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【15章】不滅のリーシャは訳アリ騎士と旅に出る  作者: スズシロ
賢者の学び舎(上)石の村
102/202

祖母の痕跡

(似ている)


 銀髪の女性はリーシャに良く似ていた。リーシャの見た目よりも少し年上だろうか。ぱっと見てリーシャが写っていると勘違いしてしまいそうなほど良く似ている。


「……」


 フリッツとレアも同じことを考えたようで、しきりにリーシャと写真に写るローナの顔を見比べていた。


「リーシャさん、失礼ですが彼女と何かご関係が?」

「こちらに親戚が居るとは聞いたことがありませんね。私は遠く離れた国の生まれですので人違いでは? 世の中には三人似た人が居ると言いますし」

「……そうですよね!」


 あっさりと否定するリーシャにフリッツはどこか安心したような反応を見せた。


「それで、いかが致しましょう。もちろん、お断りいただいても問題ありませんが……」

「受けます」


 リーシャは即答した。


「宜しいのですか?」

「はい。ただ、修復にはそれなりに時間がかかると思うのでしばらくこちらに滞在させて頂いても宜しいでしょうか」

「もちろんです。ちょうど使っていない空き家があるのでそちらをお使いください」

「分かりました」

「修復に必要な素材があれば声をかけてください。下の収蔵庫に揃っておりますので」

「ありがとうございます。では、明日から作業開始しますね」

「宜しくお願いします」


 二人のやりとりをレアはつまらなさそうな顔で眺めていたが、話がまとまると「それ以上壊したら承知しないからね」と言って去っていった。

 空き家の鍵と研究棟の入館証を受け取った後、リーシャとオスカーは貸し馬を借りて近くの町に買い物に出かけた。

 長期滞在になりそうなので食料や生活必需品の買い出しに出たのだ。


「リーシャ、さっきの写真だが」

「私の祖母です」

「やはりそうなのか」

「ええ。おそらくここが祖父と出会った学校とやらなのでしょう。探せば祖父の写真もどこかにあるかもしれませんね」

「では、あのレアという女性は」

「母方の親戚でしょう。ルドベルトというのが祖母の姓だったんですね」


 リーシャ自身、先程の話を聞いて初めて知った。祖父の家に嫁いだ時点で祖母はルドベルト家に勘当されていたし、祖母も自分の生家について話すことがなかったからだ。


(祖母の若い頃は確かに私に良く似ていた。だから祖母が私を特別可愛がったのも分かる)


 母や妹と比べてリーシャは祖母の特徴を良く継いでいた。魔法の才能や容姿、そして特徴的な銀よりも少し灰色に近い髪の色。


「祖母以外で同じ髪色をしている人を見たのは初めてです。ルドベルトからきた髪色なんでしょうね」

「俺もリーシャ以外では初めて見たよ。ルドベルト家特有の物なのだろうか」

「さあ……。他にリューデンの人間を知らないのでなんとも」


 この髪の色がルドベルトやリューデン特有の物ならば、レアはリーシャの容姿を見て何か感じ取ったはずだ。


(面倒事にならないと良いけど)


 絶縁しているとはいえ、「偉大なる魔法師」である祖母は未だにルドベルト家に多大なる影響を与えているようだ。リーシャがその孫だと分かれば接触してくる可能性もある。正直、あまり関わり合いになりたくはないというのが本音だ。

 とはいえ、ここに滞在する以上レアとの接触は避けられない。難易度の高い依頼に加えて余計な心配事が増えたとリーシャは頭を悩ませた。


 * * *


 朝、目が覚めたら顔を洗って朝食を作る。リーシャよりも早く起きて走り込みをしているオスカーが帰ってきたら一緒に朝食を食べ、服を着替えて研究棟へ向かう。

 まずは砕け散った欠片を元の形に組み立てなければならないので、机の上に一つずつ並べて一つ一つ凝視しながらくっつきそうなパーツを探していく。

 気が遠くなる作業だった。


「目が痛くなるな」


 リーシャと一緒に欠片を組み立てているオスカーが目元に手をやる。


「適当に休憩してくださいね。急いでどうなるものでもありませんし」

「分かっている。それにしても、一体なにをどうしたらこんなことになるんだ?」


 依頼品は拳大の大きな宝石である。その右上四分の一ほどが砕けて無くなっている。


「固い床に落としたとか、ハンマーで叩き割ったとかそんなところでしょう」

「強い衝撃が加わったと?」

「おそらく……。複数の鉱物の結合体ですから、鉱物と鉱物のつなぎ目に沿うようにして砕けたのかもしれません」

「それでこんなに細かい破片が多いのか」

「フリッツさんから何も伺っていないので、想像でしか有りませんが」


 依頼品が何故こうなったのか、フリッツはその理由をリーシャに語ることはなかった。依頼品の破損理由を伝えないのは珍しいことではない。良くあることだ。

 宝石修復師の仕事は直すことであって詮索することではない。魔道具の核のように使い方が破損の原因だと思われる場合は「何故壊れたのか」と尋ねることもあるが、宝飾品や標本の場合は特に修復師側から原因を尋ねることはなかった。

 大抵の客は自分から理由を話してくれるが、そうでない客もいる。だからと言って無理矢理聞き出す必要もないというのが宝石修復師のポリシーだった。


(面倒事に巻き込まれたくないし、言いたくないなら聞く必要はない)


 組合を通した仕事でも、たまにきな臭い仕事がある。面倒事を避けて自分の身を守るという意味でも詮索しないのは賢明な判断とも言える。

 修復には大金がかかる。その大金が綺麗な金とは限らない、ということだ。


「まずは大きめの破片に隣り合う破片を探していきましょう」


 大きめの破片と細かい破片をより分け、大きめの破片の断面にぴったりと合う破片を探すことにした。


「欠片ごとに色が違うのでそれを参考に探すと分かりやすいかもしれません」


 20種類の鉱物の欠片をランダムにつなぎ合わせているため、砕けた欠片も複数の鉱物で構成されている。そのため断面の色や模様が同じ欠片を探せば自ずと隣り合わせになるという訳だ。


「似たような模様と色の欠片を集めてみよう」

「そうですね」


 効率を上げるために欠片に組み込まれた鉱物の組み合わせが似ている物をグループごとに分けていく。これがまた時間のかかる作業で、その日は選別作業だけで終わってしまった。

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