二度目の顔合わせ
「フェオドラ、起きたか」
「ん」
アルトゥールが客室に入ると既にフェオドラは上半身を起こしていた。フェオドラに侍っていたインナは起きたタイミングで入ってきたアルトゥールに驚き、困惑する。しかし、当の本人たるアルトゥールはそんなインナの姿が目に入っていないようで、真っ直ぐフェオドラのベッドに近寄るとその縁に腰を掛けた。
「だいぶ、顔色も戻ったな」
指の背でフェオドラの頬を撫で、アルトゥールは赤みの戻った頬に安堵する。頬を撫でられるのにくすぐったがりながらも、もっとと頬を寄せてくるフェオドラにくすりと笑みが浮かぶ。
「あ、服、ありあと」
「あぁ、妹の小さいときのだがな。着替えさせたのはインナだ、礼は彼女に言え」
「ん、えっと、んと」
「無理に起き上がるな。そのままでいい」
「あい、いんあ、ありあと」
気づいたとばかりにフェオドラは礼を告げるがアルトゥールはそれはインナにと流す。インナという人はあそこの人かとアルトゥールの影に見えた女性にフェオドラは近づこうとした。けれど、すぐにベッドに戻され、フェオドラは大人しくそこから礼を言うことにした。インナはというと突然見たこともない若主人に困惑していたため、礼を言われたことに気づくのが遅れる。それでも、フェオドラはこれかわいいと嬉しそうな笑みを浮かべていたため、大したことなどという言葉しか出てこなかった。
「そうだ、後からまた先程の人らが挨拶に来る」
「う゛」
「お前が恐れるような人たちではない。出来るだけでいい、服ではなく、顔を見ろ」
嫌だと顔を顰めたフェオドラにアルトゥールは彼女の顔にかかる髪を耳にかけながら、優しくアドバイスをする。ただ、やはり最初は服に目がいってしまうだろうから初めて会った時の服ではないものに着替えてもらっていると付け加えた。
「かお」
「そうだ。俺の顔は見れてるだろ? そんな感じでいい。大丈夫そうか?」
「ん、がんわう」
額がくっつきそうな程近い距離で顔を見ることを確認する二人。インナはあれ? この二人って恋人とかそんなんでしたっけと首を傾げる。
そんな中、コンコンとノックが響く。ビクリと体を跳ねさせたフェオドラにアルトゥールはクッと笑い、落ち着かせるように頭を撫でる。
「安心しろ、大丈夫だ」
そう言われても怖いものは怖いとばかりにぴったりとアルトゥールにくっついたフェオドラはアルトゥールの影からドアを覗き見た。けれど、ノックはあったものの誰かが入ってくることはない。
「あー、アーテャ、入っても大丈夫かな」
「えぇ、大丈夫です」
「それじゃあ、失礼するよ」
ガチャリとドアから音がするとぎゅっとアルトゥールの服を握るフェオドラ。入ってきたヴィークトルたちはピッタリ寄り添ってる二人に何とも言えない顔。知り合いとか恋人ではないよなとインナと同じことを思ってしまう。
さぁ、改めて自己紹介をしようとするもフェオドラの視線がどこか下になっていた。
「フェオドラ、どこを見るんだったか、覚えているか」
「……かお」
「そうだ。視線が下がっていたら、見えるものも見えないぞ。ゆっくりでいい、顔を上げろ」
「ん」
あれは一体誰だ、息子ないしは兄に対し三人はそんな感想を抱く。アルトゥールは良くも悪くもあまり人に入りこまない。そのはずなのだが、言葉遣いは普段通りだがその声色は聞いたこともない優しく甘いもの。アドバイスをしているのは分かる、分かるのだがどうしても声色とその優し気に見つめる目が気になってしょうがない。
「め、いっしょ」
「あぁ、父上とは目の色が一緒だな」
そんな三人もといインナも含め四人が困惑する中、フェオドラはヴィークトルの目の色がアルトゥールと一緒だと指摘し、アルトゥールはそれに頷く。なにが面白かったのか三人とアルトゥールの共通点を声に出して、アルトゥールに報告していった。
ハッと気を持ち直したヴィクトールはフェオドラに声をかけ、自己紹介を交わし、その目を確認した。それに続くようにヴェーラも声をかけ、隣で睨むようにフェオドラを見ていたジナイーダをも紹介する。ジナイ―ダに関してはやはり怖い所が多いのかフルフルと震えていたが、言葉に詰まりながらも懸命に自分の名前を返す。そして、代表してヴィークトルはフェオドラに貴族らしい服装に慣れていってほしいという事、一先ずはアルトゥールの寝泊まりしている別邸で生活してもらうことをゆっくりとフェオドラにわかりやすいように説明した。
「えっと、あの」
「うん、なんだい」
「ありあと」
「こちらこそ、頑張ってくれてありがとう。今日はもうゆっくりとおやすみ」
なにか喋りたそうなフェオドラの言葉を待てば、まさかのお礼。それにヴィークトルは相好を崩し、彼もまたフェオドラによく頑張ったねと告げ、睡眠誘導の魔法をフェオドラにかけた。眠たさでふらつくフェオドラをアルトゥールが支え、横に寝させるとフェオドラは素直に睡魔にその身を任せた。