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宝探しと拾い物

「おじさん、鉱山跡地への入山許可を下さい」


 鉱山跡地へ繋がるゲートで一人の少女が門番に声をかけた。


「銀貨一枚だ」


 少女は懐から革袋を取り出し、その中にある銀貨を一枚門番の掌の上に落とす。


「お嬢ちゃんも()()()かい?」

「……そんなところです。最近の成果はどうです?」

「さっぱりさ。もう枯れてから何十年も経つからな。たまに小さいのや中くらいのは出るみたいだが、今残っているのはほとんど()()()()()()()ばかりだ」

「そうですか」


 「ありがとうございます」と門番に礼を言うと少女は鉱山跡地へ向かって歩き出した。


「……あんな場所に行って何が楽しいのかねぇ」


 ゲートを閉じて少女の後ろ姿を見送りながら門番は呟く。既に鉱脈が枯れてから数十年。今更漁ってもゴミしか出ないのは明白だ。


「さてと」


 山を暫く登ると目当ての場所に着く。小さな石が積まれた「ズリ山」だ。「ズリ山」とは鉱山から出た捨て石が積み重なって出来た小山の通称である。

 積まれているのはほとんど打ち捨てられた石ばかりなので門番の言う「ゴミ」とはこの「ズリ」を指す。しかしながら、この屑石ばかりの「ズリ山」も少女にとっては宝の山そのものなのだ。


「おっ、なかなか良い欠片が落ちてるな」


 皮の手袋をはめ、鞄から取り出した袋に目ぼしい石の欠片を入れていく。どれも「綺麗」とは言い難い小粒の結晶や欠片ばかりだ。

 少女は一攫千金を夢見て廃鉱山に立ち入るハンターたちが目もくれないような小さな石を丁寧に選別して回収していった。


「こんなもので良いか」


 ある程度小袋が一杯になったらその中から質の良い物をより分けて別の袋に移す。質がイマイチな物は「組合」に売却し、お小遣い稼ぎをしているのだ。

 選別作業が終わると入口の門番に挨拶して廃鉱山を後にし、一仕事終えた後の「一杯」を飲むために町の酒場へと向かった。


「おすすめの果実酒は?」

「オレンジの蜂蜜酒がおすすめだよ」

「じゃあそれを」


 酒場のカウンターに腰を掛けて一息つく。昼間だというのに酒場は大賑わいだ。


「今日は祭か何かですか? 随分と人が多いですね」

「いいや、仕事が無くて暇なのさ」

「なるほど」


 昨今、「魔法」と「魔道具」に仕事を取られて職を失う労働者が多いと聞く。新しい仕事を求めて技術を学んだり磨いたりする者もいれば、現実から目を逸らして朝から酒場に入り浸って浴びるように酒を飲んでいる者もいるようだ。

 ふと少女の目に一人の男の姿が留まった。酒を飲んで騒いでいる連中から身を隠すように酒場の隅で縮こまっている。遠くから見ても顔色が優れないのは一目瞭然だった。


(……厄介ごとに巻き込まれたくはないけど)


 誰の目にも留まらない、今にも伏してしまいそうな男を横目に考える。見捨てるのは簡単だが、目に入ってしまった以上そのままにしておくのはなんとなく気が引ける。少女は蜂蜜酒を一口飲むと意を決したような顔で男に近づいた。


「大丈夫ですか?」


 少女が男に声を掛けると男は顔を上げた。髭が伸び切った顔は血の気が引いており真っ青で、意識が朦朧としているのか反応はあれど返事は無い。


「ちょっと失礼しますね」


 男の額に手を当てると熱い。熱があるようだ。


「うーん、多分『枯渇熱』かなぁ」


 少女はそう呟くと持っていたトランクを開いて中から薬箱を取り出した。薬箱の中には様々な薬草を煎じた物や包装紙に包まれた薬剤が小分けにして入れてある。その中から白い粉薬を取り出すと男の口の中に無理矢理突っ込んで水で流し込んだ。


「うっ! ごほっごほっ!」


 ぼんやりとしていた男は急に薬と水を流し込まれて咽かえる。


「すぐには効かないと思いますが、楽になると思いますよ」


 少女はにっこりと笑うと向かいの席に腰を掛けて男が回復するまで待つことにした。


 * * *


 男に回復の兆しが見えたのは薬を飲ませてから数十分後のことだ。


「……ありがとう。助かったよ……」


 意識がはっきりしてきたようで男は申し訳なさそうに少女に礼を言う。


「診立てが合っていたようで良かったです」

「君は医者か何かなのか?」

「いえ。一人旅なのでいざという時にある程度対処できるようにしているんです」


 そう言って薬が大量に詰められた薬箱を見せた。


「……凄いな。俺に飲ませてくれた薬は?」

「『枯渇熱』の薬です」


 少女は先ほど男に飲ませた物と同じ白い薬剤を男に見せる。


「『枯渇熱』?」

「ご存知ありませんか? 流行り病というか、文明病というか。簡単に言ってしまえば魔力の使い過ぎで起きる体の不調ですね」


 少女曰くあまりにも「魔道具」頼りの生活をしていたり、自身の魔力容量を超えた魔力を消費し続けた際に身体に負担がかかって発症する病だという。短時間ならばあまり問題が無いが、それが日々の生活で積み重なると身体に変調が起きて「枯渇熱」と呼ばれる熱が出るのだ。


「大人になるにつれて身体が生産できる魔力の量は少なくなっていきますから、若い時のように無茶をすると枯渇熱になりやすいんです」

「つまり、俺は()()ってことか?」

「そういうことです」


 ショックを受けた男はがっくりと肩を落とした。若い時と比べて体力が落ちるように、保有出来る魔力も比例して落ちていく。年を取ると無茶が出来なくなるとはこのことだ。


「この薬は一時的に魔力の生産を助けてくれるんです。まぁ、あくまでも『一時的』なのでしばらくは無茶をしないでくださいね」

「ああ、ありがとう。助けて貰った礼だ。好きな物を頼んでくれ。あー……えーっと……」

「リーシャです」

「俺はオスカーだ」

 

 まだ思うように動かない体でそれを実感しながら男は力なく名乗った。

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