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不滅のリーシャと破滅のオスカー  作者: スズシロ
賢者の学び舎(上)石の村
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自然干渉魔法

 食事を終えたリーシャとオスカーは店の外で自然干渉魔法の講義を受けていた。小さな苗木を店の側の地面に植えるという内容だ。


「まずはこの苗木の意思を読みとります。苗木を植えて魔法をかけるとどのような土が好きか教えてくれるんです」


 穴を掘って苗木を植えるとトリヤは苗木に手をかざして「君の好きな土を教えて」と小さく呟いた。すると、苗木が黄金色の光を帯びてピコンと小さく揺れる。


(本当に植物に意思があるみたい)


 その様子を見てリーシャは驚いた。植物の意思をくみ取るというのは何かの比喩だと思っていたからだ。


「この子はもう少し柔らかくて水分が多く、栄養が多い方が好きみたいです」


 トリヤは倉庫から肥料と水を持ってくると適量を苗木の前に置き、言葉を唱えた。


「豊穣の神よ、彼が望む土を与え給え」


 肥料がふわりと浮き上がり、液体状に溶けて土に染み渡る。その上から如雨露で水を撒くと土が盛り上がり、綿がはじけるようにもこもこと土が解れていった。


「すごい……」


 はじめて見る魔法だった。これならばイオニアでも野菜が育つ。驚愕の色を隠せないオスカーの横に立つリーシャにもそれがはっきりと分かった。


「素晴らしい、素晴らしい魔法だ」


 オスカーはやっとの思いでその二言を絞り出した。ずっと探していたのだ。乾いた土地に実りをもたらす魔法を。ネックは水だが、水さえ確保してしまえばどうにでもなる。欲しい。この魔法が欲しいと心が震えた。


「そんなに誉められると照れますね」

「謙遜する必要はない。ずっと探していたのだ。この魔法を」

「え? どういうことですか?」

「いや、俺の国は乾燥した土地が広がっていてな。自国で野菜や果物を栽培するのが難しく他国に頼りきりなのだ。だが、それだと何かあったときに心もとないだろう。

 自国の食料は自国で生産出来るようにしたい。それが俺たちの願いだった。だから、国を潤し緑と恵みを得る方法を探していたのだ」

「……」


 トリヤはしばらく何かを考えたのち「なるほど」と言った。


「つまり、パトロンになって頂けると?」

「パトロンと言えるかは分からないが、是非我が国にご教授頂きたい。そのための援助ならば、父上も快く引き受けてくれるだろう」

「失礼ですが、貴方は……」

「ああ、申し訳ない。内密にして頂きたいのだが、これでもイオニアの王子なのだ」

「……なんと! 王族の方とは知らず、失礼いたしました!」

「ああ、かしこまらないでくれ」


 膝をつくトリヤに慌てたオスカーは手を取って引き起こした。


「詳しい話をしたい。これから時間はあるか?」

「もちろん。店を閉めれば良い話ですから」

「ありがとう」


 店に閉店の看板をかけて交渉に入る。温かいハーブティーを飲みながら、トリヤとオスカーは話を重ねた。オスカーの提案はトリヤにとっても願ってもない話だ。自分の魔法を評価し、導入したいと言ってくれる。それがとてつもなくうれしかった。


「魔法をお教えするならば、私がここを出るよりもイオニアから何名か人を呼んで頂くのがよろしいかと」

「なるほど。その方が貴方にとっても安全か」

「はい。外に出ると要らぬ諍いを生むことになるかもしれませんから。それに、ここならば様々な魔法、国や文化に触れることが出来ます。貴方の国にとっても大きな実りとなるでしょう」

「ふむ。そうだな」


 トリヤの言うことには一理ある。イオニアにはまず魔法という物を学び、理解しなければならない。安全に魔法を学ぶという意味では賢者の学び舎はうってつけだ。


「だが、素人がここで学ぶことは可能なのか? 見たところ熟練の研究者ばかりのように思うが」

「弟子や生徒と言う形で滞在するならば問題ないでしょう。曲がりなりにも学校ですから。敷居が高そうに見えますが、誰でも歓迎のはずですよ」

「そうか。では早速、父上に手紙を送って何名か見繕ってもらおう」

「かしこまりました」


 大体の話がまとまったようだ。オスカーとトリヤは堅い握手を交わすと満足そうに抱き合った。


「では、今日はこれで」


 みやげとして何本かパンをもらい、トリヤの店を後にする。


「良かったですね」


 上機嫌なオスカーにリーシャも心なしかうれしそうだ。


「ああ! 最高の日だ。どうだ、今日は町でパーッと飲まないか?」

「食べたばかりじゃないですか」

「腹ごなしにちょっと遠くの町まで出かけよう。そんな気分なのだ」

「仕方がないですね」


 午後の作業を取りやめて少し遠くの町まで馬を走らせる。こんなに体が軽かったとは。オスカーは心に抱えていた重りが外れたようでなんとも軽やかな気持ちだった。

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