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不滅のリーシャは訳アリ騎士と旅に出る  作者: スズシロ
宝石修復師の拾い物
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戦の備え

 数日後、国境の町へ向かう長距離便の馬車の中にリーシャとオスカーの姿があった。ここから国境の町へは馬車で四日間、国境を超えて王宮のある首都までは馬車で三日ほどかかる。


「本当に大丈夫だろうか……」


 弱音を吐くオスカーにリーシャは苦笑いをする。酷い目に遭って命からがら逃げだしてきた場所にわざわざ戻るのだ。オスカーの心労は察して余りあるものだ。


「出来るだけの対策はするつもりですが、あとは私を信じて頂けるかどうかですね」

「リーシャを信用していない訳では無いんだ! ただ、国がどうなっているのか……。帰るのが怖くてな」

「酒場で情報収集をした限りでは特に異常が起こっている様子は無さそうですけどね」


 ギルドのある町には各地からやって来た情報通の旅人が多く集まる。その中には当然隣国からやって来た者も居る訳で、リーシャは情報収集をするために酒場で聞き込みを行っていたのだ。


「街中で特に目立った異常が無かったということは、『事態』は宮殿の中で納まっているということです。大方魔法を使って人質でも取ってオスカーの帰還を待っているのでしょう」

「諦めて出ていったという可能性は無いのか」

「あったとしても極めて低いでしょうね。なにせ貴方の両親や親族を人質に取っているのです。余程薄情な人間でない限り気になっていつか戻って来るでしょう」

「うむ……」


 あのような別れ方をしたならば尚更だ。「家族を犠牲にして逃げた」という負い目を感じて戻って来るだろうと魔法師は踏んでいる。そうリーシャは考えていた。


「まぁ、私としては蒐集物(コレクション)さえ回収出来ればそれで良いのですが……」

「簡単には行かないだろうな」

「ええ」


 一国の王すら意のままに操れる「国落とし」の魔道具を簡単に手放すはずが無い。だが、祖母の形見をこんな形で悪用されていると知った以上黙って見ている訳には行かないのだ。


「最初はお金を積みます。それで譲って頂けるならばそこで手を引きますが、もしも拒否されたらその時は……」

「あまり危ないことはして欲しくはないが」

「相手は平気で人を殺すような魔法師です。そんな甘いことを言っていたら命を落としますよ」


 リーシャがそう言うとオスカーは言葉を詰まらせる。


「それと、私は貴方の国の内政に干渉するつもりはありません。魔道具を回収できればそれで良いんです。申し訳ないのですが素直に譲って頂けたらすぐにその場から立ち去るつもりです」

「……分かった。そうだな、それがいい」


 オスカーは少しがっかりしたような表情を浮かべた。心のどこかで「リーシャが解決してくれるのではないか」と期待をしていたからだ。リーシャには危ないことをして欲しくは無い。しかしその反面、「魔法師を退けて欲しい」とも願った己の身勝手さが嫌になる。


「まぁ、蒐集物を返して頂けない場合は少し手荒なことになるかもしれませんが」

「……リーシャ」

「偶然、たまたまですよ」


(どうにも……俺は隠すのが下手なようだ)


 「顔に出ていたか」と赤面するオスカーを横目に魔法師をどう調理するか思案するリーシャだった。


* * *


「そういえば……リーシャのそれも魔道具なのか?」


 国境の町まで残り一日ほどの距離にある休憩地点で一息ついた頃、オスカーは以前から聞こうと思っていた話題をリーシャに切り出した。「それ」とはリーシャの胸元に輝く太陽を象った柘榴石のペンダントのことを指す。あまりに大事そうにしているので「ただの装飾品ではあるまい」と気になっていたのだ。


「……そうですよ。これは『大事なお守り』なんです」

「太陽か……。もしかして、あの月の装飾品と対で作られた物なのだろうか」

「良く分かりましたね。この二つは特に祖母が大切にしていた物なので今回は絶対に回収したいんです」


 リーシャの言葉に力がこもる。数ある蒐集物の中でも特に探していたのがあの月の装飾品だ。祖母が名のある彫金師に作らせた太陽と月を模した一対のペンダント。

 太陽のペンダントは「お守り」としてリーシャの手に渡っていたため賊の手に渡るのを逃れたが、月のペンダントは他の蒐集物と一緒に盗まれ行方不明になっていた。まさかこんな形で見つかる事になるとは……。


「他にも魔道具を?」

「勿論。例えばこの指輪もそうですよ」


 指に嵌ったいくつかの指輪を見せながらリーシャが言う。


「これは魔法制御の補助具で、魔法の出力を絞ることで修復魔法の精度を上げてくれるんです。便利でしょ?」

「ほう、そういう使い方もあるのか」

「今時は『杖』で魔法を媒介して使う方も多いですが私の魔法は『古い』ので……。ほら、他の人の魔法って『言葉』を使わないでしょう?」

「そういえばそうだな」


 逃避行の最中にオスカーが見かけた人々はリーシャのように「言葉」を唱えずとも魔法を使っていた。魔道具を握れば当然のように魔法を使える。魔法を使ったことのない自分でさえも。そのことに酷く驚いた記憶がある。


「元々魔法は『言葉』を介して使う物だったのですが、それを『魔道具』を介して簡略化するようになったんです。簡略化する分威力や精度は落ちますが誰でも簡単に使えるので今はそちらが主流ですね」

「ではなぜリーシャは古い魔法を?」

「修復魔法には精度が必要です。『言葉』を使った本来の使用法の方が精度が良い。それだけですよ」


 宝石修復師以外にも医療魔法師や機械設計師など精密作業が必要な仕事では今でも「古い魔法」が使われている。その用途によって独自の研究がなされており、「古い魔法」と言いつつ今でも進化し続けているのだ。要は目的による使い分けである。


「戦闘魔法も『古い魔法』の方が威力があるんですよ。詠唱している暇があればの話ですが」

「前衛が居ないと無理だろう」

「そのための護衛です」

「なるほど……」


 戦闘時に詠唱をする修復師を守って時間を稼ぐ。それも護衛の立派な仕事の一つだ。


「しかし君はずっと一人だったんだろう。一体どうやって……」

「そのうち見られると思うので楽しみにしておいてください」

「出来れば見ないで済むと有難いのだが」

「ではそうなるように祈っていてください」


 「リーシャはやる気だ」とオスカーは思った。口では「金で解決したい」と言っているが心の中ではもう決心している。そしてそれはオスカーも同じだった。あの女相手に穏便にことが進むはずがない。何せ魔法師を訪ねた修復師は誰も帰ってはこなかったのだから。


(俺も腹を括らなければ)


 目の前に居る己よりもずっと年下であろう少女に頼ってばかりでは不甲斐ない。いや、行き倒れた所を拾って貰っただけでも十分不甲斐ないのだが……。


「リーシャ、景気づけにどこかに食べに行かないか。今日は俺の奢りだ」


 懐具合を確かめてからリーシャに声を掛ける。連日の依頼でリーシャへの借金を返しても余りあるほどの収入を得たのだ。


「良いですね。折角ですし少し観光もしましょうか」

「ああ!」

「実はこの町の情報も仕入れておいたんです!」


 沢山書き込みがされた地図を収納鞄から取り出したリーシャは少し恥ずかしそうにはにかんだ。


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