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不滅のリーシャは訳アリ騎士と旅に出る  作者: スズシロ
賢者の学び舎(下)賢者の水瓶
124/258

意外なアイデア

「取ってきたよ」


 ラウラが小さな革袋を手に戻ってきた。


「使いつぶしたオパールなんだが、元に戻せるか?」


 トライユは革袋の口を開くと逆さまにした。机の上にクルミほどの大きさの黒く汚れた石がコロリと転がる。大分汚れているが、オパールらしい。


「元に戻す、というよりも汚れを取り除くという作業になります。形や模様などそのままの再現でなくてもよろしいですか?」

「機能がそのままなら問題ない」

「承知しました」


(それならば簡単だ)


 模様をそのままにと言われなくて安心した。精錬をするには石を一度分解する必要がある。オパール特有の遊色効果をそのまま再現しろと言われたらどうしようかと内心冷や冷やしていたのだ。


「では。石よ、その身に抱いた汚れを捨て去り元の輝きを取り戻したまえ」


 リーシャが言葉を唱えると黒い塊は光を帯び、やがて糸のように解け始めた。その糸から細かい光の粒子が離れ、大きな光の塊と細かい粒子とに分かれていく。

 細かい光の粒子はつむじ風のようにその場でくるくると旋回すると、やがて光を失って黒い粉になった。

 一方大きな光の塊は再びくるみ大の大きさにまとまり、塊にとりついていた光が消えるときらきらと光る透明度の高いオパールが現れる。


「まじか……」


 トライユは愕然としていた。感動したというよりも衝撃を受けたと表現した方が正しいだろう。今まで使い捨てにしていた物が実は再利用可能な物だったのだ。捨ててしまった石のことを考えると頭が痛くなる。


「汚れと一緒にわずかですが石を削ってしまったので、ほんの少し小さくなっていると思います」

「それでも再利用出来るならぜんぜん構わないよ。どこに依頼すれば精錬してもらえるんだ?」

「宝石修復師の組合へ依頼してください。指名しなければ幾分か安くなるはずです。

 形や模様の再現性は問わないと言えばそこまで高くならないはずですし、小さくなった物をひとまとめにする事も出来ますし、少しは節約出来るはずですよ。

 なんなら紹介状も書きますが」

「是非お願いしたい!」

「分かりました。では後で用意しますね」


 一連の流れを見ていたオスカーはあることを考えていた。精錬は不純物を取り除くという性質上、多少なりとも石を削り取ってしまう。

 精錬する回数を減らし、石への負担を減らす方法はないだろうかと。


「質問しても良いだろうか」

「ああ、構わないよ」

「石の力だけに頼るのではなく、濾過装置のようなものを併用するのはどうだ?」


 オパールが吸収できる汚れには限界がある。オパールを使う前に外部装置で出来るだけ水を綺麗に出来れば精錬の回数を減らせるのではないだろうか。


「それならもうやってるよ。石と砂を使った簡易的な濾過装置だけどね。安価で大量に手に入る素材を見つけるのが難しくて」

「安価で大量に……」


 その言葉を聞いたリーシャの脳裏にある素材が思い浮かぶ。故郷に大量に生えていたとある物だ。


「それならば、竹炭を使うのは如何でしょうか」

「タケスミ?」

「竹、ご存じではありませんか?」

「聞いたことがないな」


 首を傾げるトライユに説明するため、リーシャは黒板に竹の絵を描いた。


「こういう、節がたくさんあってまっすぐに伸びる植物です」

「そういえば、イオニアで竹細工を見たことがあるな。確か交易品として入ってきたとか」

「東の方に多い植物なのかもしれませんね。これを切って焼いて炭を作るんです。この炭も多孔質で、浄化作用があるんですよ」

「でも、大量に手に入るものなのか?」

「竹は生命力が高く、手入れをしないとあっという間にあたりを埋め尽くす厄介物としても名高いんです。大量に欲しいと言えば喜んで送ってくれると思いますよ」

「それはいいな」


 収納箱を使えば輸送費もそれなりに押さえることが出来る。現地で加工しても良いし、火魔法の村に依頼をしても良い。悪い話ではない。


「竹炭なら公衆浴場にも使えるかもしれませんね」

「本当か?」

「大量に手に入れば濾過材の交換にも困らないでしょうし、それで魔工宝石の消耗を押さえられれば魔道具の小型化も可能かもしれません」

「……そうか!」


 朗報だ。交易品が流れてくるくらいだ。イオニアならばより一層竹炭を入手しやすいだろう。そう考えるとリーシャの案は現実的なもののように思える。


「やっぱりたまには他者の意見を聞くべきだな」

「ここにいる人みんな違う国で育ったから、自分にない知識持ってる。刺激的」

「そうですね」


 それこそが「賢者の学び舎」の良いところでもある。全世界から集まった魔法師がそれぞれの知識を教えあい、語り合い、高めあうことが出来る。

 その結果新しい魔法がいくつ生み出されたことか。魔法技術の進歩に対する貢献は計り知れない。


「二人は今どこに泊まってるんだ?」

「繁華街近くに宿を取っています」

「よければうちに泊まらないか? 来客用の部屋が空いてるんだ。もっと色々な話もしたいし、よければ他の研究棟も案内するよ」

「宜しいんですか?」

「是非」

「部屋は一つで良いかい?」

「ええ。構いませんよ」


 リーシャとオスカーはトライユの誘いを受けることにした。一度宿に戻り荷物を部屋に運び入れる。砂漠の研究所の三階にある居住区域の一室だった。


「今日の夕飯は簡単なものだけど良いか? あいにく今日は俺とラウラしか居なくてね」

「普段はもっと大勢いらっしゃるんですか?」

「ああ。あと三人。でもみんな遠くの村に出かけていてね。残念だよ。シャウラなんて宝飾品が好きだから絶対話が合うのに」


 トライユはそう言って肩をすくめる。ラウラは「夕飯が出来たら呼んで」と自室へ帰ってしまった。リーシャとオスカーは酒を出してもらい、トライユが夕飯の準備をするのを眺めていた。

 「簡単な物を」を良いながらも大きな肉の塊を捌き、下味をつけて焼いていく手際は見事なものだ。香ばしい肉の香りに腹が鳴る。


「俺の国ではよくこうして肉を焼くんだ。肉を串に刺して香辛料を振って食べたり、タレにつけたりする。親族が集まった時に良く食べるんだよ」

「串焼きですか。ここまで大きな塊ではありませんが、私の故郷にも似たような食べ物がありますね。タレや塩をつけて食べるんです」

「そうなのか。塩もシンプルで良いが、良い肉だからこそ出来る味付けだな。うちの国は保冷庫を持たない家が多いから肉が傷みやすいんだ。だから味の濃いタレや香辛料で味をごまかして食べる」

「なるほど」

「香辛料だけは沢山入ってくるんだ。花の国と交易をしているから」

「花の国と?」


 予想外の名前がトライユの口から出てきた。動揺を悟られまいと平静を装い会話を続ける。


「随分昔にうちの王様に花の国の姫さんが嫁いできて、それ以来香辛料や薬草を輸入するようになったんだ。今や我が国の家庭料理は香辛料だらけさ」

「そんなことがあったんですね」


 花の国の典型的な手法だ。公女を嫁がせた先に特産品である香辛料や薬草、花の販売ルートを作る。実際にこうして成果が出ているのだから公女の犠牲もやむなしといったところか。


「肉と……パンとスープで良いか?」

「十分です。ありがとうございます」

「すまないな。明日はもう少しマシな物を用意するからな」


 砂漠研究所には五人の研究者が在籍しているが全員揃うのは珍しい。他の村へ出張することが多く、家には3人居れば多い方らしい。

 急な出張も多いため食料はあまり買い込まないようにしているのだそうだ。


「ラウラー、出来たぞー」


 階段の下からトライユが声をかけるとラウラがのそのそと降りてきた。


「こんなに大人数での食事、久しぶり」


 食卓に並んだ食事と、食卓を囲むリーシャとオスカーを見てラウラは嬉しそうにつぶやいた。

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