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【15章】不滅のリーシャは訳アリ騎士と旅に出る  作者: スズシロ
賢者の学び舎(上)石の村
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学園国家

 田園風景が広がる田舎の一本道を馬車が行く。殺風景な景色にそぐわず人や馬車の往来が激しい。皆一本道の先にある都市を目指す人々だ。


「学園国家か。国そのものが学園――いや、学園そのものが国とは驚きだな」

「何にも干渉されない、研究者を守るための苦肉の策だそうです。どこかに所属するということはその統治下に入るということ。少なからず干渉を受けますから」

「研究の自由を守るため、か」


 学園国家「賢者の学び舎」はどこの国にも所属しない独立国家である。

「首都」とされる「学園」と、研究棟を中心とする居住区域「村」で構成され、大勢の才能溢れる研究者がそこで生活をしている。

 どの国の命も受けず、貴族の特権も受け付けない。誰もが自由に好きなことを研究出来る「研究者の楽園」だ。


「だが、研究をするのならば都市に近い方が便利なのではないか? なにもこんな田舎に作らなくとも……」

「それが、そうでもないらしくて」

「なにか理由があるのか」

「ほら、あそこに集落が見えるでしょう?」


 リーシャは荷馬車の後部から頭を出して後方の丘の上に見える建物を指さした。


「あれが『村』と呼ばれる学び舎独特の集落です」

「村? 独特の、ということは普通の村とは違うのか」

「この国における『村』とは、研究棟を中心とした小さな集落のことを指します。同じような種類の研究をしている研究者が集まって『村』を作り居住する。そういう文化なのだそうです」

「では、研究の数だけ集落があると」

「はい。そして、その数は年々増え続けている。学園には『卒業』という概念がないらしく、一生ここで研究を続ける人もいるんだとか。そうなると『村』は増える一方ですよね」

「そうか、村を作り続けるには土地が必要だから都市ではなく田舎に学園を作ったのか」

「まぁ、それは後付けの理由で、最初はただ単に学園を作るだけの土地が都会に無かっただけだと思いますけどね」


 しばらく進むと大きな門が見えてきた。「首都」と呼ばれる学園の入り口だ。

 首都には事務棟や講堂、食堂など一般的な学園施設が集まっている。手続きや申請は首都で行い、普段の生活は村で行うといった役割分担がなされているようだ。


「着きましたね」


 首都の停車場に到着した。一大研究都市というだけあり大きな停車場にひっきりなしに馬車が入ってくる。停車場の向かいには事務棟があり、そこで研究者への面会の手続きなどが出来るようだ。


「随分立派な建物だな」


 事務棟は石造りの立派な建物だ。彫刻などの華美な装飾はないが、古くからある建物のようで威厳がある。大きな柱を中心としたまるで神殿のような風貌で、学園の事務棟だと言われてもにわかには信じられない作りをしていた。


「隣には世界一大きなギルドがありますよ」

「なに?」


 その大きな神殿風の建物の横には、これまた立派な巨大建築がそびえ立っていた。雰囲気を統一するためなのか事務棟と似たような神殿風の外観だが、高さがありまるで塔のようだ。


「これがギルドなのか?」

「ええ。研究者への仕事はこのギルドを通して行うそうです。国民のほぼ全員が研究者であり、その数だけ職種があるので組合の数も膨大らしく、既存の窓口で捌ききれなくなったらその都度魔法で増築しているんだとか」

「それでこんな形をしているのか」


 下層階こそ神殿風の作りをしているが、上層階になるにつれで何とも言えない芸術的な形へと変わっている。これは足りなくなった窓口を魔法で適当に増設しているからなのだそうだ。


「このおかしな見た目が話題になり、今ではわざわざこれを見に来る観光客もいるそうですよ」

「物好きだな……」

「愛好家というのはそういうものです」


 リーシャは収納鞄から一通の依頼書を取り出した。今回学園都市に来たのは学園の事務棟からの依頼を受けたからだ。

 何でも、「大切なものが壊れてしまったので直してほしい」とのことで、近くにいる宝石修復師の中で一番腕がよいリーシャに白羽の矢が立ったのだった。


「依頼主は事務棟の責任者の方のようです。まずは事務棟に顔を出しましょう」

「分かった」


 事務棟の入り口を入ると案内板がある。一階は来客向けの窓口で、二階以上が学生向けの窓口のようだ。一番入り口に近い場所に案内所があり、その奥に面会受付や面談所、会議室などが備わっている。


「こちらの責任者の方から依頼を受けて参りました、宝石修復師組合のリーシャです」

「お待ちしておりました。13番の面談室でお待ちください」


 受付で依頼書を見せると面談室へ行くよう指示を受けた。受付の奥には背丈より少し高い衝立で仕切られた面談スペースと、小さな面談室が並んでいる。それぞれの入り口には番号が振られており、そこで面会相手と待ち合わせをする仕組みのようだった。


「13……ここですね」


 リーシャがとオスカーが案内されたのは個室型の面談室だ。壁に防音材が敷かれているようで、衝立で仕切られた面談スペースよりも内密な、他の者に聞かれたくないような話もできる仕様になっているようだ。


「失礼します」


 面談室でしばらく待っていると、コンコンと扉を叩く音がした。


「大変お待たせ致しました。遠いところをご足労頂きありがとうございます。事務局長のフリンダです。こちらは56研究棟の管理人をしているフリッツです」

「初めまして。56研究棟の管理人をしておりますフリッツと申します」

「ご丁寧にありがとうございます。宝石修復師組合から参りましたリーシャと申します。こちらは護衛のオスカーです。依頼はフリンダ様から頂いたもののようですが……」


 面談室に入ってきたのは初老の女性フリンダと壮年の男性フリッツの二名だ。フリンダは「その通りです」と言うと事情を説明し始めた。


「実は、今回修復して頂きたいのは56研究棟に飾られている魔工宝石でして……」

「飾られている? 魔道具の核とかではなく、魔工宝石そのものの修復ということでしょうか」

「ええ」


 フリンダの言葉にリーシャは疑問を覚えた。


「あの、失礼ですが魔工宝石の修復ならばこちらに在籍しておられる研究者の方でも可能なのでは?」


 研究者はその道の魔法の達人だ。もちろん宝石修復の研究者だっているはずだ。わざわざ宝石修復師組合に依頼しなくとも、並の修復師よりも綺麗に修復できると思うのだが……


「それが、皆口を揃えて修復するのが怖いと言うのです」

「怖い?」

「実際に見ていただいた方が早いでしょう。どうぞ56研究棟へお越しください。お二人は馬を扱えますか?」

「ええ」

「では、貸し馬を借りましょう。村までは距離がありますから」


 フリッツはそういうと二人を事務棟の側にある馬屋へ案内した。馬屋には何頭も馬がつながれており、「賢者の学び舎」の中であれば無料で利用することができるらしい。


「学び舎の中にはいくつもこうした馬屋があるのです。村一つにつき必ず一つ、大きな町ならば複数。借りた場所とは異なる馬屋に返却することも可能です。

 何せ一つの国ですから、村や町の間を移動するのが大変で……」

「学園側が移動手段として無償提供していると」

「その通りです」

「馬車も通っているようだが」

「通ってはいるのですが、経由するのは所属人数の多い大きな村や町だけなので小さい村に住んでいる人間にとっては貸し馬の方が便利なんですよ」

「そうなのか」

「家を一件建てただけでも村として登録できるので、そういう細かい部分まではどうしても……」

「なるほどな」


 大多数は同じような研究をしている人間と村を作り共同生活をしているが、中には群れるのを嫌い一人で生活をしている者もいる。

 他の村や町の近くに住んでいるならばいいが、遠く離れた僻地でひっそりと暮らしている研究者も多く、そこまではカバーしきれない。

 そうなってくると経路や時間が決まっている馬車よりも融通が利く馬の方が便利という訳だ。


「で、私たちがこれから行く56研究棟というのは?」

「宝石魔法に関する研究者が集まる村です」

「え?」


 リーシャは思わず「宝石魔法ですか?」と聞き返した。それならなおさら修復師を呼ぶ必要はないのではないか。なにせ宝石に関する専門家の集まりなのだから。


「不思議に思われたでしょう。何故宝石魔法の研究者が集まっているのにわざわざ宝石修復師に依頼をしたのか」

「ええ。専門家がおそれるほど複雑な修復なのですか?」

「……はい。複雑怪奇といいますか。見ていただければ分かると思うのですが」


(複雑怪奇)


 複雑怪奇な魔工宝石とは一体どんなものなのだろうか。貸し馬に跨がり首都から56研究棟へ向かう。馬を走らせて30分ほどすると低い石垣に囲まれた小さな集落が見えてきた。


「あそこが56研究棟、宝石魔法研究の村です」


 フリッツに案内されて村の入り口にある門をくぐる。石をアーチ状に組んだ門の上部には「石の村」と書かれたなんとも簡素な看板がかけられていた。

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