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人嫌いな引きこもり少女はVの世界へ一歩踏み出す  作者: 泡月響怜
第一章、Vtuberデビュー!

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12/12

【幕間】10、散歩

煌々と輝く月が道を照らす。

ほぅ…と息を吐く。だんだんと春が近づいては来ているものの夜はまだ肌寒い。


夜道を一人で歩いているときまるで世界が自分一人になったかのように感じられる。それがとても心地よくてウキウキする。


気分が上がってスキップをしていると塾帰りらしい子供がこっちを見て叫び声を上げて逃げ出してしまった。解せぬ。

人を幽霊か何かだと思っているのだろうか。


ポツポツと立つ街灯の光が闇をより深く際立たせている。

突如私に向かって闇よりも黒い影が塀の上を移動してきた。


ーーーーーニャアンーーーーー


「久しぶりだね、猫さん」


この黒猫は一ヶ月くらい前から散歩していると勝手に付いてきた。それから私が散歩に出ると毎回ついて回ってくるようになった。夜に外に出る私のボディーガードのつもりなのだろうか。


気にせず歩みを進めると黒猫も気にした様子もなく一定の距離を保ってついてくる。ちょっと走ってみてもさぞ余裕そうに走ってくる。こっちは全力だっていうのに…


意地悪をしてやろうとすぐ横の道を曲がって猫が来る前に電柱の陰にしゃがむ。猫が悠々と歩いてきたときに一気に飛び出して驚かしてやるんだ。よし、きたきた…今だ!


勢いよく飛び出す。あれ?猫が居ない。どこにいったんだろう。全くあの猫は人間と違って行動が読めない。あの猫は生物学を学んでも行動を理解出来そうにないな。


ーーーーーニャオーンーーーーー


後ろから猫の声がして振り返ると少し馬鹿にするように顔を逸らして鳴いてきた。

今度はこっちの番だと言わんばかりに尻尾を揺らしながら私の前をゆったりと歩いていく。

私も大人しく猫の後ろに立って歩いていく。


猫はどんどん入り組んだ路地に入り道もどんどん狭くなっていく。

どこまで行くの?と猫に聞いても知らんぷりしてズンズン進んでいく。

そのうち小柄な私でも通るのが難しいほどの隙間を猫はするりと抜けていった。


「えぇ…ここ通るの?」


覚悟を決めて隙間に飛び込み隙間を抜ける。同時に目が眩むような明るさに目を細める。


そこは近くの大通りのそばの抜け道だった。私が住んでいる閑静な住宅街とは違って車が途切れる事なく走っている。

街灯の代わりにビルの光が道を余すところ無く照らし一寸の闇さえ無い。


「こんなところに来て何をするの?」


猫に目を向けるともう居なくて、人の間を縫うように歩いて行っていた。


「ちょっ…!ちょっと待ってよ!」


周りの人間から視線が向けられたが気にならない。猫を見失わないようにするので精一杯だ。


5分ほど追いかけた先で唐突に猫は止まった。猫に固定していた目線を上げると、


「交番?あっ!まずい!」


スマホを確認するともう歩き始めてから一時間は経っていて、そこまで遅くはないものの私の見た目も相まって十分に補導される恐れのある時間になっていた。


「君、ちょっといいかな?」


恐る恐るスマホから顔を上げると若い警察官が私に迫ってきていた。反射的に伸びてきた手をかわすと全速力で困惑している警察官の脇をすり抜け逃げ出した。


「あっ!こら!待ちなさい!」


私を逃すまいと警察官が追ってくる。最初は空いていた距離も数秒のうちにぐんぐんと狭まり、呆気なく捕まってしまった。


「どうして逃げようとしたんだい?見たところまだ小学生くらいかな?」


「18歳です」


「いやいや流石にそれは通じないよ。どこからきたの?お家の人は?」


「・・・・・黙秘します」


「えぇ!それは困るよぉ…。黙秘なんて難しい言葉よく知ってたねぇ。その調子でお名前言えるかな?」


この警察官はなかなかにしぶとい。今までの人は何度か問答をすれば諦めて何もなかったかのように離れていってくれたのに…いっそのこと隙をついて逃げようか?いや無理かただでさえ体力がないのに逃げたことで応援を呼ばれたらかなり面倒だ。


「ちょっといいか?その子供の身元は俺が保証する解放してやってくれないか?」


「どなたです?失礼ですが身分証を提示して頂いてもよろしいですか?」


「俺は刑事だ。そこの警察署の捜一に所属している。ほら警察手帳だ。」


「はい、確認できました。ご協力ありがとうございます。ではその子の家まで送り届けていただけますか?私には何も話してくれなくて」


「…わかった。必ず帰す。ほら、いくぞ」


突然現れた男に連れられて警官から離れる。


「…で?どうしてこんなところにいるんですか?瀬川さん」


「家に帰る途中で嬢ちゃんを見つけたんだ。顔見知りのよしみで助けたんだ、感謝してくれ」


「えぇ、ありがとうございます。逃げるのがかなり面倒でしたので」


「ふんまあ良い。それよりまだ散歩は続けるんだろ?ちょっと付き合え。気に入るかは知らんが」


「助けていただいた恩もありますし良いですよ。それでどこに行くんですか?」


「それは着いてからの楽しみってやつだ。なあ?いい加減敬語やめねえか、敬意なんて欠片も感じてねえのに。それにもう長い付き合いだろう。名前も知らんがな」


「分かりま…分かった」


「さてそろそろ着くぞ。あそこの丘の展望台が目的地だ」


「丘?あの丘に何が?」


大して高くもない丘に何があるというのだろう?ここら辺には有名な建物もいい景色も無いし。


「嬢ちゃんは何でも知ってるようだが、知ってるだけじゃ分からないこともある。見てみろ」


「うわぁ…」


そこには満天の星空が広がっていた。街光に遮られて見えない四等星以降の星まで煌々と輝いている。


「どうだ、すごいだろ。あの三連星が特徴的なのがオリオン座だ。その左上に赤く輝いているのがベテルギウス、右下の青白い星がリゲルだ。って知ってるか」


「ううん。知ってても見つけられるわけじゃ無い。本物は見たことなかったから。それに、星のことを話してる時笑ってるよ。好きなんでしょ?星」


「そりゃあ好きか嫌いかでいえば好きだな。昔嬢ちゃんくらいの時に宇宙に憧れてな、宇宙飛行士になりたくて馬鹿みたいに毎日図鑑ばっか眺めてたよ。あんときゃ俺も若かったな」


「どうして夢を諦めたの?」


「現実を知ったんだよ。俺はそれなりに優秀でな、当時はなれるもんだと思って疑わなかった。でもな上には上がいることを知った。そんで今はしがない刑事やってるってわけだ。優秀な嬢ちゃんには縁が無い話だろうけどな」


「そんなことないよ。私にだって出来ないことくらいあるよ。家事とか全く出来ないし」


「はん、そんくらいどうってことねえよ。俺も出来ねえこんな暗い話より星だ。こんな景色街中じゃそうそう見れねえだろ」


「うん。ほんとに綺麗」


初めて見た星空は本当に美しくて、図鑑とは比べ物にならない。もっと早くこの景色を見に来ていればよかったなぁ…






「ほら、もう帰るぞ。あんまり遅くなりすぎても良くないからな、俺が怒られる。家はどこら辺だ?送ってくから」


「大丈夫一人で帰れるから。じゃあね。今日はありがとう」


「あ!おい!…まぁいいか。俺の刑事の勘が問題ねぇっていってるしな。あー帰って酒呑むかー」





瀬川さんと別れていつもの散歩コースの道に戻ると例の猫が最初の塀の上に寝そべっていた。


「君もしかして私にあの景色を見せる為に交番前に?でも何で瀬川さんが通りがかることを知ってたの?」


猫はさぞ面白おかしそうに「なぁーん」と一声鳴いて尻尾をゆらゆらと揺らしながら私の前をゆったりと歩いていった。


お久しぶりです。

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