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【15章】不滅のリーシャは訳アリ騎士と旅に出る  作者: スズシロ
賢者の学び舎(上)石の村
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複雑怪奇な依頼品

 「石の村」は56研究棟を中心に形成された宝石魔法を研究する人々の村だ。「石の村」というのは住人たちが勝手に名乗っている名称で、正式名称は「56研究棟の村」である。


「56という小さい数字なだけあって、実はこれでも首都から近い方なんですよ」


 馬屋に馬を入れながらフリッツは言う。


「その数字は何を表しているんだ?」

「研究棟ができた順番です」

「数字が小さいほど古い村ということですね」

「おっしゃるとおりです。初めは皆首都の周辺に村を作っていたのですが、段々と手狭になって遠くへ遠くへ作るようになったのです。なので、特に理由がない場合は数字が小さいほど首都に近く、大きいほど首都から遠くなっています」

「理由があって遠くに作っている村もあるのですか?」

「はい。たとえば船や水に関する魔法を扱う村は水場や海に近い場所を選んだり、植物に関する魔法を扱う村は自然が豊かな山間を選んだり……必要なものに応じて土地を選んでいる村も多いんです」

「本当に色々な研究をしているんですね」

「それはもう。何年居ても回りきれないくらいですよ」


 一つ一つの村に個性があり、じっくりと見て回ったら数年かけても回り切れないと専らの評判だ。


「私もここへきたばかりの頃は色々な村を巡ってみたのですが、村へ行く度に丁寧な歓待や説明を受けて二週間で村巡りをあきらめました」

「研究者は語りたがりですからね」

「その通りです。さぁ、依頼品の元へご案内します。こちらへ」


 56研究棟は煉瓦づくりの三階建ての建物だ。研究棟とは名ばかりで、実際は研究に使用する鉱物や宝石の収蔵庫らしい。

 扱っている物が物なだけに入り口には警備兵がおり、窓には鉄格子がはめられていた。

 リーシャとオスカーが案内されたのは三階の展示室だ。卒業生が残していった成果物を展示している場所のようで、ガラスケースの中に宝石や鉱物、宝飾品などが納められていた。


「こちらです」


 フリッツはその中の一つ、ひときわ大きな宝石が入っているガラスケースの前で立ち止まる。


「これは……何ですか?」


 リーシャは思わずそんな言葉を口走る。目の前にある宝石が何なのか、リーシャには分からなかったのだ。

 小さな西瓜ほどの大きな宝石が大きなクッションの上に乗せられている。ラウンドブリリアントカットを施された巨大な宝石は、七色に光り輝いていた。

 オパールのように遊色効果が有るわけではない。様々な種類の宝石が混ざり合い、モザイクタイルのように複雑に絡み合っている。

 何かの衝撃で割れたのか一部が大きく欠けおり、その破片と思わしき物が透明なケースに入れられて横に置かれていた。


「様々な宝石が混ざり合っているように見えるのですが」

「そうです。これは魔工宝石の研究をしていた学生が残した成果物で、20種類の宝石を組み合わせて作った魔工宝石なのです」

「20……!?」


(信じられない。そんなことが可能なのか?)


 異なる石をつなぎ合わせて一つの魔工宝石を作る。その製法自体は慣れてしまえばそこまで難しくはない。リーシャも冠の国でルビーとサファイアの混合魔工宝石を作った。

 しかし、それはあくまでもルビーとサファイア、エメラルドとアクアマリンなどの同一鉱物を使う場合だ。全く異なる鉱物を使って魔工宝石を作る……しかも20種類もの鉱物を組み合わせて一つの石を作るなど常軌を逸している。


「なるほど、怖くて修復できないとおっしゃる意味が分かりました。異なる鉱物の複合魔工宝石、しかもこんなに複雑な作りをしている物に手を加えるなんて怖いに決まっています」


 この魔工宝石の嫌らしいところは、ただ均等に20種類の石を貼り合わせている訳ではないところだ。20種類の石の小さな欠片を立体パズルのピースのように寄せ集めて複雑なモザイク模様を作り出している。

 砕け散った欠片自体も複数の石が混ざり合った結晶体であり、それを元合ったように修復するにはまず元々どのように繋がっていたか復元しなくてなはならない。

 復元に成功したとしても、その後には複雑に溶け合った石と石の継ぎ目を修復魔法で違和感なく埋めていくという気が遠くなるような作業が待っている。


(普通の宝石を修復するのとは訳が違う。継ぎ目に接している宝石と同じ宝石で修復しないと跡が目立つ)


 元の宝石と同じ見た目に戻すだけでなく、中身も元の状態に修復するとなれば、その難易度はとてつもなく跳ね上がる。


「やはり、無理でしょうか……」


 「やはり」という言葉が出たということは、フリッツも無理を承知で依頼をしたのだろう。それもそうだ。宝石魔法の研究者がこぞって匙を投げたのだから、一介の宝石修復師に扱える代物ではない。


「この魔工宝石を作った方はどんな人なんですか?」

「今から70年ほど前に卒業された女学生で、確か名前は……」

「ローナ・ルドベルト。偉大なる魔法師、と言った方が分かりやすいかしら」


 声がした方へ振り返ると一人の女性が立っていた。銀よりも少し暗い灰色をした髪を長くのばした若い女性だ。


「レアさん、いらしていたんですか」

「それは我がルドベルト家の家宝にも等しいもの。変な修復をされたら困りますもの」


 レアと呼ばれた女性はリーシャを一瞥すると馬鹿にしたように笑った。


「そんなに大切な物ならば、貴女が修復すれば良いのでは?」


 リーシャがにこりと微笑みながらそう返すと、レアはむっとした様子でリーシャを睨みつける。


「これは我々のような優秀な研究者でも直せないほど卓越した技術で作られた物なのです! 貴女みたいな子供が触って良いものではないわ!」

「私は組合から指名されてここに来たのです。この依頼をこなすのに十分な実力があると認められています。文句があるなら手配をした組合に言ってください」

「一端の修復師が生意気な……」

「レアさん」


 二人の言い争いを見かねたフリッツが仲裁に入る。


「みんなで話し合って決めたことではありませんか。今更どうしてそのようなことを言うのです。それとも、リーシャさんがおっしゃるように貴女が修復してくださると?」

「それは……」


 返す言葉がなくなり俯くレアにフリッツは浅いため息をついた。


「これがあなたの家にとって大切なものだというのは良く分かります。ですが、そのルドベルト家の方でさえ修復を拒んだ代物です。もう私たちにできることはないとお分かりでしょう?」

「あの、失礼ですが……ルドベルト家とは?」


 話に割って入ったリーシャの言葉にレアとフリッツは顔を見合わせる。「知らないなんて信じられない」といった表情だ。


「ルドベルト家はリューデンの名家です。魔工宝石を世界で初めて完成させたと言われ、現代魔工宝石魔法の祖とされています」

「リューデンですか。確かここから少し北にある国でしたっけ」

「はい。古くから魔法の研究が盛んな国で、学び舎にも大勢の学生が在籍しているんですよ。この宝石を作ったローナ・ルドベルトもその一人でした。ほら、あそこに写真があるでしょう?」


 展示室の壁には過去に「石の村」に在籍をしていた学生の写真が飾られている。その中の一枚、二人の女学生が写っている写真をフリッツは指さした。

 写真には銀よりも少し灰色に近い髪をした女性と赤くてウェーブのかかった髪をしている女性が写っている。


「この写真……」


 写真を見たオスカーがぽつりと呟いた。

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