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マル秘

「あの、トロフィム様、本当によろしかったのですか?」

「ん? なんのことかな?」


 フェオドラは部屋にトロフィムを引き込んんだもののやはり気に掛かっていたのだろう布のオバケ――トロフィムに言葉をかける。それに何かいけないことがあったのかなと実に不思議そうな返答をする。


「その、殿下に布をかぶせるなんて」

「あー、あぁ、それね。まぁ、いきなりだったから驚いたけど、君の状態も知ってるしね。不敬だと罰を与えるとかないから」


 むしろ、随分と怖い思いしただろうによくここまで頑張ったと思うよ、とトロフィムはフェオドラを咎めることはなかった。それにこういうのはやれる立場じゃないからとっても新鮮で楽しいと布に開けられた穴から覗く目は煌めき、聞こえる声が弾んでいる。むしろ、後の方が本音な気がするのは控えているメイドたちや仕立て屋の職人の気のせいかもしれない。


「それで、アーテャがダメで、私が大丈夫なわけは勿論、教えてくれるよね」


 絶対、楽しいことだろうとこれまた声が弾んでいる。あのフェオドラ無自覚に大好きなアルトゥールのショック顔も十分に見られて楽しかったがきっとそれ以上の何かをフェオドラが用意している、そんな気がしてたまらない。


「あ、あの、その、そんなに楽しいことじゃないのですが、トゥーラ様の制服の型を教えて、いえ、頂戴したくて」


 頬を赤く染めて、もじもじと語るフェオドラにトロフィムは布の中で笑みを携え、固まった。


 うん、これは見たことがアーテャにバレたら殺されそうだ、秘匿しよう。


 それよりも、制服の型がほしいとはどういうことだろうかと、今見えている光景を無視して、考える。


「うーん、まぁ、フェオドラ嬢だから、悪用をしないと思うから型ぐらいなら問題ないだろうけど、用途は何かな?」

「えっと、その、お恥ずかしいお話なのですが」


 内緒にしてくださいねと言ってごにょごにょと語られた用途にトロフィムの唇が釣り上がる。


「いいね、それ。いいよ、用意してあげるよ。ついでに生地もこちらが準備しよう」

「え、でも、それは……」

「勿論、用意できるのは最小限になってしまうけど、それが正規のものだと気づける人間は少ないはずだよ」


 それに量も悪用できるほどの量じゃない。むしろ、端切れだと思われて終わるさとトロフィムは明るく言う。そして、続けてどの制服の型が欲しいかと尋ねる。

 アルトゥールの職務は監査官である。特に彼の場合は様々な騎士団に不定期的に出向するため、専用の制服を持たない。その代わりとして所持するのは全ての騎士団の制服を彼専用に誂えた一式。


「えっと、その、それなら、巡回騎士の制服がいいです」

「ん? それでいいの? 近衛の制服もあるよ。むしろ、華やかだから、そっちの方がいいんじゃないかな」

「確かに華やかでトゥーラ様もカッコいいですが、私は巡回騎士の制服が好きなので」


 初めて出会ったときに着ていた制服。アルトゥールにとってはあまり愛着はないだろうが、フェオドラにとっては愛着のあるものだ。


「……ん、わかった。聞いておいて無理強いはよくないね」

「いえ、こちらこそ、お手数お掛けしてすみません」

「いいよいいよ、気にしないで。じゃあ、必要な型と生地はあとで送るよ」

「はい、ありがとうございます」


 嬉しそうに笑ったフェオドラにトロフィムは目を瞬かせる。反応しないトロフィムにフェオドラがどうかしましたかと問えば、いや、なんでもないよと言葉を濁した。


「それじゃあ、私はアーテャに挨拶してから帰るよ」

「あ、はい、お気をつけて」

「ん、ありがとう」


 布を振って、トロフィムはフェオドラの部屋からでた。出た辺りで近くに控えていたマルクに布を剥ぎ取られる。


「もう少し、あのままでもよかったんだけど」


 笑みを携えながら言えば、お戯れをとマルク。


「まぁ、楽しかったのは間違いないけどね。あ、そうそう、頼みがあるんだけど」

「引き抜きはお断りいたしますが、なんでございましょう」

「最初の一言いるかい?」

「それで、ご用件は?」

「あー、はいはい、頼みというのはね――」


 聞かれぬようにこそこそとマルクに話せば、彼の口元に笑みが浮かぶ。


「成程、承知いたしました。後ほど、そちらはご用意いたします」

「あぁ、よろしく頼むよ」


 トロフィムの言葉を聞き、サッと下がったマルクに本当に王宮に欲しいなとボヤキながら、階を下りた。





「……遅い」

「いや、先程から時間は経っておらん」


 食堂で茶をもらいつつ、ヴィークトルはアルトゥールを窘める。先程から、遅いと言ってはトロフィムを回収しようとするアルトゥール。しかし、実際はヴィークトルの言うようにそれほど時間は経っていない。


「些か、心が狭くなっているぞ」

「そんなことはありませんとも」

「いやいや、あるだろうよ」


 やいのやいのと言い合いする親子の後ろにそっと近づく影。彼らの前に立つ使用人たちは何も告げない。それは単に影が楽しそうに人差し指を口に当てシーッと指示をしているに他ならない。

 かつりと靴の音が聞こえ、アルトゥールとヴィークトルが振り替える。同時にアルトゥールの方からプツッと何かが切れる音がした。


「いっ、トロフィム!」

「あぁ、悪い悪い。それから、これ、もらっていくよ」


 犯人には目処がついていたのだろう名を呼べば、悪びれもなく謝り、手に握っているアルトゥールの髪の毛を貰うなどと言う。まさか、お前、そんな趣味がと言えば、人聞きが悪い入り用なんだと答える。


「殿下、こちらに。それから、先程頼まれたものもご用意できました」

「助かるよ、ありがとう」


 トロフィムから髪を受け取ったマルクはハンカチにアルトゥールの長い髪を数本包み、その上に彼が頼んだらしい紙束が差し出される。トロフィムは礼を言い、それじゃあといって説明と言う説明をせずに帰っていった。


「なんだったんだ」

「さぁ、俺にもわかりかねます」

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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