【第七夜】 お友だち
夏休みに帰省した。とはいっても実家ではなく、祖母の家だ。祖父は数年前に亡くなっており、お墓参りも兼ねての三世代一緒の里帰りだった。
祖母は日常の身の回りのことは、まだなんとかひとりで出来ている。それでも心配した父親は、うちのほうに引っ越しておいでと勧めているが、首を縦に振らない。週に何回かはヘルパーさんも様子を見に来てくれるし、大丈夫だの一点張り。長年住んだ家や地域には思い出も多く、離れがたい気持ちも理解できる。たぶん、最期はここで迎えたいと思っているのだろう。
そんな祖母は、もう少しで三歳になる曾孫を見て嬉しそうにしていた。
食事の準備をする間に、子どもは祖父の仏壇のある隣の和室でひとりで走り回って遊んでいた。
「ご飯だからおいで」
お膳の準備が整い、子どもを呼ぶ。
しかし、一向に部屋を出てこようとはしない。
「お腹が空いたでしょう? はやく美味しいご飯を食べようよ」
手を繋いで和室から出ようとすると「いやだぁ。もっとあそぶぅ」と、駄々をこねはじめた。
「ご飯を食べてから遊べばいいでしょう?」
しかし、襖の縁に掴まり足を踏ん張って、頑なに和室から出ることを拒否している。
遊ぶといったって、ひとりでただ走り回っていただけなのに。子どもは面白いなぁ。
そこで少しの悪戯心で訊いてみることにした。
「誰かと遊んでいたの?」
「げんじぃろ」
たどたどしかったが、祖父の名前を口に出した。
正確には源治朗。
子どもには教えていなかった、亡き祖父の名前だった。
父母や祖母、夫に、祖父の名前を教えたかと尋ねたが、誰も教えてはいなかった。
帰省したのはお盆。
祖母は、お爺さんが曾孫と遊びたくて出てきたんでしょう。と、カラカラと笑った。