【第十二夜】 訪問客
長女を妊娠する前に夢を見た。
女の子の赤ちゃんがにこにこと笑っている夢だった。
「リビングからパタパタって。小さい子の足音がずっとしてた」
次女が朝に起きてくると、そんなことを言った。
昨夜もエアコンをつけて眠った。だから冷房の風が壁に貼ってあるお習字の書き初めに当たり、それが翻ってパタパタと音を出していたのかもしれない。
「違う。その音じゃない」
すると長女も「わたしも聞いたよ」と起きてきた。
私と長女と次女の三人は、リビングの隣の和室に布団を敷いて寝ている。ふたりは足音を聞いたと言っているが、私は聞いていない。
「ママはよく眠ってたよ」
「そうそう。ぐっすりだった」
気になった次女は起き出してリビングの灯りをつけたらしい。すると足音はやむ。不思議に思うも灯りを消して布団にもどると、しばらくしてから再びパタパタと足音が聞こえてくる。それを数回繰り返したという。
「夢じゃないの?」
「絶対に夢じゃないよ」
「だってわたしも聞いたもん」
ふたりの話によると、パタパタという音はリビングのテーブルの周りを回っているような足音だった。軽い足音だったので小さな子どもだと思ったという。
その音が聞こえたのはその夜きりだった。
その年の秋。義兄夫婦から子どもができたとの報告があった。生まれるのは三月の初旬予定だという。
はじめての従兄弟が生まれてくることに、長女も次女もとてもよろこんだ。
もしかして……。
あの足音は従姉妹の様子を見にきた赤ちゃんだったのかもしれない。そんな話を娘たちとした。