聖都ソレイユ
真っ白で巨大な聖堂、そしてその眼前に広がる噴水広場。リーシャとオスカーは屋台で購入したジェラートを食べながら空にも届かんとする聖堂を見上げていた。
「ここが『魔法教会』の総本山か」
「はい。何でも『聖女』様が暮らしていた村の跡地らしいのですが」
「元々『村』があったとは思えないほど栄えているな」
世界中に展開する「魔法教会」の聖地、それがここ聖都「ソレイユ」である。聖都と言ってもその実態は元々村であった場所を開拓したこぢんまりとした場所で、教会の本部を兼ねる巨大な大聖堂を中心に巡礼者用の宿泊所や聖跡が集まった「都」と呼ぶには小さな土地だ。
「あっちに『聖女様の産湯を汲んだ井戸』、もう少し向こうに『聖女様が魔法を発現した森』、こっちには『聖女様が座った石』があるそうですよ」
「まるで観光地だな……」
「重要な収入源ですからね。お土産物屋さんも沢山あるみたいです」
そう言うとリーシャは観光案内の地図をオスカーに手渡した。地図には「聖跡」巡りの順路や飲食店、土産物屋の場所が記してある。
「オスカーは『魔法教会』についてどの程度ご存知ですか?」
「そうだな……。『聖女』を崇拝対象とした宗教団体とは聞いている。我が国は魔法とは無縁だったからあまり詳しくは知らないが」
「なるほど。まぁ、大体そんな感じの認識で合っていますよ」
「魔法教会」は「聖女」を信仰対象とする宗教団体である。今やその活動は世界規模に広がり、魔法に親しむ国ならばどの町にも大なり小なり教会が存在する程だ。何故そんなに「教会」が広がったのかと言うと、それは「魔法教会」の成り立ちに理由があった。
「今や日常生活に欠かす事が出来ない魔道具、その発祥の地がどこかご存知ですか?」
「いや。……まさか」
「はい。実は現在世界中で使われている魔道具の基礎を作ったのが『魔法教会』で、ここ聖都ソレイユは魔道具発祥の地なのです」
現在一般的に使われている「魔道具」は元々聖女や司祭が使う法具だった。魔法という奇跡を起こすための補助具として開発され、それを一般人にも使えるように改良したのが「魔道具」だ。
魔法を初めて使ったとされる聖女が人々に魔法を広める為に作ったのが「魔法教会」であり、魔道具と魔法の伝播と普及を進めるために各地につくられたのが「教会」である。そのため魔法を使う国には「教会」があって然るべきなのだ。
「魔法を知らない人に『魔法という得体の知れない物』を伝えるには『神が起こした奇跡』とするのが一番だったんでしょうね。聖女はそのシンボルとして作られた存在なのでしょう」
「でも今も聖女は存在し続けているんだろう?」
「ええ。何でも代々聖女を輩出している一族がいるとか」
リーシャは収納鞄から一通の手紙を取り出す。宛名の面に「緊急」と赤い大文字で書かれた手紙、その送り主は……
「ミレニア。それが今代聖女の名前です」
組合で渡された緊急の依頼。その依頼主こそ、「魔法教会」のトップに君臨する聖女ミレニアだった。手紙によると代々受け継がれている儀式用の杖が壊れてしまい、近く開催される生誕祭までに修理をしてほしいとのことらしい。
リーシャは教会の信奉者ではない。それ故に「教会」とはあまり関わり合いになりたくは無いと思っていたのだが、近場に「教会」の依頼を受けられるような熟練者が居ないことや超高額な依頼料を提示されたことで渋々依頼を引き受ける羽目になったのだった。