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招かれざる客人

 夜も更けた頃、精錬作業を終えてベッドで横になっていると部屋の外で何やら物音がするのに気が付いた。


(……人の気配がする)


 ドアの外、部屋の前に広がる廊下に誰かが居る。しかも自室の前で何やらひそひそ話をしている。リーシャは身を起こしてドアの方へ意識を向けた。


 どかん!


 次の瞬間、大きな音がしてドアがはじけ飛ぶ。しかし何故か砕け散ったドアは部屋の内側へは落ちず、破片は全て廊下側に落ちていた。

 リーシャがドアのあった場所まで行くと廊下にはドアの破片と目出し帽を被った男が二人倒れている。隣にあるオスカーの部屋でもドタドタと音がするので何かが起きているのは明らかだった。


「リーシャ! 大丈夫か?」


 しばらくして音が止むと剣を片手に持ったオスカーが顔を出した。


「はい。部屋に防御魔法を敷いていたので。オスカー、お怪我は?」

「俺も大丈夫だ。しかしこれは一体……」


 廊下に倒れている男たちを跨いでオスカーの部屋へ行くと床に二人の男が倒れている。同じく目出し帽を被っているのでリーシャの部屋を襲った二人と同じグループなのだろう。


「こっちの人達はダメですね。廊下の二人は気絶しているだけなので使えそうです」


 リーシャはオスカーに宿の主人に金を渡して話をつけるよう指示をするとオスカーの部屋に生き残った二人を運び入れた。目を覚ましても暴れられないよう身包みを剥いで拘束魔法をかける。魔道具を隠し持っている可能性があるからだ。


「宿の修繕費を含めて少し多めに渡しておいたぞ」


 部屋に戻ってきたオスカーは下着一枚で拘束されている男たちを見てぎょっとしたような表情を浮かべる。


「どうするつもりだ?」

「事態の詳細は本人たちに聞くのが一番でしょう?」


 リーシャは一本の杖を手に持ちニコリと笑った。


「それは……」


 見覚えのある杖にオスカーの顔が引きつる。


「はい。オスカーの国で猛威を奮った()()()です」

「壊れていたのではなかったのか?」

「直しました」


 杖を手渡されてまじまじと観察をすると確かに月の装飾品に留められているサファイアが修復されている。


「直すのは不可能だって言っていたような……」


 記憶が正しければ杖を悪用していた魔術師にそんなことを言っていたような。不可解そうな顔をしているオスカーにリーシャは得意げに言った。


「私が言ったのは『素材が手に入らなければ直せない』ということであって、私が直せないということではありません」


 留められているサファイアは変色カラーチェンジ効果のあるサファイアで組合のストックにも無い珍しい物だ。産地である鉱山も遥か昔に閉山しているため自前で修復用の素材を用意するのは難しい。つまり「()()()()()()()()」ということである。


「祖母は蒐集物コレクションに何かあった時のために修復用の素材を保管していました。幸いそちらは手つかずだったのでその素材を使って修復することが出来たんです」

「なるほど。で、それをどうするんだ?」


 リーシャとオスカーは恨めしそうな目で二人を睨む男たちに向かって居直った。


「あるものは使う。そうでしょう?」


 リーシャが男たちの前に杖をかざすと杖の先端についている月の装飾品が光り始め、光に照らされた男たちの顔はぼんやりとした表情へと変化した。


「さて、では早速話して頂きましょう。あなた達を雇ったのは何処の誰ですか?」

「……酒場で出会った男だ」

「どういう依頼を受けたのでしょう」

「目ざわりだからお前たちを痛めつけろと。そう言って容姿と宿の場所を教えられた」


(やはり魅了魔法は恐ろしい)


 リーシャの問いに素直に答える男たちの姿を見てオスカーは背中に冷たいものを感じた。この魔道具が特別に高性能なのは分かっているが、先ほどまで自分たちを殺そうとしていた者がこうも易々とこちらの手に落ちるのを目の当たりにすると改めて恐ろしい魔道具だと実感する。


「その男の身元は?」

「分からない。見たことのない顔だったからこの街の人間では無いかもしれない」


(……とすると、外国の?)


 心当たりはある。この状況で襲ってくるとすれば隣国の刺客だと考えるのが妥当だ。隣国についての情報を収集しているのがバレて目をつけられたのかもしれない。


(あとをつけられていたのかも)


 そう考えると説明はつく。気を付けてはいたがもしもあとを付けられていたのだとしたらオスカーが情報収集をしていたのも筒抜けだろうし、もしかしたら鉱山で話した会話の内容を店主が喋っているかもしれない。


「頼まれたのはあなた達だけですか? 他に仲間は?」

「あと五人……造船所のやつらを痛めつけろと」

「なんだって?」


 男の言葉にオスカーの顔が青くなる。


「……なるほど」


 目的がリーシャとオスカーだけならば情報収集が相手の気に障ったのだろうと思ったが、造船所も目標の一つならばそれだけが理由ではないかもしれない。


「オスカー、造船所へ急ぎましょう」


* * *


 男たちへある「命令」をした後、二人は態勢を整えてオリバーの造船所へ向かった。深夜の街中は日中と打って変わってしんと静まり返っている。


「周囲に不審人物は居なさそうですが……」

「警戒は怠らずに……だな」


 工業エリアに入りオリバーの造船所に近づくと「ガン! ガン!」と何かを叩くような音が聞こえてきた。どうやらその音は格納庫の中から聞こえているようだ。


「中に誰か居ますね」

「電気が消えている。オリバーではなさそうだな」


 オリバーやモニカが作業をしているならば格納庫の電気が点いているはずだ。電気を付けずに何かをしているとなると、人に見られたくないやましいことをしている可能性が高い。

 リーシャとオスカーは格納庫の出入り口へ回る。


「鍵穴の周りが傷だらけだ」


 針金か何かを使って無理矢理開けたのだろう。二人は確信した。中に居るのはあの男たちの仲間だと。


「行きましょう」


 音を立てないようにそっと扉を開ける。中からは変わらず「ガン!」という音が響いているので扉が軋む金属音くらいでは気付かれないだろう。大きな音は飛行船が置いてあった場所から絶えず聞こえているようだ。


(まさか……)


 リーシャが収納鞄から取り出したランタンを灯す。


「うわっ! なんだ?」


 ランタンの灯りに驚いた男が声を上げた。


「あなた達、ここで一体何をしているんですか!」


 飛行船の側に立っている男に向かってリーシャが声を荒げる。男たちの手に大きなハンマーが握られているのが目に留まった。


「うるせぇ! ちっ、あいつらしくじったな!」

「『あいつら』とは私達を襲った方々のことでしょうか」

「そうだよ! 仕方ねぇ、ここでくたばりな!」


 次の瞬間、ハンマーを振りかざしながら向かい来る男たちは「ふわり」という浮遊感を味わった。そしてそれを疑問に思う間もなく、上から吹き付けた強烈な突風によって体を地面にたたきつけられたのだった。


「うう……」


 リーシャは何が起こったのか分からないまま悶絶する男たちを拘束魔法で捕らえると、変わり果てた姿となった飛行船を見てため息をついた。

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