第3章~忘年会が始まり例の案件を切り出すと
忘年会の当日、18時少し前にお好み焼き屋に行くと、我々のグループがお決まりの1番乗りでした。
人数が7名なので、4人掛けのテーブル2卓を4人と3人で座りました。
忘年会を始めてから40~50分は、お好み焼きともんじゃ焼きを鉄板に乗るギリギリまで敷き詰めて、次々と焼き上げました。
そして、皆でガンガン食べまくり、飲み放題のお酒もハイペースで飲み続けました。
その後、大分お腹が落ち着いたところで、例の件を中津川さんがさり気なく切り出しました。
「あのぅ、寄川さ~ん、今年は随分残業で稼いだじゃないですかぁ~」
「うん、まあそうだな」
「それでぇ、ここの飲み代が7人で23100円なんでぇ~、稼ぎのいい寄川さんが20000円出しては貰えませんかねぇ?」
「あぁ~?」
「そうしたら俺が600円払ってですねぇ、皆さんには500円ずつにしてやってはくれませんかねぇ~」
酔いが回った中津川さんが本題に切り込むと、寄川さんは大声で、
「はぁ~?何言ってんの!俺が稼いだ金なんだから、俺が自由に使って何が悪いんだよ!」
と、バカにした様に言ったものだから、ここからは言い合いになりました。
その頃になると、他の忘年会のお客さんも、続々とお店に入って来ました。
我々の席は、座敷に上がった1番手前のテーブルで、他の忘年会のお客さんは座敷を上がって我々のテーブルの後ろを通って奥に入って行きました。
お好み焼き屋というのもありましたが、座敷の奥に行くには通路が狭く、通るには半身になって壁に背中を擦りながら進んで行きました。
その間も、我々のテーブルでは寄川さんへの追及が続いていましたが、ここで小野さんが諭すように言いました。
「寄川さん、今年は皆さんに残業を振り分けないでお一人だけでかなり稼いだんですから、2万円位いいじゃないですか!」
「その仕事をうちらは日勤で散々やったんですから」
「たった2万円でうちらを1年間使えちゃうんですよ!」
「持ち合わせが無いなら今からATMに行って来て下さいよ」
寄川さんはろくに働きもせずに、残業で相当稼いだのは事実だったので、ここで折れるかと思っていたら、顔を真っ赤にして、
「ふざけんじゃねえ!これは俺が稼いだ金だから絶対に3300円しか払わない!」
と、小野さんを怒鳴り付けました。
すると、小野さんは鬼の様な表情になって、
「てめえは残業代だけで100万円以上は稼いだだろうが!」
と、怒鳴り返しました。
「ああ、確かに小野さんはいつも現場長の机の上を物色していましたが、そんなに稼いでいたとは…」
と、思っていると、自分と入社日が比較的近い前田さんが、
「寄川さん!それはないよね、幾らかでも多めに払わないと皆に秘密をばらしちゃうよ」
と、ニヤニヤしながら言いました。
そのタイミングで、自分は現場長から忘年会の寸志として、幾らか頂いていた事を思い出しました。
前田さんの話の途中でしたが、それを制して忘れる前にその話をしました。
「そういえば、現場長から幾らか貰ったんだった」
そう言って封筒を開けると、中には3500円が入っていました。
「何だ、3500円か…、でもまあこれで残金が19600円になったな、これを7人で割ると1人当たり2800円になるな…」
と、思っていると、前田さんが、
「はい残念!秘密をばらしま~す」
と、デカい声で言ってきました。
寄川さんは、口を真一文字に結んだままでした。
「何だよ、秘密って?勿体ぶるなよ」
と、何人かの同僚が言うと、前田さんは、
「寄川さんは、深夜に会社のパソコンでソープランドの事ばっかり調べています!」
と、暴露しました。
「マジか!そこに行く為にあんなに稼いでいたのか!」
「で、どんなソープ嬢なんだよ?」
「それで、何回位ソープランドに行ったんだよ?」
同僚の方々が次々と卑猥な質問をすると、前田さんは寄川さんが検索していた店名とソープ嬢の名前を得意気に答えました。
すると、今まで抑え気味だった藤井さんと村岡さんの手がプルプルと震えだし、次々と前田さんに加勢しました。
「俺らが日勤であんたの仕事をしていた時、何人のソープ嬢を抱いてたんだよ!」
「これで飲み代1人分だけっていうのは、いくらなんでも酷いでしょ!」
「別に、あんたが女好きなのは構わないけど、散々いい思いをしたんだから、俺らにも少しは還元出来ないもんかね!」
「そうだよ!散々あんたのケツを拭いた部下が可愛くないのかよ!」
普段は、イエスマンの藤井さんと村岡さんが、勇気を出して不満を吐露したのは驚きでした。
「そういえば、寄川さんは薄着の季節に如何にも風俗に行って来たー、っていう独特の匂いをプンプンさせていたなぁ…」
「今思えば、あれだけ稼ぎがあれば、かなりの高級店に行ったんだろうなぁ」
イエスマンの2人がここまで頑張っているんだから、いくら新人だとしても、自分も少しくらいは加勢しないと男が廃るな…、と思いました。