第5章~最後の幹事は忘年会~最終章
増渕さんは、ボイラーを教育している4人からの期待は大きかったものの、マニュアルの作成を託されてからは急にやる気を無くしました。
そして、自分がボイラーの教育をしている時に、弱音を吐いてきました。
そこで、何とか後継者を作らないといけないと思って、次回から個人的なマニュアルをコピーして渡す事を伝えると、
「何で俺だけがこんな事をやらされなきゃならないんだよ!荒井の奴は全くボイラーやってないのにさ!」
「それは、増渕さんが免許を持っているからだよ!こっちだって他の人が涼しい部屋でのんびりテレビを見ている時に、汗だくでボイラー教育を受けていたんだよ!」
暑気払いに出たくないが為に、散々仕事で返すと言っていたのにもう音を上げるのかよ…。
と、思いましたが、それから増渕さんは何を教えてもメモを取る事もなく、ただ後ろに突っ立っているだけでした。
自分は、何とか増渕さんの気を引こうと思い、苦し紛れに話し掛けました。
「今の時期だと吸収冷凍機がフル稼働するから、ボイラーの焚き上げは1時間以内にヘッダーの圧力を7~8Kまで上げないといけないという制約があるんだけど、冬になると負荷が少なくなるし、ボイラー室の温度も下がるから大分楽になるよ」
しかし、増渕さんはニヤリとしただけで、何もしようとはしませんでした。
「あのさ、増渕さんが前の現場で同僚と普通に飲んでいたのは、ほとんどの人が知っているんだよね、こうなったのも自分で蒔いた種でしょ」
余りにもやる気のない態度に苦言を呈すると、増渕さんは睨み付けてきました。
「でも、ここまでボイラーをやったんだから、早ければあと2年で習得出来るよ!」
「自分の時なんてろくに教えてもらえなかったけど、前職でやっていたから何とかやってきたんですよ」
「こっちは現場長から教わった事はないので、習得したら稲田主任の手順をマニュアルにしてもらえると嬉しいんだけど…」
「はぁ~?何で俺がマニュアル作成しないとなんないの!」
「現場長もマニュアル作れって言ってたじゃないか!」
「マニュアルなんて分かっている奴が作るんだろ!」
「いやいや、皆さん師匠が違うから、それで口論になって各流派があるんだよ」
「それがウザいって言ってんだよ!」
「じゃあ、現時点で一番いいと思う人に専属で教えてもらえば?それが自分じゃないならもう教えないけど…」
ボイラー教育も蔑ろのまま言い争っていると、増渕さんが急に神妙な面持ちになって、
「あの、次の忘年会には出るんで、もう抜けてもいいですか?」
と、言ってきました。
何を今更…、とは思いましたが、
「それは現場長に言ってよ!こっちもやる気のない人に教えるのはもうウンザリだよ!」
と、返答しました。
後日、増渕さんの忘年会参加と引き換えに、ボイラー教育は一旦保留になりました。
ボイラー教育をしていた自分としては、作業手順を従来のものより細かく書き直して、マスターまでの10の項目を独自に作っていたのですが、2にも届かないところで終わってしまったので複雑な気分でした。
ボイラーの作業は、憖っか流派があるから厄介でした。
教官に当たる人は個人的なマニュアルがあるものの、それを表に出すと他の流派の人に叩かれるものだから、マニュアルは無いと言い続けていたのですが、無くて作業が出来る筈もなく、そこは察して欲しいところでした。
数週間後、自分が幹事で二村さんが会計の忘年会が開催されると、増渕さんは皆さんと和解する為にあちこちの席に移動してその度に握手をしていましたが、それを見て自分は、
「何だよ、今頃ゴマすりやがって!気持ち悪い…」
と、思いましたが、一応流れで握手だけはしました。
この日は、ハイペースでハイボールを飲んで日頃のストレスを発散をしました。
「お前、何で暑気払いに出なかったんだよ?」
と、増渕さんは散々いじられていましたが、なかなか口を割りませんでした。
なので、お互いの秘密を1つずつ言い合う事で納得させると、増渕さんは前の現場で大きなミスをやらかしたので、それを引き摺って飲む気になれなかったと自供しました。
だから、仕事で返すと言ってやり過ごそうと思っていたところ、それがどんどんボリュームが増えてきたのでギブアップしたとの事でした。
ですが、本社の部長に歓迎会に誘われた事をパワハラとして訴えたのは、さすがにやりすぎだと思いましたが、忘年会ではそこを突っ込む人はいませんでした。
パワハラの件は、現場長が赤岡部長に事情を説明して事無きを得ましたが、あの時は本当にヒヤヒヤしました。
後に、現場の皆さんは、この一件を、
「歓迎会はパワハラなのか事件」
と、言うようになりました。
これまでが、自分が会社の飲み会幹事をやらされた時の嫌な出来事になります。
最後までご拝読頂きまして、誠にありがとうございました。
今回のお話はいかがだったでしょうか。
汗だくで作業した後の最初の一杯は最高ですね。
会社の飲み会というのは、幹事がある程度の裁量があって、飲み会々場も自宅に帰りやすい場所を選んだりする事が出来ます。
ただ、会社の同僚が大人しい方ばかりとは限りませんよね。
癖のある人や、大騒ぎする人、はたまた飲み会自体にクレームを付けてくる人もいますからね。
先輩方にとっては、会社の飲み会はコミュニケーションの場として考えている方もいて、楽しみにしている場合もありますが、仕事の延長線上の拘束時間的な要素が無い訳ではありません。
終業しているのに、同じ面子で更に時間を共にしないといけないというストレスも、往々にしてありますからね。
このお話の中では、よく会社の飲み会をしていましたが、数年後に現場長が寄川さんに変わってからは、会社の飲み会を欠席する人が増えてきました。
寄川さんが、いつぞやの忘年会(ブー年会とか言う人もいましたが)でコテンパンにやられたので、飲み会自体を推奨しなくなったからです。
新幹事さんが7月に暑気払いを企画したものの、同僚の方々は当日まで出欠の返事もせずに、当日も幹事が出欠を一人一人尋ねて回っていましたが、皆さんの返答は、
「出られません、でも皆さんで楽しんで来て下さいね」
というのが数名が続いて…、まあ、結局全員欠席でしたよ。
新幹事さんも、給料日直後に飲み会の企画してはいますが、それでも皆さん金欠だそうです。
新幹事さんは、今回の暑気払いの全員欠席はかなり堪えたようで、代替の飲み会を開催するのを萎縮してしまっています。
やはり、会社の飲み会開催は難しいものなのでしょうか。
因みに自分が幹事の時には、開催日程を告知した後に人数分コースで予約して開催していましたよ。
今までの飲み会の幹事さんありがとうございます。
そして、いずれなる幹事さんにもエールを送りたいです。
協力的な人ばかりじゃないけど頑張って!
あと、参加者の皆さんは、どんな些細な事でも幹事さんに協力してあげて下さいね。
今まで幹事をしていた方はお疲れ様でした。
長くなったので、この辺で終わりたいと思います。