある。


「袋を開いてみて下さい」


 マリーが言われたとおりに袋を開くと中からオレンジ色の石が出てきた。なにやら白い縞模様が入っている。


「これは?」

「温石の魔道具です。魔力を込めてみてください」


 オレンジ色の石に魔力を込めると石がぼんやりと発光した。


「温かい……」


 手で包み込んだ石からじんわりとした暖かさが伝わってくる。人肌より少し温かい、ちょうど良い温度だ。


「一見ただの石の用に見えますよね」

「これが魔道具だなんて信じられませんわ」

「一番原始的な魔道具と言っていいかもしれません。石を裏返してみてください」

「……これは、文字?」

「古い時代、魔法は言葉を用いて使うものだということはご存じですか? これは石に文字を直接刻み込むことによって詠唱を省略する、一番シンプルな魔道具なんです」

「あらかじめ文字を刻んでおくことで言葉を使ったことにするんですね!」

「そういうことです。魔道具はこの仕組みを基礎として、文字を刻んだり魔法を焼き付けたりした宝石を核として使っているんですよ」

「知りませんでしたわ! リーシャは物知りですね」


 マリーはひどく感心したようで、リーシャに尊敬のまなざしを向けている。同い年(と思っている)少女の博識さに感銘を受けたようだ。


「リーシャは本当に物を良く知っている。俺も教えてもらってばかりなんだ」

「そうなのですか? オスカーさんの方が()()()()()なのに?」

「物事を知ったり教えたりするのに年齢は関係ありませんよ。知っていることや知らないことは人それぞれ。互いに教え合った方がお得でしょう?」

「それもそうですね!」


 無垢なマリーの純粋な疑問にリーシャは苦笑いする。世間から見ればリーシャはマリーと同じくらいの年端も行かない少女で、オスカーはずっと年の離れた中年男性だ。

 オスカーはリーシャの事情を知っているし、リーシャもあまり気にする方ではないので忘れがちだが、不審に思われないよう振る舞い方を考えなくてはならない。


「お兄さま、先程から黙ってばかりですけれどどうしたの?」


 乙女同士の会話が盛り上がる横で、オットーはこわばった顔をして蒐集物のリストを眺めていた。


「いや、なんでもないよ」


 リストを綺麗に並べ直すと「早く見つかると良いですね」と言ってリーシャに返却する。


「何か気になる点でもありましたか?」

「いえ、特には。こういう高価な物には縁がないもので……。お力になれず申し訳ありません」


 そういいつつも明らかに血の気が引いている。


(久しぶりに当たりを引いたかもしれない)


 動揺を隠せないオットーを見てリーシャは目を光らせた。この様子だと蒐集物について何か知っていそうだ。


(ソルテに到着するまでに情報を引き出さないと)


 この馬車は長距離便である。終着駅であるソルテまでに小さな町を二つほど経由する。勝負する時間はある。


「お気遣い感謝します」


 久方ぶりのチャンスだ。この好機は逃さない。リーシャはオットーにニコリと微笑んだ。

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