表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/72

母の言葉

『可愛い可愛い私のフェオドラ。よく言葉を聞いて、学び、覚えておきなさい。ただ、アレらの前では決して言葉を発してはダメよ』


 少女――フェオドラはまだ母が生きている時、彼女からそう言い聞かされていた。言葉は分かる。意味も彼らの表情からなんとなく理解はしていた。ただ、言葉を発するのは母と母が作ってくれたドラゴンのぬいぐるみに対してだったため、その発音であっているのかはわからなかった。


『大丈夫よ。だって、あなたは私と|パパ≪・・≫の子だもの』


 いつも母はぬいぐるみをパパと呼び、大事にそれを抱える娘ごとそう言って抱き締める。優しくて、あったかくて、生活は大変であったけど、フェオドラの中で幸せな時間だった。





「…………まぁま?」


 ちんちろと鳴く虫の音にフェオドラは目を覚ます。もう空は暗くなっていた。

 周りにあるのは森。母の姿はどこにもなかった。あれは夢だったのだと分かると肩を落とす。冷たくなって動かなくなってしまったあの日から母はもういないのだと思い出し、フェオドラは痛む体に鞭を打ち、立ち上がる。


「お月さま、まーまるちあうね」


 空を見上げ、月を見る。いつだったか、母は言っていた。


『十五の満月の日、あなたの道が開けるわ』


 満月というのがわからなくて首を傾げれば、お月様が真ん丸になる時のことよと教えてもらった。そして、道が開けるというのはその時にならないとわからないことだけど、フェオドラにとって良いことがあると母は語った。

 母がいなくなってからフェオドラの救いはそれだけだった。だから、毎日夜空を見上げた。


「うー」


 今日の月はまるで怖いあの子が笑ってるかのような弧を描いて、思わずフェオドラは唸ってしまった。いつもいつも会う度になんかしらしてくるあの子。魔法を覚えてからは魔法を飛ばしてくるのだから、厄介だ。


「まーまるお月さま、まらかな」


 真ん丸お月様は何度か目にしたが、いいことはなかった。でも、母の言っていた十五に当てはまる時がくれば、きっとと諦めきれない。

 はぁと溜息を吐き、再度空を見上げるも空に浮かんでいるのは笑っているかのような月。いくら見上げても変わるはすもなく、フェオドラは諦めて、住処にしている洞へと向かった。

 途中、木の窪みに溜まった水で喉を潤し、洞への道に落ちている木の実を食べた。


「これはパパにあげよ」


 美味しいなと思えば、数個は寝る前にどうぞとぬいぐるみに捧げる。とはいえ、ぬいぐるみは抱きしめて眠るのでぬいぐるみを置いていた場所に置くだけなのだが。それでも、翌朝には置いていた木の実はなくなっている。小動物が持っていったのか、はたまた本当にぬいぐるみが頂戴したのかはわからない。


「レーラに幸を、ヤーシャに祝福を」


 洞で寝床を整えたフェオドラはぬいぐるみを前に手を組み、そう言葉を口にする。母がいつもぬいぐるみにしていたおまじない。どういう意味なのか聞いても穏やかに微笑んで首を傾げるだけだった。だけど、少し母を感じるようでフェオドラは毎日寝る前には必ずそれを母亡き後行うようになっていた。

 そして、ぬいぐるみを抱き締めて深い眠りに落ちていく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ