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化石の発掘体験

 チャダルの西部、町から少し離れた場所に大規模な化石の発掘現場がある。

 今でも毎日発掘作業が行われており、世界中から古生物学者が集まり日々研究が行われているのだそうだ。

 この発掘現場の見学ツアーもチャダルの収入源の一つで、博物館を通してツアーに応募すれば誰でも見学することが出来た。


「こんにちは! 見学ツアーへようこそ。

 お二人にはまず、化石の発掘体験をして頂きます。

 こちらにある道具を使って化石を発掘してみましょう!」


 発掘現場の片隅に用意された観光客用の発掘体験コーナーは大盛況だった。

 大人から子供まで夢中になって化石を掘っている。

 岩山の一角が体験用に開放されていて、そこで自由に化石を発掘出来る仕様だ。


(道具は手袋にハンマーとタガネか)


 参加者には発掘作業に使える最低限の装備が支給される。

 岩に打ち込むタガネとそれを打つためのハンマー。そして手を保護する手袋だ。

 どれも本格的とは言い難い、初心者用の道具に見える。

 リーシャは配られた道具一式を持ってまだ掘り尽くされていなさそうな場所に移動した。

 あまり採掘痕のない端の方だ。


「ここら辺でも竜の化石が発掘されているので頑張ってくださいね!」

「ありがとうございます。ちなみに、掘った化石は持ち帰れるんですか?」

「ごめんなさい、持ち帰りはご遠慮頂いているんです」


 あくまでも「発掘体験」なんだそうだ。

 リーシャの斜め前でオスカーは必死にタガネを打ち込んでいた。

 化石がありそうな場所をひたすら攻める。

 今まで見たことが無いほど真剣な面持ちだ。


(ちょっとズルしちゃおうかな)


 案内人がオスカーの方へ行ったのを見計らってリーシャは人気のない場所に移動し、しゃがみこんだ。

 石の選別、内包物の把握は宝石修復師の得意分野である。

 つまり、浅い場所であれば地面に魔力を流してどこに何があるのか探る事が出来る。

 魔力を使った人力探知機(ソナー)のようなものだ。


(ここらへんでやってみるか)


 地面に手を当てるとリーシャは目を閉じて地表からじわじわと魔力を滲ませた。

 普段宝石の修復痕を探るのと同じ要領である。

 土と岩石の継ぎ目、岩石と岩石の継ぎ目を慎重に探っていく。


(……ここには無さそうだな)


 どうやら外れのようだ。

 骨らしきものは見つからない。

 しかし、やり方は合っているようだ。

 地中の様子が手に取るように分かる。


「次はここ」


 オスカーが居る場所から少し離れた岩山の壁面に目を付ける。

 こういう露頭でも化石が見つかる事は多々あるのだ。


(魔力を流して)


 再び魔力で探知を開始する。

 オスカーが必死に地面を掘り返しているのを見ると少しズルいやり方のように思えるが、使える物は使う。

 それがリーシャのやり方だ。


「ん?」


 リーシャの眉がぴくりと動いた。

 右上の方に化石らしきものを見つけたのだ。


「すみません、脚立ってありますか?」


 リーシャは案内人に声を掛けた。

 この場所からだと手が届かないからだ。


「ありますよ」

「では、貸して頂けますか?」


 リーシャは案内人から借りた大きな脚立を壁の前に立てるとその上に登る。

 結構な高さだ。作業に夢中になって落ちないように気を付けなければならない。


「そんな場所に何かあるのか?」


 下から見上げているオスカーに「ちょっと良い物がありそうなんです」と答えるとリーシャは壁面に手を翳した。


「岩よ、汝が抱えている枝葉を我に与え給え」


 そう言葉を唱えると、壁面に光の円が描かれ円柱状の物体がせり出して来る。

 それをゆっくりと地面に下ろすと周囲で見ていた人々が興味深そうに寄って来た。


「さてと」


 脚立から降りたリーシャはハンマーとタガネを手に取る。

 お目当ての品が埋まっている場所は分かっている。

 まずは綺麗に掃除しなければならない。

 石で目安となる線を引いて印をつけると、そこを傷つけないように円柱の両側から余分な岩を削っていく。

 少し二分の一ほどの長さになった所で魔力を流して中身の全体像を把握し、残った岩の上に手を翳して言葉を唱えた。


「岩よ、内に秘めた枝葉を我に捧げよ」


 ぽわ、と淡い光を帯びた岩の塊は金色に光ったかと思うと上部から光の粒となってほどけていく。

 サラサラと岩が消えていくにつれてその下から木の枝のような物体が姿を現した。


「リーシャ、魔法を使うのは卑怯じゃないか?」


 目の前に現れた植物の化石を見てオスカーは苦言を呈する。

 母岩にとりついた美しい枝葉の標本は今発掘されたばかりとは思えないほど綺麗に掃除が行き届いていた。


「すみません、つい」


 そう言いつつもリーシャは得意げな顔をする。

 鉱物採集も宝石修復師の仕事の一つだ。素人には負けていられない。


「ねえちゃんすげー!」

「俺のも掘ってよ!」

「もう一回やってみせてくれ」

「私の掘った化石も綺麗にして欲しいわ!」


 子供や大人に囲まれて引っ張りだこになるリーシャを横目にオスカーは不服そうな顔をした。

 ズルい。そう顔に書いてある。

 オスカーはそそくさと掘っていた場所に戻ると再びハンマーを振り始めた。


「俺だって……!」


(リーシャみたいな化石を掘ってみせる)


 なんだか負けたような気がして仕方がない。

 その後も一生懸命にハンマーを振るったが、結局最後まで化石を掘りだす事は出来なかった。

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