第3章~2回目の暑気払いでの会話
増渕さんの代理人の交渉はうまくいったものの、事前に暑気払いの予約をしてしまったのもあって、自分が何度も酒の席に誘ったのが気に食わなかったのでしょう。
2回目の暑気払い当日に、増渕さんは本社の赤岡部長にパワハラを受けたと連絡を入れたのでした。
それを機に、増渕さんにあからさまに肩入れする同僚もいましたが、当人の歓迎会に招待されたいるのに理由もなく断るのは許されるのか?という論議も起きました。
それこそ、増渕さんは嘘をついてでも理由を言えば、とりあえず歓迎会は流れたんでしょうが、また誘って来られては堪まったもんじゃないと思ったのか、強硬手段に出てきました。
それにしても、態々本社の赤岡部長にまでパワハラを訴えるとは…。
自分は現場長に頼まれて、任期でもない幹事をしただけなのに…。
それで、現場長と増渕さんの板挟みになってどれだけ苦労したか…。
一番は、何度も何度も断られた事により精神的にショックを受けたので、それにより飲み会に誘う事がほとほと嫌になりました。
暑気払い前日も、増渕さんの気が変わる事がなかったので、代わりに荒井さんが出席する事になりました。
そして、暑気払いの当日になりましたが、自分はどんよりとした目つきで参加しました。
自分は、何杯かお酒が進んだところで、同席した皆さんに不安を口にしました。
「増渕さんが自分にパワハラされたって、今日の午後に本社の赤岡部長に連絡されたんですけど…」
と、打ち明けたところ、現場長が驚いたような顔をしてから、
「心配すんな!赤岡は俺と同期だ!俺から言っといてやるから」
と、得意気に言ってきました。
「すいません、お願いします…」
「いいからいいから!この件は俺も関わっているんだしさ」
そこで、皆で増渕さんについての話し合いになりました。
「彼奴、来年から幹事だけどそれもやらないって御涅るのかな?」
「いいや、甘やかすのは今回限りだ!きっちり借りは返させるよ!」
「それで、何で出なかったんだっけ?」
「それが…、出たくないから出ないって言ってましたよ」
「はぁ~、ふざけんなよ!」
「あと、残業代が出ないとかも言ってましたよ」
「新人がそれで通用すると思っているのかね?」
「でも、強要するとパワハラだって言って本社に連絡しますよ」
「その為に荒井君は2回も引き摺り出されたんだよな」
「それは大丈夫です、2回も招待してもらえて嬉しいです」
「そういえば、お酒の席を飛ばす代わりに仕事で返すとか言ってましたよ」
「そうかそうか、じゃあ、熱源関係の後継者がいないからお前がみっちり教え込めよ!増渕はボイラーの免許持ってるしな」
「そうだそうだ!言った事くらいはやってもらわないと舐められたままだぞ!」
「それに、歓迎会に誘っただけでパワハラなら俺らは何なんだよ!」
「20才のお兄ちゃんならまだしも40才だろ!」
「俺が前に増渕がいた現場の斉藤主任に聞いたら、現場の飲み会には出ていたって言ってたぞ」
「おいおい、40才でグレて現場デビューかよ!マジやめてくれよ~」
「ワハハハハッ!」
一同大笑いしました。
「でも、今はセクハラだのパワハラだのうるさいからな…」
「逆に、1人だけ誘わないのもヤバいんだろ?」
「だとしても、ここで何でもかんでも嫌だ嫌だを通してしまうと、今後ずっと言ってくるぞ!」
「じゃあ、とりあえず希望通り仕事で返してもらおうか」
「そうだな、お前もこのままじゃ腑に落ちないだろ!翌週からきっちりボイラーをやらせろよ!」
「分かりました、そこまで啖呵切っておいて、やらないとは言わせませんよ!」
「でもな、何人かは増渕の肩を持つ奴らもいるからな…」
「それでも、最初は歓迎会に出るって言ってたらしいじゃねえか!」
「そうだそうだ!どうしても行きたくないなら、最初から現場長に直談判すりゃいいだろ!」
「そうですよ、それを立場の弱い自分ばかりに言ってきて、本当にウンザリですよ!」
「まあ、あれだろ!新人を自分の派閥(グループ)に入れたいって奴らが、偽りの優しさで引き込もうって腹だろ!」
「彼奴らだろ!仲間を増やしてお互い仕事をなあなあでやりたいと思っているからな」
「だから、この現場は後継者が育たないんだよ!」
「それだけじゃないぞ!彼奴らは遅刻をして連絡が必要な時も仲間内で処理しているからな」
「今回のゴタゴタは、彼奴らにとって格好の餌食なんだろ!増渕は甘やかされる代わりに、奴らの言いなりになるんだろ!」
「そこはこっちも仕事で返してもらえば半々でしょう!」
「まあ、そう上手くいけばいいけどね…」
「荒井君はどう思う?」
「どうなんですかね…、個人的な意見だと僕は電気工事士の免許は持っていますが、ボイラーの免許は持っていないので、お互いにその分野で進んで行ったらお役に立てるとは思いますよ」
「成程ね、まだあんたは奴らの派閥に入ってないからこっちに来たんだよな」
「そうですね、入る事はないと思いますよ」
この日は、荒井さんがガンガン飲み食いした以外は、殆どが増渕さんに対する愚痴で終わりました。
あと、彼奴らとは前田さんと村岡さんの事を指していて、最近では二村さんに急接近していました。
二村さんが幹事の1回目の暑気払いが、特に何の問題もなく終わったのは、恐らく前田さんの派閥に入ったからなのでしょう。
そこに増渕さんが加われば、前田さんの派閥は10人中4人になるので、もう一息で半数に到達するという事情があったのもこの問題をややこしくしていました。




