家族会議
「さて、話してもらえるか」
「承知しました。まず、フェオドラは六条の星持ちです」
「な、六条だと!? ちょ、確認してきても――」
「あなた!」
「うむ、すまない取り乱した」
厳かな雰囲気で始まった家族会議。しかし、それはアルトゥールの報告で一瞬にして霧散した。がたりと立ち上がったヴィークトルにヴェーラの叱咤が飛ぶ。それによって、静かに腰を下ろした。
「あくまでもフェオドラの母親の言葉からですが、父親が十字の星持ちだった可能性があります。あと、俺が選ばれた理由としては異様に懐かれているのもあります」
アルトゥールは何となくヴィークトルの反応がわかっていたのだろう慌てることなく冷静に見ていた。そして、着席したのを見て、何事もなかったように話を続けた。
確かに顔合わせの際の様子を見てもフェオドラはかなりアルトゥールを信頼しているように思える。
「十字とか六条の星がなんなのですか! 龍の血が強かろうと孤児ならば神殿に預けてしまえばいいじゃないですか」
私たちの家が引き受けなければならないことではありませんとジナイーダは頬を膨らませて意見をする。それにヴィークトルは確かにその通りだと頷く。それではとパッと顔を明るくするジナイーダ。
「ただし、神殿に預けるということは今落ち着いている神殿と王家の関係を大きく崩すことになる。それほどまでにあのフェオドラという子は貴重な子なのだ」
十字であろうと星を持つ者は今の王家にも神殿にもいない。辛うじて、国王陛下の龍の血が濃いため、王家が優位に立てているのだとヴィークトルは説明する。
「下手に貴族に養子に入れたところで神殿からあの子を守るには弱すぎる。その点、我が家なら、ある程度は牽制できるだろう。それに何よりの強みはあの子がアルトゥールに懐いていることだ」
そういうことまで考えて今になっているのだろうとヴィークトルは胸を張って語るが恐らくあれは神殿と王家の関係など考えてないぞと心の内で零す。遠くでヴァルラムがくしゃみをする幻覚が見えた。
「それで、アーテャ、どうするのです?」
「どうするとは」
「あの子の住む場所です。ここでも良いですがあの子は緊張してしまうでしょう?」
良くないわとジナイーダが声を上げるが、ヴェーラはそれを黙殺。アルトゥールとの会話を続ける。
「確かに。それでは、俺が使用している別邸で過ごしてもらうのでいいでしょう。どうせ、あまりあちらには帰りませんし」
「それじゃあ、つまらないじゃない」
「母上、一体何がおっしゃりたいのですか」
「折角の女の子よ。おしゃれさせたいじゃない」
いや、それはお好きにどうぞとしか言えないのですがとアルトゥールが零せば、あの子を怖がれせるのは本意ではないのですよと言われ、ようやくヴェーラの言いたいことを理解する。
「でしたら、服装を変えられたらいいのでは」
フェオドラは貴族らしい服装に恐怖を持っている様子だと告げれば、成程と夫妻から返ってくる。
「そもそも、なぜよりにもよってその服装を選んだのですか」
ヴィークトルはシャツ、パンツの上にいつもは仕事場である王宮やパーティに来ていくジレにアビの華美スタイル。同じ様にヴェーラもパーティに行く際のコルセットを着用してまで着る重装備ドレス。ジナイーダは学園上がりだったこともあって、すぐに着られるタイプの華美なドレスだった。とはいえ、そんなドレスすらフェオドラの琴線に触れてしまったわけだが。
「いや、一時預かりとはいえ、顔合わせだったからな」
「父上は普段着で大丈夫でしょうが問題は母上の方ですね」
「ドレスがダメなら、庶民の格好ならいけるかしら」
「まぁ、それは大丈夫だと思いますが使用人たちの嘆き案件になるのでお止めください」
「なら、どうしろと?」
「一応、詰所では騎士服などは大丈夫だったので乗馬服などで良いのでは」
確か若い頃に来てたのがあったわね、着れるかしらと言いながらアルトゥールの提案にヴェーラは侍女を呼び、確認をとる。
「なんてめんどくさい子なの」
「ジーニャ、そんなに嫌なら別に会わなくても大丈夫だぞ」
「いいえ、会いますわ。私の乗馬服も用意してちょうだい」
ぎゅっと扇を握ったジナイーダは近くにいたメイドにそう指示を飛ばす。アルトゥールは無理する必要はないんだがと苦笑いを浮かべる。
「……ん?」
「どうした」
「いえ、フェオドラが目を覚ましましたね」
「待て、なんだって?」
お前にそんな能力あったかとばかりに眉を顰めるヴィークトルにアルトゥールはただの勘のようなものですよと答えるが、アルトゥールの中では間違いなくフェオドラが目を覚ましたと根拠はないにせよ確信はあった。ただ、家族が何故そのことを不思議に思うのかが逆にアルトゥールには不思議に思えた。
「先に声かけておくので着替えが済んだら、教えてください」
「あ、あぁ、わかった」
戸惑うヴィークトルにアルトゥールは失礼しますと頭を下げ、フェオドラのいる客室へと向かった。
「アイツ、あんなに他人を気にする奴だったか?」
「いいえ、可もなく不可もなくといった感じだったはずですけど」
「お兄様が壊れた」
呆然とする三人は執事のお着替えはという尋ねにあぁ、そうだなとアルトゥールの言動に頭を捻りながら、用意してもらった服に着替えるのだった。