龍の血
「で、あの子は一体どこの子だ?」
「それが分かってたらこちらに連れてきてはいない」
「ま、それはそうだな」
フェオドラがヤーラたち女性騎士に連れられ退場した後、他の騎士達には持ち場に戻るように指示し、当事者と責任者だけになると開口一番にアルトゥールは問われる。しかし、答えが分かっていたのだろう、アルトゥールの答えに当詰所の責任者であるヴァルラムは分かってたとばかりに頷く。
「貴族街に星を持つ浮浪孤児、か」
一体どこから迷い込んだ? と首を傾げれば、やはり浮浪孤児は見たことなかったのかとアルトゥール。
「あぁ、平民街なら、まぁ、いるのだがな。貴族街となると浮浪孤児自体住処とする場所がないはずだ」
どこかで阿呆な貴族に飼われてなければ、とヴァルラムは腕を組み、唸る。
彼らが何故、こんなにも唸り頭を悩ませているかというとこの世界において多くの人間に龍の血が流れている。しかし、現在は大本となる龍はその姿を隠してしまっている。龍の研究をする学者たちは絶滅したのではないか、別世界に身を移したのではないかと日々議論を繰り返している。とはいえ、大昔のように龍と人が交配することはなくなり、人同士の交配が多くなったこともあって平民は当然ながら貴族もだいぶその血は薄くなっている。
龍の血の濃さは髪で一番わかる。王族、公爵家や侯爵家に程になると髪の色にはっきりと出ている。現にアルトゥールも頭頂部から裾にかけて遠目から見ても色が違う。アキムは下級貴族ということもあってか、金色の髪に毛先がオレンジと一見すれば、同色に見える。薄くなればなるほど色が統一されていく。平民の多くは単色となっており、貴族でも徐々にではあるが増加している。故に貴族は如何に自分の家に濃い龍の血を入れるかと家柄は勿論ながらも髪の色を特に注視する。
次に龍の血が分かるのが目。濃い血を持つ、もしくは先祖返りなどによって発現することが多い。星といっても常にわかるわけではなく、ある角度などから見ると目の中に星が見えるのだ。大体は十字の星が多く、フェオドラのように六条の星ともなるとかなり血が濃い。王族ないしはそれに準ずるものと判断されてもおかしくないほどだ。むしろ、王族にも現在は星を持つモノはおらず、星は失われたとまで言われている。
それなのにそんな子供がボロボロの姿で貴族街を歩いていた。頭を悩ませないわけがない。
「で、どこにあの子はいたんだ?」
「あー、すみません、僕、ちょっと知人に呼ばれてレオンチェフ様と別行動してました」
「どこから来たかはわからないが、俺の許にまっすぐ歩いてきた」
えへっと笑ってヴァルラムから目を逸らすアキム。それを気にせず、答えるアルトゥール。
「そういや、あの子、匂いに釣られて、レオンチェフ様のところまで来たらしいですよ。僕、全然、レオンチェフ様からそんな匂い感じたことないですけど」
「……匂いに釣られて、か。俺もそんなのを感じたことはないな」
アキムとヴァルラムにそう言われ、アルトゥールは不快感を表す。何故、好き好んで男にいい匂いだなんだのと断じられねばならないのだと。
それから、ズレた話を戻し、フェオドラについて話す。汚れていたとはいえ、髪は頭頂部から裾まで黒系統。目に星が見えたのは偶然だったのではないだろうかとまで話は行く。
「でも、あの子から預かったこの“パパ”、よくよく見ると十字の星の龍なんですよね」
これを“パパ”って呼んでる理由があるんじゃないでしょうかとアキムは預かったぬいぐるみで遊びながら疑問を呈する。どういうことだと首を傾げた二人にアキムはほらとぬいぐるみをゆっくりと左右に振って見せた。すると一見黒い目のように見えていた目に十字の星が現れる。
「父親に会えないからそれを模したものを作った、と」
「可能性はあると思いますよ」
じゃなきゃ、こんな角度を変えたら十字が現れるような手間のかかることはしないでしょうし、既製品であったなんて話も聞いたことないですしとアキムはぬいぐるみを眺める。
もし、十字の星を持ったものがフェオドラの父親だったとしたら、フェオドラが六条の星を持つ可能性もわかる。しかしなぁとヴァルラムは眉を顰める。
「言葉が分かるのだから、フェオドラに尋ねてみればいい。そろそろ風呂も出てくるだろ」
「うーん、まぁ、そうだな。そうするか」