第2章~忘年会直前のたくらみ
それが、2ヵ月位してオーナー側の課長から、照明器具の電流量調査の進捗が悪いという事で、同僚の皆さんはその作業を日勤でやらされる事になりました。
寄川さんは、残業代を独り占めをしているくせに宿直明けでろくに働かないので、同僚の皆さんは忙しい通常勤務内で電流量調査をやらされる日々が続きました。
これには、さすがに同僚の皆さんも頭にきました。
「このまま、寄川の奴にやられっぱなしなのは如何なものか?」
と、何人かの同僚でコソコソと話をしていた時に、中央監視室の隣の事務所から大声での会話が聞こえました。
その声に吸い寄せられる様に、同僚の皆さんは耳を欹てました。
「おい!寄川君」
「はい、何でしょうか?」
「寄川君の残業代が凄い事になっているよ!」
「はあ…、でも現場長も他の現場でけっこう稼いでいるじゃないですか」
「いやいやいや、そんなちんけな額じゃないんだよ!」
…暫く沈黙…。
「なあ…、少しは他の奴らにもやらせてやれよ」
「いや、それは大丈夫です!」
「そう言うなよ~、お前、これじゃ皆に恨まれるぞ!」
「いいから!この話はもういいです!」
大声で話をしていたのは、現場長と寄川さんでした。
現場長は事務作業をする時に、偶に給料計算や人員評価等の重要な書類を出しっぱなしで昼食に行っていたので、同僚の小野さんはそれを目敏くチェックしていました。
なので、小野さんは寄川さんの稼ぎを把握していました。
忘年会の2日前に、中津川さんが同僚の皆さんに話し出しました。
「なあ、今度の忘年会なんだけどさぁ、ろくに働きもしないで稼ぎまくっていた、寄川の野郎に多く出させようぜ!」
「ええ、そうしたいですけどね…」
「仕事をするのは残業代が出ない俺達で、あいつは金だけを貰いやがって!」
「でも、新人の自分からじゃ言えないですよ」
「分かった!俺達だけで寄川の野郎を忘年会で吊るし上げるから!」
「分かりました、では会費の徴収は忘年会々場で会計直前にしますから」
「頼む、そうしてくれ!」
「俺達は、やらなくてもいい仕事を、暑い夏の間でも無償でやっていたんだから」
「俺なんて、早く調査の仕事を終わらせたら、照明器具のカバーまで清掃させられたんだから」
「そうそう、特に厨房の蛍光灯のカバーは酷かったな…、油まみれなのにマジックリンも無いんだから…」
「じゃあ、何でやってたの?」
「マイペットで地道にやっていたよ…」
「何でマイペットなんだよ!」
「マイペットの方が安いんだってよ」
「此奴なんて、自費でマジックリンを買っていたから完全に赤字だよ!」
「マジか…、無償でそれは許せないな」
「仕方が無いよ…、マイペットじゃ仕事が終わんないから」
「確かにな、俺達もそのマジックリンを使いまくったからな」
「そういえば、あの時は作業着もかなり汚れたな…」
「そうそう、普通の洗剤じゃ油汚れが落ちなくて、汚れ作業用の洗剤を俺が自費で買ってきたんだからな」
「うんうん、それがあったから何とか汚れが落ちたんだよなぁ」
「それでもって寄川の野郎は、作業着を汚さない(綺麗に保つ)のも仕事のうち!とかほざいているんだよな…」
「バカか!寄川の作業着が汚れていないのが問題なんだろ!」
「そりゃあ、宿直明けで食ってるか、ほぼ寝ているだけだからな…」
「作業着が食い物をこぼしたシミで汚れていたりして」
「それは受けるな…、でも、笑えない冗談だよ」
「それにしても、寄川の奴はあんなに稼いで何に使っているのかな?」
「何でもいいから、菓子折りの一つでも持ってくれば可愛げもあるんだけどな…」
「無理無理!そんな気遣いが出来るんなら、初めから残業代を独り占めしないだろ!」
「それもそうだな、俺達があいつの尻拭いを散々やってても、素知らぬ顔をしてるもんな」
「それでさぁ、寄川の奴に誰が最初にけしかけるんだよ」
そこで、中津川さんが意気軒昂として主張しました。
「そこは、言い出しっぺの俺に任せろよ!その代わり皆もフォローしてくれよな!」
「OK!それじゃあ、忘年会でいい子ぶるのは無しだからな!」
「そう言うお前が裏切るなよ!」
「それはねぇだろ!寄川の野郎にムカついている奴らしかいねぇんだから」
「それとな、今回は現場長がいないからチャンスでしょ!」
「よし!それじゃあ当日は打ち合わせ通りにやろうぜ!」
中津川さんがそう言うと、皆さんは頷きつつ持ち場に戻りました。
そして、2日後に不穏な空気の中、忘年会がスタートしたのです。