表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/13

【第四夜】 鳥の声



 今でも憶えていることがある。



 鳥の声で目が覚めた。ホーホケキョと鳴く、あの鳥の声だった。


 布団を敷いて寝ていた和室は、しっかりと雨戸を閉めている。その隙間から入った薄い光は、ガラス窓を透けて縦に障子に当たっていた。


 ああ、もう朝なんだ。


 そう思ったが家の中はまだ暗く、耳を澄ましてもキッチンからはなにも音はしない。母が料理をする音が聞こえないということは、まだ早すぎる朝なのだ。


 ホーホケキョ ホーホケキョ


 鳥の鳴き声は続いている。さっきよりも近くで聞こえてくるようにも思えた。もしかしたら今、雨戸を開けたなら。鳴いている鳥の姿を見ることができるのかもしれない。


 そんな考えが浮かぶと子ども心に楽しくなってしまった。むくりと布団から起き上がる。


 障子を引き、窓を開ける。雨戸をそっと一枚だけ、音を立てないように戸袋へとしまう。大きな音を立てたなら、鳥は驚いて飛んでいってしまうだろう。父や母も起こしてしまう。


 外は明るかったが朝陽の明るさではなかった。空一面にかかった白い雲が薄く光っているように思えた。庭の景色も(もや)でも出ているかのように白く霞んでいた。近くを通る大きな道路からの車の音も、まったく聞こえてこなかった。


 ホーホケキョ ホーホケキョ


 鳥は鳴いていたが、どこにも姿は見えない。しばらく探していたが飽きてしまった。雨戸はそのままにして窓と障子を閉める。


 もう一度布団に横になると、すぐに眠ってしまった。




 「朝よ。起きなさい」

 母に起こされて目が覚めた。


 朝食に焼いてもらったトーストを齧りながら、鳥の声が聞こえた話をした。雨戸を開けて外を見たが探せなかった、と。すると母は笑いながら言った。「それは夢よ」


 夢? あれは夢ではない。ホーホケキョという鳴き声も、雨戸を静かにそっと開けた感触も、白かった朝の空もちゃんと憶えている。


 そう説明したが、母はきょとんとしていた。

 「だって、雨戸は開いてなかったわよ」


 確かに雨戸を開けて外を覗いた。鳥の声もはっきりと聞いた。だけど……。いつもは昼夜問わずに聞こえてくる国道からの車の音は、まったくしていなかった。



 あれはやはり、夢だったのだろうか。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  住宅街で鳥餌を撒く迷惑な家が在り、近隣住民が糞害に憤慨し始めたある日の事、唐突にウグイスやホトトギスの鳴き声が聴こえて来る不思議に、鳥餌を撒いていた男やそれを擁護する者達が井戸端会議的に通…
[良い点]  誰かを呼んでいたのでしょうか。  もし見つけてしまったらどうなっていたのか……。  カラスや普通の鳥の鳴き声なら、窓まで開けて確認しないかもしれませんから。  呼び寄せるには絶妙なチョ…
[良い点] 似たような経験があります。 私の場合「クロイコ」だったけど。 たまにあるんでしょうかねぇ。 結局「あれなんだったったの?」ってなって終わり。 真相は…知らない方がよいのかもしれません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ