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不滅のリーシャは訳アリ騎士と旅に出る  作者: スズシロ
賢者の学び舎(上)石の村
110/257

技術は見て盗め

 修復魔法の第二段階が終了した。修復作業により欠片の量は半分まで減り、今度はその欠片に番号を振り、ペアを探していく。最初と同じ作業だ。


「量が半分になったとはいえ、まだまだ先が長そうですね」


 番号を振りながらリーシャが愚痴をこぼす。思った以上に時間がかかっていることに不満を覚えているようだ。


「大きめの欠片はわかりやすいが、正直塵のような細かい破片はどうにもならんな」

「それはもう仕方ないですよ。砂みたいな細かい破片は一度分解して修復素材に使いましょう」


 とりあえず大きめの破片をくっつけていって、どこにくっつくのかは分からないほど細かい塵は後ほど分解・精錬して隙間を埋めるのに使用する。

 見た目で違和感が出なければいいのだ。うまく埋めればいい。


「これが終われば大分形が見えてきそうですが」

「元の宝石が大きすぎる」

「一体なぜこんなことになってしまったのでしょう」


 まさに至宝。だが、結局なぜこうなってしまったのかは未だに分からないままだった。


「あれだけ大事にされていて、ケースの中で厳重に保管されていたはずなのにどうしてこんなに粉々になったのか……。理解に苦しみます」

「せめて理由くらいは教えてくれても良いものだが」

「案外誰も知らないのかもしれませんね。展示室はあまり人の出入りがなさそうですから、目撃者がいなくてもおかしくはありません」

「……」


 収蔵庫はともかく、普段展示室はほとんど使われていない。ここで大きな物音がしたとして、それに気づく者はいないだろう。


「まぁ、報酬がもらえれば理由が分からないままでもかまいませんけどね」

「そうだな」


 結局はそこだ。


「でも、ちょっとわくわくしますね。完成したらどのような姿になるのか楽しみではありませんか?」

「それはそうだろう。こうして時間を欠けている分、余計楽しみだ」

「今回はオスカーにも随分と手伝ってもらっていますからね。愛着も沸くでしょう」

「ああ」


 普段はリーシャの作業を見ているだけだが、今回の修復ではオスカーも組立作業で助力をしている。だんだんと組み上がっていく様子を見ていると何ともいえない達成感のようなものを感じる。


(小さい頃に船の模型を組み立てた時の気持ちに似ている)


 少しだけ子供の頃に戻ったような、そんな心持ちだった。


「この量なら明日には終わりそうですね」

「そうだな」


 欠片が大きくなった分、ペアを捜すスピードもあがった。最初よりはスムーズに次の段階に進めそうだ。


「失礼しますわ」


 バタン! といきなり扉が開いた。


「……また貴女ですか」

「何か?」

「いえ、別に。また監視ですか?」

「……そうです!」


 レアは部屋に入るやいなやリーシャの隣に陣取ると番号を振った欠片を手に取る。そしてそれをいろいろな角度から観察し始めた。


「あの、ここに居るつもりなら手伝ってくださいね」

「分かっています!」


 ツンとした態度とは裏腹に真剣なまなざしで欠片を見つめる。レアは魔力の残滓を観察していた。

 魔法を使った際に残る術者の痕跡。その痕跡を見ればどの箇所を修復したのか一目でわかる。


(ぱっと見ただけではどこを直したのか、どこが欠片同士の境目だったのか全く分からない。いえ、残滓をたどらないと修復痕が全く見えない。完璧な修復だわ)


 まるでそれが元からそうであったような、完璧な修復。普通の宝石、つまり単一の宝石ならば分かる。むしろ違和感なく修復出来なければ宝石修復師失格だ。

 だが、複数の、欠片によっては三種類、四種類が融合している欠片同士を全くの違和感無く修復するなんて可能なのだろうか。


(目の前にこうしてあるということは、不可能ではないのだわ)


 驚異的な技術だ。


(どうすればこんなことが……)


 こんな小娘に。レアは悩ましげにリーシャを睨みつけると欠片の照合作業をはじめた。手伝う気はあるようだ。

 分からないならば聞けばいい。リーシャに頭を下げて教えを請えばいい。だが、レアのプライドがそれを許さなかった。


 魔工宝石の名家の娘がどこの誰とも分からぬ娘に頭を下げることなどあってはならない。そんなところを誰かに見られたらと思うと到底そんなことは出来ないのだ。

 とすると、レアが取れる選択肢は「見て盗む」ことだけだった。出来るだけ近くでリーシャの技を観察し、手法を考察して真似をする。

 これでも才女と言われる腕がある。理解できれば技を盗めるはず……。


 レアの熱い視線を感じながらリーシャは作業を続けた。


(気が散る……)


 部屋に入ってきてからというもの、レアはじーっとリーシャの手先を見つめてばかりだ。なにを考えているのかは分からないが、作業に集中出来ない。


「あの、何ですか?」


 しびれを切らしたリーシャが口火を切った。


「先ほどからずっと私の手先を見つめているようですが、集中できないのでやめてもらえませんか?」

「なっ……み、見てなんて!」

「大方、リーシャのやり方が気になるのだろう」

「は!?」


 オスカーに図星を突かれたレアは思わず大きな声を出してしまった。


「あー、そういう……」

「違いますわ。なぜ私が」

「リーシャの技量の高さに驚いたのだろう。リーシャの技は普通では考えられない驚くべきものだとフリッツが言っていた」

「つまり、私の技を見て盗もうとしたと」

「違います!」


 名家の令嬢が盗みを働こうとした。そんな疑いをかけられて、しかもそれが本当のことだったのでレアは恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして硬直した。


「私はただ! あなたが勝手なことをしないか監視をしにきただけですから!」

「……まぁ、そういうことにしておきます」


 これ以上虐めるのはさすがに酷だ。顔を真っ赤にして俯くレアをそれ以上追求することはせず、三人は黙って黙々と作業を続けた。


 第三段階の作業が終わったのはその日の夕方だった。人手が増えたのもあるが、黙々と作業したことによって作業の速度があがったのが大きい。


「ありがとうございます。貴女のおかげで大分早く終わりました」

「……いえ」

「明日は朝から修復魔法を使った作業をする予定です。よろしければまた見に来てください」

「えっ?」


 荷物を片づけ終えたリーシャはそう告げるとレアの返答を待たずに作業部屋を後にする。レアはぽかんとしてしばらくその場に立ち尽くしていた。


「いいのか?」

「何も言わずに横からじーっと見られるよりましです」


 どうせ何も言わずとも明日またやってくるに違いない。だったらいっそのことこちらから誘った方が気が楽だ。

 正直なことを言えば、レアにはあまり関わりたくない。ローナの孫だとばれたら面倒だし、彼女の実家に告げ口でもされたら大変なことになりそうだからだ。

 だが、魔法をもっとうまく使えるようになりたいという気持ちは汲むべきだと思った。こうして足繁く通って技を盗もうとしているのだ。その向上心は評価するべきだと。


(直接教える気はないけど、見て理解出来るならばそれは彼女の才能と努力の賜だ)


 不器用だがひたむきな姿勢は嫌いではなかった。


「精錬素材が足りなくなるかもしれないので、少し追加しておきましょうか」


 帰宅する前に明日必要になりそうな素材を収蔵庫から回収する。明日の修復が終われば大分終わりが見えてくる。どうなることかと思ったが、なんとかなりそうで良かったとリーシャは安堵した。

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