【第三夜】 バグ
父親が亡くなったときのことだ。
火葬にするために斎場にいた。
骨になるのを待つ間は軽食を摘まんだり、久しぶりに集まった親戚たちと思い出話をして盛り上がったりしていた。
父親もそれなりの歳だったので、まあ、順当なものだ。涙ながらに思い出を語るなど、そこまでの悲壮感はなかった。それに、父は子どもに対しての関心が薄かった。だから母が亡くなったときよりも気持ちは沈まなかったのだ。
骨を拾って骨壺に入れる。
晩年はあまり食べられずに痩せて細くなった父だったが、意外なことに骨は太く、しっかりと残っていた。
待機していたセレモニーホールのバスに骨壺を抱えて乗り込み、精進落としの会場へと戻る。
喪主としての挨拶を済ませ、従兄弟にビールを注いでいると、その従兄弟が「そういえば……」と、スマートフォンを取り出した。
「さっきさ、へんなメッセがきてたんだよね」
何事かと画面を見せてもらう。そこには従兄弟会のトーク画面が表示されていた。私たちは従兄弟同士のグループを作って、親の体調や入院、葬式などの連絡を取り合っていたのだ。
従兄弟のスマートフォンのトーク画面には、グループに参加している従兄弟を、私がさらに「グループに招待しました」という、招待メッセージが表示されていた。
どういうことだ?
私は招待もしていないし、アプリも開いていない。それに従兄弟にしたって、既にグループに参加している。一時的に抜けていたわけでもない。そもそもグループに参加している者を、さらに同じグループに招待する機能など無いわけで……。
そのメッセージが届いた時間を確認すると、丁度、父が骨になるために焼かれている時刻を表示していた。
私と従兄弟は顔を見合わせた。
たまたまのアプリのバグだったのかもしれない。検索してそういった事象を調べたが、なにもヒットしなかった。まあ、検索の仕方が悪かっただけなのかもしれないが……。
後にも先にもこんなことはそれきりだった。
自分の趣味に生きた父。家庭はあまり顧みなかった父。だが、悪戯っぽい性格だったのは知っている。
もしかしたら……。
私への最後の悪戯……だったのかもしれない。