第九話 斬る
振り返ると、目の前に二人のタケノコ軍がいた。
「………ッ!!」
キノコがタケノコに殺される。この力関係を何度も見てきた。体から反射的に拒絶反応が出る。
タケノコ族を見ると心の底がイライラする。
今すぐ殴って"お前たちにさんざんな思いをされてきた“と泣き叫びたくなる。
だが、そんなことをしてる場合じゃない
冷静に、冷静に、剣を構え、言う。
「…北の森に来ると聞いた」
「は?」とタケノコ軍の一人が言う
「何でしってんだよそんなことぉ…いつからバレてたんだ?」
落ち着いた声色に恐怖を感じる。目の前にいるのは五級の声が震えた男だもの。余裕になるのは当然かもしれない。
「そもそもいつもは食料の強奪にキノコ村正面から来るはずだ。なぜ今日は…」
「あ~あやっぱ知らなかったんだ。俺達はめっちゃ前から度々偵察に来ててなぁ?戦争が始まるたびお前ら市民がすぐ消えるから、シェルターでもあるんじゃねーかってさ、だから探してるんだ」
「……な!!」
つまり、前の戦争でシェルターがバレたのはそれ?ずっと?探られていたのか?
「…で、いつも北側から来てるから気分で別の方向から偵察しようとしてさ、そこでばったり遭遇したわけ」
「そんな…なんでそんな事言うんだ…?」
重大なことを自分が知ってしまった。これをいきて帰って、責任をもってキノコ軍に伝えなくてはいけない。なんでそんなことさせるんだよ
あ、でも近くにはレイがいるんだった。
そうか、キノコ軍統率者がこの事を知ってる。だから仮に自分が死んでもなんの問題も…
ある
怖い
ハルは怖かった。笑みを浮かべたタケノコ軍が、先端のとがった剣が、余裕そうな声が
ーー死にたくない
その瞬間、会話が無駄だと感じたのか、右側にいたタケノコ軍がハルに向かって走り出す。よほど舐めているのか、走り方はまるで子供の鬼ごっこかと思うレベルの走り方だった
それでも怖かった。正直、この二人も小物だろう。思い切り剣を振り回せば多分一人は殺せる
残った一人は多分無理だからレイが出てきて倒してくれる。それでおしまい。それでもできなかった
カブトムシを踏み潰すことも出来ないただの少し鍛えただけの人間が、人に刃を突き立てられるのか?
そのとき、ハルの頭はいままでに無いほど速く回転する。閃いた。悪役がよくやるやつだ。これをすればいいんだ
舐めた走り方で来るタケノコ軍(よく見たら多分年下)に対し、かがんだ状態のまま右足を大きく蹴り上げる。タケノコ軍の左側に高速で移動した
「……うぉっ!」
タケノコ軍が驚く、実際は少しころんだのだが、ころんだ時に手をついたときのつきかた が
まるで忍者のように見えたからだろう。自分でも驚いた
そのままタケノコ軍の首を掴み、前に押し倒そうとする"フリ“をする。こうすることで転倒する体を抑えようとする足に集中がいき、ハルに向かって剣を振り下ろせば良いことに気付かない
そのすきにハルが男の剣をぶったたく、剣は手から外れ、道端に音を立ててころがった。
ここまでで約3秒
ここからもう一人余裕そうに傍観していたタケノコ軍が焦って走り出す、ハルへの殺意をたぎらせて
その瞬間ハルは目の前タケノコ軍を自分の前に押しやり、右手にもった剣を男の首に当て、盾にし、こういった
「近付くなら…こいつを殺す」
ーーそれがハルにできる、精一杯の戦いだった。
「ぐおっ……!お前、くそ、離せぇ!」
男が暴れる。よく見たらこの二人のタケノコ軍、五級じゃないか、そう暴れた所でこの状態から脱せられるか
走り出したタケノコ軍の男も一瞬立ち止まる
「…お前、やるな…」
そう言って立ち尽くした、でも、彼から笑みは消えない
ーーーーここまでで8秒
(…これで、どうだ??逃げろ!はよ逃げろ~~!)
ハルが頭のなかで混乱する。心臓は今にも爆発しそうだし、汗で体中が沸騰している。男の首においた剣も動かすつもりなどない、だれも傷付けるつもりはない
もしこれでこの二人が急に強くなったりでもしたら、ハルに勝算は無い。
どこかで見ているレイが来てくれるとしても、絶対どっか斬られる。
「おい!助けろよ!はやく!おいてめぇ!!」
ハルの目の前にいるタケノコ軍が叫ぶ。たぶんこいつは17くらいで、立ち尽くしてるやつが20くらいだ。何だこの男…
そして、立ち尽くした男が言う
「く、くくく…馬鹿が」
「!?…動いたら…」
「死ぬんだろ?」
そういって、ハルの方へ歩いてきた
「!!!!!!!!!」
「ばっ!おい走れや!死ぬ!死ぬって!
なあお前!離せよおい!!」
惨めにそう叫ぶ。あまりにも噛ませ犬のセリフなもんだから、哀れに思える。
ーそんなことを考えているひまはない、タケノコ軍が、歩いてくる…!
「悪いなぁケン、お前見たいな雑魚が死んでもタケノコ軍には何の問題もないんだなぁ」
「は!?お前それどういう…」
そこまでいったところで、歩いていたタケノコ軍が剣を前に出し、突撃してくる。これはつまり、ケンとかいったタケノコ軍ごと、ハルを刺し殺すつもりだ。
一文字の漢字が頭に浮かび上がる。死にたくない。何とかして防がなきゃいけない。しかし防ぐなら両手が塞がっているのでケンとやらを殺す必要がある。
全ての出会いには意味がある。このタケノコ軍との出会いも、これからの自分の大切なエネルギーになるんだろうか。
この行いは、エネルギーになるのだろうか?
「あ、あああ…ァ~~~~ああああああああああ!!!!!」
タケノコ軍、タケノコ軍タケノコ軍タケノコ軍タケノコ軍タケノコ軍が憎い憎い憎い憎い憎い
別に対して憎くないが、そう心で叫ぶ
そして、男の首を、斬る
「ゔっぇえあああああ!!!!!!!!!!!!!!」
ケン の悲痛なうめき声
ぶちぶちとした感覚。人間のお肉は以外と強いもので、力を入れ続けないと首を最後まできれない、心臓を中心にミミズが伝ったような不快感が走る、次に一瞬だけ、剣にコツン、というような感触を覚える
ーー首の骨に当たった?
「お"っっっえ“」
ハル吐いた、その場から離れたい。目も向けたくない。剣を手放し、大きく後退し、尻もちをついた。
それでも不快感はやまない。血の匂いがする。首を斬ったので自分の首から心臓に向けて返り血が来ている
自分の血のような気がしてならない。不快感が最長に込み上げ、また吐く
体中のミミズがいなくならない。そのばに転がりこみ、ミミズを追い払う。追い払うたびにミミズはどこからかはってきて、ハルの喉元を行き来する。それらの幻覚にまた吐く。
「おいおい、ばっかだなぁ」
いつのまにか目の前に突撃してきた男が立つ。
そしてゆっくり煽るように剣をハルの背中に突き立てようとする動作をおこなう、死ぬ、死ぬのだ。この距離はレイも助けにいける間合いではないだろう。
あれだけ不快な思いをしておいて、それでいて死ぬのだ。タケノコ軍に殺されるのだ
ーーもはや、悲鳴すらでない
だが
「ーよく頑張ったな」
レイの 声がした。
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