2 ダンジョン
「という事で! ボクがこの街で父上よりも偉くなる為にこれからボクとチミの2人でダンジョンの攻略へ向かう! 征くぞッ!!」
御坊ちゃまは意気揚々と拳を上げて立ち入り禁止区域の縄を跨ごうと足を上げる・・
「ブ・・ブヒィ」
・・・が、重すぎる体重と短足の足のせいで上手く縄を跨げずに困り果てていた。
「ブヒヒッ!! 見てないで助けろ無能ッ!! 縄を下に押し下げてくれ~!!」
俺は小さく溜息を吐いて、渋々と危険な道へ付いていく事にした。
ダンジョンまでは随分と整備されていない道を辿っていくと簡単に着いた。
洞窟と言うよりも地面が押し上げられたせいで洞窟に見えるが、覗いてみると地下へと道が続いている。
ダンジョンの先は明かりもない真っ暗な闇。
気のせいだろうが不気味な笑い声が聞こえるような気がした。
「ブ、ブヒヒ。 じゅ、準備はいいか無能。 い、いいいざダンジョン攻略ッ!!」
「足が震えてますよ御坊ちゃま」
「ブヒッ!? な、ななにをバカな事をッ!! これはあれだッ!! 武者震いという物だッ!!」
なんて強がりを言っているが、涼しい気温だと言うのに汗はボタボタと流して、緊張で鼻息が荒くなっている。
見て分かる通りに怖がっているのだ。
「そんなに怖いなら早く帰りましょうよ」
「だッ、だから怖くないと言っているだろうッ!! ブヒッ!!」
そういうと御坊ちゃまは薄く涙目になりながらも先頭に立ってダンジョンの中へ歩き始めた。
そんな怖がって震えてる背中に俺もついていく。
ダンジョンの中へ入ると、入り口から見た景色とは一変して周囲の景色が視認できた。
松明があるわけでも、電気があるわけでもないのに異様に明るいのだ。
「ブ、ブヒヒ。 流石はダンジョンだ。 周りの地面そのものが魔力で出来てる!」
「魔力で?」
「ブヒ。 無能のチミには分からないだろうが、ダンジョンに入った時からずっと魔力が壁や地面から放出されているのが肌で感じ取れる。 これも魔物が住む理由の1つなわけだ」
魔物とは異形の生物であると共に、普通の動物にはない魔力を糧として生息している。
つまり、魔力が常に放出されるダンジョンは魔物にとって空気が生産される唯一の生息地域という訳だ。
「そんな事も知らないとは、チミは本当に無能だな。 少しは勉学に励んだらどうだ?」
「いや~確かシスターに教えてもらった気もしたけど・・・あれ?」
そこで俺は朧げな記憶を辿りに、ある事を思い出す。
「そういえば魔物にとって人間も貴重な食糧になるってシスターに教えてもらったような?」
「ブヒ、その通りだ。 人間はダンジョンの外で数少ない魔力を扱う事が出来る生命体。 つまり魔物にとっては栄養を蓄えられた生き物だと認識されているらしい」
「えっと、つまり・・」
その直後、正面から無数の赤い光が現れた。
ペチペチとした足をと何か重い物を引きづっている音が段々と近づいてくる。
ダンジョンに探索に入る冒険者達が行方不明となっている理由。
それは―――
「魔物にとって唯一の生息地域だけでなく、ダンジョンは食料を引き寄せるトラップでもあるという事だブヒッ!!」
無数の赤い光の正体。
それは両手に刃物や棍棒を手に持ち、今にも俺達を狩ろうとするゴブリンの集団だった。