第2章~2Fに来た意外な人達
最初に階段を上って来た人は手ぶらでしたが、その次に来た人はかなり重そうな機材を持っていました。
ドカドカと階段を上って来た人達は、幾つか機材を持ち込むと、最後の2人はそれぞれカメラとマイクを持って上がって来ました。
慌ただしくやって来た集団は、どうやらTVの撮影クルーのようでした。
撮影クルーの若い女性が、上着を脱いでペラペラなブルゾンに着替えると、背中に書いてあったロゴを同僚の前田さんが目敏く見つけて、皆さんに小声で言いました。
「あれさ、フジテレビの朝の番組でやっている人達だよ、もしかして、俺達にインタビューしてくんじゃないの?」
それを聞いて同僚の皆さんは、一斉に撮影クルーの方を向きました。
「マジで!今日は水曜日で早上がりの会社の人が多いからかな」
「そうだとしたら、あんまりぐてんぐてんに酔う前にしてくんないかな…」
インタビューを受ける機会なんて滅多にないから、皆さんは浮足立っていましたが、その時の撮影クルーは、機材の設定やら取材のポイント等を、台本を見ながら打ち合わせしているだけでした。
しばらくすると、我々のテーブルに大ジョッキのビールが運ばれてきました。
撮影クルーが気になったものの、威勢よく乾杯をして数十秒で飲み干しました。
早速、村岡さんが人数分のビールを追加しに行きました。
程なく追加の大ジョッキがテーブルに並ぶと、そこで5品の大皿料理が次々と運ばれてきました。
大皿料理といっても1皿を全員で分けると、小さい取り皿に申し訳程度しかありませんでした。
確かに大皿料理は5品あったのですが、体育会系のノリで開始から30分以内に平らげてしまいました。
基本セットとして、1人前6個×6名分の36個の餃子も大皿料理と一緒に出されたのですが、それも30分以内に平らげていました。
それから、残り時間の1時間30分は、餃子食べ放題とビール飲み放題だけになってしまいました。
我々の近くを通った店員さんが、空になった皿を見て、
「餃子の食べ放題は、1皿注文すると3人前(6個×3人前=18個)ずつですから、間違えないようにしてくださいね」
と、説明していきました。
我々の飲み会開始から30分が経過すると、他の会社で同じコースで予約していた方が、次々と2Fの座敷席またはテーブル席に案内されました。
いつの間にか、我々の宴席の他に3組のグループが同じコースで飲み始めていました。
我々が大皿料理をがっついている時に、餃子の追加注文をしておけばよかったのですが、食べ終わってから追加注文したものだから、そこそこ待ち時間が発生しました。
餃子を追加注文すると、テーブルに持ってくるまで20~25分位時間を要すので、その間は無心でビールだけを飲み続けていました。
すると、現場長が若手の村岡さんに一喝しました。
「おい!これじゃ餃子が全然足んねぇだろ!早くバンバン注文しろよ!」
幹事は自分でしたが、村岡さんが一番端の席にいたので、怒鳴り散らされたようでした。
すると、慌てた村岡さんは奥にいた店員さんに、餃子を3皿(1皿18個×3皿=54個)追加注文しました。
「現場長、とりあえず3皿追加しましたよ」
と、満足げに報告したところ、現場長は、
「おい!3皿(54個)じゃ足りないだろ!5皿(90個)に変更しろよ!」
「お前少しは考えろよ!こいつら元体育会系の奴らだぞ!足りねぇの分かるだろ!」
と、村岡さんにがなり立てました。
そこで村岡さんは、5皿(90個)ー3皿(54個)=2皿(36個)だけを注文すれば良かったものの、気が動転していたのか5皿(90個)追加注文してしまいました。
この時点で、餃子を3皿+5皿=8皿(144個)追加注文してしまったので、自分は慌てて村岡さんに、
「村岡さん、餃子は全部で5皿(90個)でいいので、さっき追加で頼んだ5皿(90個)から2皿(36個)に変更してきて下さい」
と、お願いすると、その直後に現場長が、
「おい村岡ー!餃子まだかって聞いて来いよ!」
「こいつらビールだけだとブチ切れるぞ!」
と、被せるように喚き立てました。
その時点で村岡さんはかなり酔っ払っていましたが、店員さんに注文数の訂正と餃子の催促をしに行ったのです。
村岡さんは、店員さんに向かって指を3本立てて話していました。
「村岡さん、村岡さん、指を3本立てていましたけど、全部で5皿(90個)って言ってくれましたよね?」
自分が念の為に村岡さんに尋ねると、
「いえ、3皿(54個)って言っちゃいましたけど…」
と、赤ら顔で答えました。
「えっ?全部で3皿?それとも追加が3皿?」
まあ、少なければ追加注文すればいいし、3皿+追加注文3皿で6皿(108個)だとしても問題ないかな…?
と、思って、自分はやっと残りのビールを飲み始めました。