表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不滅のリーシャは訳アリ騎士と旅に出る  作者: スズシロ
賢者の学び舎(上)石の村
114/257

リューデンの杖職人

 翌日、もうすぐ作業が終わるという噂を聞いてかいつもよりも多くの見学客が訪れていた。修復魔法を使って残り少なくなった欠片をつなぎ合わせていく。


「細かい破片がたくさんあったと思うのですが、あれはどうされたんですか?」

「砂粒のような細かい破片は精錬して修復素材として使っています。回収していただいたものは全部残さず使うので安心してください」

「あの破片を精錬しなおしたんですか? 気が遠くなるような作業だ……」


 リーシャを囲む研究者たちは関心しきりだ。はじめは「本当に修復出来るのか」と懐疑的だったようだが、リーシャの修復作業を見学するうちにリーシャに敬意を払うようになったのだ。


「さて、いよいよ残すところあと三つですね」


 修復と照合を繰り返し、欠片の数も三つになった。三つの大きな欠片を前にリーシャは大きく伸びをする。修復する面が大きくなり、修復にも時間がかかるようになっていきた。

 断面には10~15種類ほどの鉱物が露出し、その複雑な模様に合わせて修復素材を流し込まなければならない。

 だが、この大きさになれば欠片同士をテープで固定する事が出来る。魔力の出力を調整する指輪の魔道具を使うことが出来るのだ。


「リーシャ様は杖を使われないのですか?」


 見学者の一人がリーシャに訪ねる。


「私は杖の代わりに指輪を魔道具にしているんです」

「ああ、そうなのですね」

「こちらでは杖を使うのが一般的なのですか?」

「ええ。杖と言っても装飾のある大きな杖ではなく、こうした小さな作業用の杖ですが」


 見学者は懐から15センチほどの細い杖を取り出してリーシャに手渡した。


「付与されている魔法は?」

「魔力の出力制御です。細かい作業をするのに便利で」

「やっぱりそうですよね。私も同じです」

「私はずっと杖を使っているのですが、指輪の方が作業に向いているのでしょうか」

「どうでしょう。指輪の良いところは魔法を使っているのを指先で感じられるところです。杖には杖の良いところがあるのでしょう?」

「はい。魔法を一転に集中出来るのが杖の良いところです。ペンのようなものだと考えると分かりやすいでしょうか。細い線を引いたり点を書いたり、こういう細い杖はそういう細かい作業用の杖なんです」

「杖にもいろいろと用途があるんだな」


 オスカーは意外そうだ。


「範囲魔法ならば大きな核を使った大きな杖、局所的な魔法ならば小さな核を使った細い杖。多くの方はそういう使い訳をしています。細かい作業をするのに過剰な機能は要りませんから」

「なるほど」


 用途によって素材や核の大きさや質を変える。作業用の杖に華美な装飾は不要だし、儀式用の杖ならば見栄えのよい飾りや核が使われる。適材適所なのだ。


「実は、私も杖が欲しいと思っておりまして」

「そうなんですか?」

「修復魔法用の物ではなく風魔法用の、範囲魔法用の杖を作りたいんです。どこかおすすめのお店ってありますか?」

「うーん……」


 研究者たちは顔を見合わせる。リーシャの要望に答えられるような店はあるのだろうかと思いを巡らせているようだ。


「それでしたら、リューデンの杖職人に作らせるのが良いと思いますわ」


 研究者たちの後ろからレアの声がした。人垣の少し後ろから見学していたらしい。


「リューデンは歴史ある魔法国家ですから、古くから杖づくりが盛んなのです。我が一族が代々贔屓にしている杖工房があるので、貴女さえ良ければ紹介いたします」

「確かにリューデンの杖職人なら間違いないですね」


 レアの提案を聞いた研究者たちは納得したようにうなずきあう。


「そんなにリューデンの杖は良いんですか?」

「ご存じかとは思いますが、リューデンはあの魔法教会よりもずっと前から魔法の研究が行われている魔法国家なんです。杖だって、魔法教会の祭具よりも前から使われていて、独自の技術や技法が発展しているんですよ」

「リューデンというのはそんなに歴史がある国なのか」

「リューデン、グロリア、ローデンは魔法三国と呼ばれ、西方地域において特に古い歴史を持った国です。もっとも、その魔法技術が世に出たのは魔法教会が世界に魔法を広めてからで、それまでは門外不出の秘術として扱われていましたが」

「そういう歴史から、学び舎には魔法三国の出身者が多いんです。立地的にも近いし、魔法を生業としている家の人間がほとんどなので」

「そうなんですか」


 なるほど。レアは三国の歴史を誇りに満ちた声で語った。おそらく魔法三国の人間は自らの国の歴史に誇りを持っているのだ。

 世界に魔法が満ちるずっと前から魔法を使っていたという優越感というか、しきりに「魔法教会」の名を出す所を見ると、魔法教会発足以後に魔法を学んだ者たちとは違うという選民思想のようなものがあるのかもしれない。


「なににせよ、杖を作るならば彼女の言うようにリューデンで作るのが良いでしょうね。三国の中でも名高い職人が多い国ですから」

「……考えておきます」


 レアだけでなくほかの研究者たちも太鼓判を押すほどリューデンの杖職人葉有名なのだろう。だが、


(レアに貸しを作りたくない)


 魅力を感じない訳ではない。むしろ、なにもなければ喜んで足を運んだだろう。問題なのはリューデンがルドベルト家のお膝元だと言うことだ。

 しかも、レアは「一族御用達の職人を紹介する」と言っている。リューデンへ行くとなればルドベルト家と関わりあいになる可能性が高いし、レアにも恩が出来てしまう。

 それが嫌で、リーシャは結論を出さずに曖昧に言葉を濁した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ