第2章~新年会はどうなったのか
明日の新年会に出らるかどうかの返答を、
「分からない!」
と、大声で抜かした現場長に、さすがに同僚の皆さんも完全にドン引きでした。
同僚の中で、自分と入社日が近い前田先輩が、
「あのジジイ文句ばっかり垂れやがって!」
「どうせ来たって文句しか言わねぇから欠席にしとこうぜ!」
と、言いながら、新年会の出欠表に近付いて行きました。
そして、何の躊躇いもなく、現場長の出欠欄の欠席部分に、乱暴にでっかく○印を入れました。
その様子を、数人の同僚が見ていましたが、妙に納得していました。
同僚の皆さんも、現場長がこのまま欠席だったらいいのにな…と思ったのか、誰も突っ込みを入れませんでした。
前田さんは、皆さんに向かって言いました。
「自己中(自己中心的)なジジイの為に、こっちがキャンセル料を被るなんて真っ平御免だよ!」
「字が読めない訳じゃあるまいし、いつまでも嫌がらせに屈服してたら舐められるだけでしょ!」
「同じ金を払うなら、うちらだけの方が断然楽しいでしょ!」
その主張には、誰も反論しませんでした。
その後、しばらくして現場長が事務所に戻って来ました。
そして、嫌がらせをしている自覚があるのか、すぐに張り紙をチェックしました。
すると、思いもよらず欠席欄に丸印が書かれていたので、目を見張って、
「誰だー!俺の欠席欄に勝手に丸印を書いた奴はー!」
と、怒号を飛ばしましたが、さすがに誰も口を割りませんでした。
自分は、明日の新年会の人数を、居酒屋の方に伝えなくてはならないので、仕方なく、
「あの~、すいません…」
「では、明日の新年会は出席って事でよろしいでしょうか?」
と、聞くと、現場長は引っ込みがつかなくなったのか、顔を真っ赤にして怒りながらも黙って頷きました。
さて、新年会の当日になったものの、現場長が主張していた、
「追加分は幹事のお前が全部払えよ!」
との発言が気になって、自分は多目に現金を持って新年会に参加しました。
ただ、この時の新年会は、最初からボリューム感がある食べ物がバンバン出て来て、鍋の締めに残ったスープにご飯を入れて食べると、その時点で皆さんは満腹でした。
そこで、現場長が食べられもしない追加注文をしてくるのかと思って警戒していると、その不安は意外にも呆気なく消え去りました。
何と!2時間の新年会のうち1時間を残したところで、現場長がいきなり立ち上がると、
「宴も酣ですが、私はこれで帰ります」
と、言って、さっさと帰って行くではありませんか!
現場長の姿が見えなくなると、同僚の皆さんは口々に、
「あのジジイ!いつも嫌がらせばかりしがって!」
「今回は前田さんの功績だな!」
「でも、根に持っているんじゃないですか~?」
「もういいじゃねぇかよ、居づらくなって勝手に出て行っただけだろ!」
「よし!この後は楽しく飲もうぜ!」
と、ワイワイ騒いでいると、急に雰囲気が良くなって来ました。
この後は、同僚の皆さんが気を遣ってくれたのか追加注文はなく、コース料金のみで精算出来ました。
それにしても、最後まで現場長がいたのなら、どうなっていたことでしょう。
新年会で一番ホッとしていたのは、副主任の寄川さんだったでしょう。
寄川さんは追加注文に備えて、かなりお札を引き出していたようでした。
この一件を、後に同僚の皆さんは、
「追加は幹事が払えよ事件」
と、言うようになりました。
しかし、今回頑張った事により、意味もなく事前に多めに会費を徴収するのは回避出来ました。
会計係がいないというのもありますが、会社の飲み会で飲み足りなかったり満腹にならなかった場合は、個人的に満たしてくれればいいだけの事でしょう。
それを今まで、
「足りない事は悪だ!」
と、ばかりにやってきたのが、この事態を招いたのでしょう。
ただ、現場の飲み会はこれで終わった訳ではなく、その後も新たないざこざが起きるのです。