魔女として使役している黒猫に愛された話・・聞く?
我が家は不思議な家だった。
小さい頃から、母は薬草を育てて薬を作っていた。箒は常に家に5本はあった。あと母は、私が小さい頃からほとんど黒い服を着ていた。たまーに小物がカラフルなくらいだ。
3歳のある日、
「お母さん、なんで黒い服ばっかり着てるの?」
そう聞いたら、母はけろっとした顔で、
「だって魔女だもの。リトも将来は魔女になるのよ」
そう言われて、目を丸くした。魔女・・?魔女・・って魔法を使う魔女!?びっくりした途端、私は前世で人間で、しがない女子校生で、若くして横断歩道で轢かれそうになった黒猫を助けて死んだのを思い出した。
あらー・・、今世は魔女なんだ!一瞬驚いたが、すぐ飲み込んだ。まぁ3歳だったし。
そんなわけで、魔女として母に特訓を受けたものの、なんともポンコツだった。ものすごいポンコツだった。魔法を使えば、違う方向へ物がすっ飛んでいくのは、数えきれず・・。箒に乗れば、物凄くのろいか、物凄い早いか。まさにポンコツ、キング・・じゃなくて、プリンセスオブポンコツ。
13歳になったら、動物を使役して18歳まで一人暮らしをしながら使役した動物と魔法の修行をしなければいけないのに、あまりのポンコツっぷりに、使役されるはずの動物から、ほぼ「お断り」「祈ってます」的なお手紙を頂く。こんな時、前世でアルバイトを申し込んだのに断られる経験を思い出した。凹む。地味に凹む。
母は、「あららら、どうしましょうね〜」と呑気に言ってたが、私はもう13歳。
どうしようかと家の玄関で思わず座り込んでため息をついていると、一匹の黒猫がやってきた。
「・・・・貴方がリトさんですか?私、ロイスと申します。よろしかったら貴方と修行いたします」
歓喜した。
やったー!!!これで修行できる!!
ポンコツだけど、なんとか頑張ろう!!そう思って、母にロイスを抱えてすぐに修行へ出る!と言いに走っていった。母は、「話を聞け!」って言ってたが、すぐに一人暮らしできる場所を探した。
実家から、最低2つは県を超えないといけないのだ・・。
ロイスは非常に優秀で、「この街の、ここに空き家がありました」と教えてくれた。え、どうやって猫なのに家を探すんだろ?不思議そうに顔をみると、ピカピカと目を光らせ、
「造作もないです」
と、言ってのける。いや〜・・、うちの使役した猫は優秀で助かる。
早速引越し、一緒に暮らすことになったものの、私のポンコツっぷりは変わらなかった。
失敗をするのが定石、もはや定番。
しかし、家事スキルだけはどんどん向上していく。
ご飯の腕はメキメキ上がり、ロイス用の食事も日々グレードアップしていく。
掃除も手早く綺麗にできるので、近所の足の不自由なおばあちゃんの手伝いにいったら、物凄く喜ばれた。裁縫もお手のもんよ!と、ばかりにクッションやシーツ、洋服も作る。近所のこれまた手の不自由なおじいちゃんにあげたら喜ばれた。一日一善!!
・・・・おっかしいな〜、魔女修行のはずなんだけど。
でもロイスは呆れつつも、私のそばで魔女の猫として働いてくれた。
「仕方ありませんね・・」
「ごめんね・・、いつも迷惑ばっかりかけて」
「魔女の修行は、身辺を整えていくのも必要ですからそこは問題ないのですが」
「だよね〜・・、あと少しで18なのに・・。もし魔女になれなかったら、ロイスは次の人を見つけてね・・」
ロイスは、目を丸くして私を見る。
「私は必要ないと?」
「いやそんなことないよ!!むしろ私より魔法が上手で、この間、失敗して天井の大穴を開けちゃった時、直してくれたのすんごく助かったし、魔法薬作ったのに、どす黒い意味不明な液体をちゃんとした薬に直してくれたり、数えたらきりがないくらい助かってるけど・・、私ポンコツだし」
言うたびに自分のポンコツっぷりに泣ける・・。
どんだけ出来ないんだ・・もう5年の歳月があっという間に経とうとしてるのに・・。
「・・・・それだけ優秀な猫なら、私じゃなくても・・」
ポツリと呟くと、尻尾でバシッと床を叩く。
「もう結構!」
ロイスは怒って、それ以降その問題を話すことはなくなった・・。
でも、本当に優秀なのに・・。
あと少しで18・・。
私はロイスに内緒で母に手紙を書いた。もしこれから魔女修行する子がいたら、優秀な黒猫がいるからと伝えておいて欲しい事。あと、魔女・・やっぱり無理そうです・・って書いた。あまりに情けない内容で泣けた・・。ちょっと本気で泣いて、次の日、目を腫らしてロイスに挨拶したら、驚かれた。
「どうしたんです?!」
「いや、ちょっと魔法薬失敗して・・」
「貴方は、一生懸命すぎるから心配です」
黒猫のロイスにまで心配かけてしまった。反省。
そうして、とうとう18歳になった。
誕生日に私とロイスは、これからも私に使役されていくかを確認しなければならない。ロイスは優しいから、きっと私が断っても使役されたままでいいと言うと思って、その夜・・部屋にロイスを呼んで話す。
「ロイス・・、あのね私は魔女としては半人前だから、ロイスは別の子を紹介するから、もう・・パートナーを解消しよう!!!こんな情けない私と5年もいてくれて・・本当にありがとう!!」
先手必勝!!ロイスに頭を下げた。
テーブルの上に座っていたロイスは、低い・・低い声で
「・・・・解消?」
と、言うので怖くて頭を上げられない・・。やばい、怒った時のロイス・・黒猫なのにめちゃくちゃ怖いんだよね・・。ぎゅっと黒いワンピースを掴む。
「魔法薬も作れなくて、すぐに物をあちこち飛ばす魔女の分際で?」
「言葉もございません!!」
「ご飯は美味しいし、掃除は行き届いてるけど、ポンコツの分際で?」
「うん?多少のお褒めありがたき幸せ!!!」
「私がどれだけ貴方が好きだと表現してもまったく気付かない分際で?」
「え?!ちょっと待って!ストップ!!!今、一言なのに情報過多だったよ?!!」
驚いて顔を上げると、目の前に男性が立っている。
真っ黒いショートヘアに、ピカピカ光る目がこちらを見ている。あらま結構なイケメンさんですね。
「・・・え?どなたでしたっけ?」
「ロイスですが」
「あれ?人間になれたっけ?」
「何度か話しましたが、貴方は聞いてませんでした」
「え?!そうなの、ご、ごめんね・・・」
ロイスはまた一つため息をついて、私を見る。
「貴方は確かに魔法は下手くそですが、とても優しいです」
「あ、どうも・・」
「過去世が面白いと思って、貴方の使役する猫となりましたが、今世の貴方も十分面白いですし」
「面白い・・・、あれ?過去世知ってたの?」
「過去世で助けて頂いたのが私です」
「えっ!!!!!???」
「なので、今世は貴方を助けに来たのですが・・」
そういって、私の頬をそっと綺麗な指先が撫でる。そうしてピカピカ光る目が私を愛しそうに見つめる。
「・・・貴方に恋をしたので、責任を取って頂きます」
「せ、せ、責任?!」
「最初に恋人になって頂き、その後妻になって頂きます」
「え?!なんで???!!!」
聞くよね?そう言われたら聞くでしょ?
ロイスは、ふうっとため息をついて額にキスする。
「・・・・貴方が好きだからです」
初めて見る人間のロイスは、顔を少し赤らめて私に告白した。
そんな経験、修行で皆無だった私はもちろん赤面しましたとも。びっくりして椅子から落ちましたとも。
可笑しそうに笑うロイスが椅子から立たせてくれて、
「返事は、はい・・でいいですよね?」
って、ピカピカの目が言うから、思わず頷いてしまった・・・。
そうすると今度は嬉しそうにキスしてくるのでとうとう私は固まってしまった・・・。
しばらくして、母に手紙を書いた。
「どうも使役していたはずの猫から求婚されて、私は結婚する事になりそうだ」・・と。
ちなみに母からの返信は、
「知ってた。おめでとう」だった。
・・・・いつ知ってたの?そして、これでいいのか???
膝で嬉しそうに黒猫のロイスが眠っている。
・・・うん、まぁ、いいのか・・。
使役しているはずの黒猫に、本日も私は愛されているようだ・・。暖かい午後の日差しを受けつつ、黒猫を撫でると、ゴロゴロと喉を鳴らしている。
まぁ、いっか。
夏休みだよ!短編だよ!!
みたいなノリで書きました。
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