不死身勇者とピュアピュア聖女
思い付き短編です。
シリアスは添えるだけ……。
どうぞお楽しみください。
「私を本気にさせたな! 黄泉の世界に旅立つが良い!」
闇の戦乙女が怒りの声と共に凄まじい魔力を放つ。
「ぐっ!」
炸裂した魔力をもろに食らった俺の身体は、結界の壁に叩き付けられた。
背骨が軋み、口から鮮血が溢れる。
[MPが200回復しました]
[MPを100消費して傷を治療します]
「……ま、まだだ……」
俺は震える身体で立ち上がった。
闇の戦乙女は驚きに目を見開く。
「何故だ!? 何故死なない!?」
「……まだだ。まだ死なない……! この生命燃え尽きても……! 俺は立ち上がる!」
俺の言葉に気圧されたように、闇の戦乙女が一歩後ろに下がった。
そんな自分を恥じたのか、槍を持つ手に力が込もる。
「所詮貴様は異世界から呼ばれた勇者に過ぎない! 何故そこまでして我ら魔王軍と戦う!? 人への情か!? それとも憐れみか!?」
「……情でも、哀れみでもない……!」
「……では、何だと……」
そこで俺は 闇の戦乙女に笑顔を向けた。
「……快楽だ!」
「は?」
「俺は痛めつけられれば痛めつけられるほど快楽を感じるんだよぉ! さぁもっと攻撃してくれぇ!」
「……うわぁ……」
いいねぇ! その表情!
ゴ◯ブリの素揚げを食べる人を見るような目!
ひゅう! 最高!
[MPが200回復しました]
直接的な痛みもいいけど、この軽蔑される感じもたまらないなぁ!
「くそっ! 変態め!」
[MPが100回復しました]
「ならば頭を吹き飛ばしてやる!」
闇の戦乙女の槍が俺の頭に突き刺さる!
んほおおおぉぉぉ! 刺激的ぃ!
[MPが700回復しました]
「くたばれ!」
魔力が炸裂し、俺の頭は吹き飛んだ!
んぎもっぢいいいぃぃぃ!
[MPが1000回復しました]
[MPを500消費して頭部を再生します]
「ふぅ……! 今のいいな! 刺さる痛みから爆発で吹き飛ぶ二段階の気持ち良さ! これ腹にもやってくれないか!?」
「ば、化け物め……!」
[MPが150回復しました]
「こうなったら塵も残さず消し飛ばしてやる!」
「お! 楽しみー!」
先程よりも強い魔力が、 闇の戦乙女の槍の先に集まっていく!
「滅びの光!」
「んあああぁぁぁー!」
身体が塵まで分解される感覚!
うおおお新鮮!
[MPが2000回復しました]
[MPを1000消費して復活します]
「ば、馬鹿な……。我が最強魔法が……」
がっくりと膝をつく 闇の戦乙女。
「なぁ! 今の全身に一気にってのも良かったんだけど、バラで頼める!? 腕と足を塵にして、だるま状態の頭にトドメって流れでさ!」
「いやぁ! 何こいつ怖いぃ!」
あ、槍投げ捨てちゃった。
泣きながら結界をばしばし叩いてる。
こりゃもう駄目かな。
あ、結界が崩れた。
『どちらかが死ぬか降参するまで壊れない結界』が壊れたって事は……。
「助けて魔王様ー!」
あぁ、逃げちゃった。
まぁこれでこの街への侵攻は白紙だろうな。
次の侵攻目標を探らないと……。
「うわ、何あいつ……」
「頭吹き飛ばされても塵にされても生きてるとか……」
「気持ち悪っ……」
[MPが50回復しました]
[MPが50回復しました]
[MPが50回復しました]
ふぅー!
街の人達から向けられる恐怖と嫌悪!
闇の戦乙女からの痛みは、質は文句なしだけど量が少なかったから、デザートで満足しよう!
何なら「立ち去れ化け物!」とか言いながら、石投げてくれないかなぁ。
「勇者様ー!」
げぇっ! 聖女!
王都で撒いたはずのあいつが何でここに!?
「おぉ、聖女様!」
「聖女様がこの街に……!」
「ありがたや、ありがたや……!」
街の人達が笑顔に変わる中、駆け寄って来た聖女は俺に飛びついて来た!
「またこんなにぼろぼろになって……! 街の人を守るために、魔族と共に結界に……! 私を身を挺して守ってくださった時と同じ、何という慈愛……!」
違う違う!
前にお前に攻撃を横取りされかけたから、そうならないようにしただけだ!
[MPが800減少しました]
ぐあああぁぁぁー!
MPが減るぅ!
異世界転生した際に、神様から言われた注意が蘇る!
『貴方の身体は、MPがある限りどんな状態からでも再生します。しかしMPが尽きると普通の人間に戻ってしまいますので、気をつけてくださいね」
くっそー!
前の世界じゃやり過ぎて死んじゃったけど、この世界なら限度なく痛みを楽しめるはずだったのに!
こいつといると、どんどんMPが減る!
心からの心配。
心からの感謝。
それは俺に、心地良くない感覚をもたらす!
「私に治療をさせてください!」
「前にも言いましたが、俺は自力で再生する力を神様に与えられました。聖女様の力はどうぞ他の傷付いた方に」
「勇者様……!」
くそ!
強い言葉で追い払いたいけど、それをするとMPがごっそり減る!
怒鳴って傷付けるなんてマゾの風上にも置けない行いだから仕方ないが、この聖女のキラキラ目……。
また何か勘違いしてるな……?
「ご自分の身は顧みず、人々の安寧を祈る……! あなたこそ真の勇者です……!」
ほーらやっぱり。
[MPが600減少しました]
ぎゃあああぁぁぁ!
「……もしかして、いい奴なのか?」
「そういえば、あの魔族にも一切手を出さずに攻撃を受けていた……」
「魔族にも慈愛をかけていたのか……!」
んもおおおぉぉぉ!
誤解が感染していくぅ!
[MPが100減少しました]
[MPが100減少しました]
[MPが100減少しました]
ちくしょー!
この聖女、疫病神か何かじゃないのか!?
……そうだ、これを俺に対する嫌がらせだと考えれば、MPに変換できるんじゃ……?
「勇者様……」
駄目だ!
こんな真っ直ぐで潤んだ目を見て、流石に嫌がらせとは思えない!
「……では私はこれで……」
とにかくこいつから離れよう!
そして新たな魔王軍に痛めつけてもらって、今日以上の快楽を……!
「お供いたします!」
いらないっての!
お供なら、人をゴミのように見下す暴力系女王様が良い!
「魔王軍との戦いに、あなたを連れて行くつもりはありません」
俺が快楽を味わう邪魔にしかならないからな!
「私を巻き込まないようにというご配慮なのですね……! 何とお優しい……!」
[MPが1500減少しました]
そのうっとりした表情をやめろぉ!
あぁ! どこかに容赦なく俺をいたぶってくれる相手はいないかなぁ!?
魔王に期待しよう!
読了ありがとうございます。
勇者(光属性弱点)。
精神が肉体を凌駕する世界なら、痛みを力に変える能力は最強だと思います。
魔王逃げて超逃げて。
お楽しみいただけたなら幸いです。