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とある策

「これは酷い……」


 べこべこに凹んだ外装も痛々しいが、原型が分からないほどに破壊され尽くした操縦席や機関室など見るも無残な状態だ。


「オスカー、オリバーさん達の安否を確認してください」

「分かった」


 オリバーとモニカの安否をオスカーに確認して貰っている間に魅了魔法をかけて男たちを尋問する。


「一体何故こんなことを? 私とオスカーが目障りなら飛行船にまで手を出す必要はないのでは?」

「飛行船も潰せって言われたんだよ! 一週間じゃ直せない程度に破壊しろって」

「一週間?」


 「一週間」という言葉にリーシャは反応した。


(ということは、飛行船レースに出場させないことが目的だった?)


 レース当日まであと一週間、ここまで破壊されてしまっては到底元に戻してレースに参加することなんて出来ないだろう。


(それほどオリバーさんの飛行船は凄いのかもしれない)


 資金力があって高性能な飛行船を作れる「ウィナー公船会社」は何をせずとも優勝出来る可能性が高い。そんな「ウィナー公船会社」が不安を抱いて潰そうとするほどの技術力をオリバーさんが持っていたとしたら。


「何故オリバーさんの船なんですか? 他にも参加する造船所は沢山あるでしょう?」

「さあな。そこら辺は何も聞いてないが、発動機は必ず壊せとか何とか言ってたな」

「発動機を?」

「ああ。それだけは『絶対』だと」


 オリバーやモニカがレースの切り札を他の会社に漏らすとか考えにくい。


(……どこからか新型発動機の情報が漏れていた)


 そうとしか考えられない。そしてその可能性が一番高いのは……


「なるほど。思った以上にこの国は『終わってる』のかもしれませんね」


 リーシャは腑に落ちたような表情で一人呟く。組合が情報を漏らすとは思えない。宝石修復師は信用が第一なのだ。ということは、一番疑わなければならないのはギルド職員だ。

 この依頼はリーシャ宛の個人依頼でこの国において依頼内容を知っているのは依頼主であるオリバーとモニカ、依頼を受けたリーシャとオスカー、そして登録情報を閲覧できる組合職員くらいだ。それ以外となると緊急用の権限を与えられているギルド職員くらいしか思い当たらない。


(一造船所の権力が『ギルド』にまで及んでいると思えば納得だ。オスカーが『ルビー』について組合で尋ねたことも筒抜けだっただろう)


 おそらくギルドだけではない。ありとあらゆる所に「隣国と親しい人たち」が入り込んでいるのだろう。そう考える方が自然だ。


「リーシャ、待たせたな。オリバーやモニカは無事だったぞ」

「リーシャさん! これは一体……」

「うわ! 飛行船が!」


 リーシャが考えを巡らせているとオスカーに連れられてオリバーとモニカがやってきた。二人とも変わり果てた姿となった飛行船を前に呆然としている。


「オリバーさん、飛行船の新型発動機や私への依頼についてどなたかに話しましたか?」

「いえ、飛行船レースまでは互いの飛行船については探り合わないのが暗黙の了解みたいになっていますから……」

「造船所同士の祭みたいなものだからね。当日までのお楽しみって考えなのさ」

「そうですか」


 やはりギルドから漏れた線が濃厚だ。


「この男たちはどうする?」

「先ほどの二人と同じようにしましょう」


 リーシャは男たちに何やら「命令」をすると宿屋で襲って来た男たちと同じように解放した。


「逃がして大丈夫なんですか……? 警備兵に引き渡した方が良いのでは……」


 恐る恐る尋ねるオリバーにリーシャは首を横に振る。


「今は警備兵も信用なりません。それよりは彼らの作戦が『上手く行った』ように見せかけた方が賢明かと」

「なるほど……」

「まずはご無事で何よりです。飛行船の方はどうですか?」

「そうですね。詳しく点検してみないと何とも言えませんが、かなり手酷くやられたようです」


 ぐちゃぐちゃになった操縦席を覗いたオリバーは落胆の色を隠せない。それはそうだ。レースまで残り一週間というところで飛行船を駄目にされてしまったのだから。


「まずは損傷個所の洗い出しをお願いします」

「え? でもここまで壊れてしまっては……」


 困惑するオリバーとモニカにリーシャは満面の笑みで「私に考えがあるのです」と告げた。

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