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宇宙探検(最終稿)  作者: 爺痔オンライン
第2章 お彼岸に善悪
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 第2章 2-01_2

サブタイトル ※※※ 下談話 田中君 ※※※


「ぐわっ」

 英宗建設(株)の昼休み。

 渡辺専門官が会社の男子トイレに入ると、個室のほうから悲鳴が聞こえてきた。


(田中君か。そういえば痔持ちだったな。)

 続いて、

「だ、誰だ、ウォシュレットの水圧を最強にしたのは。勘弁してくれよ。痛ててて」

 後半の「痛い」は、トイレットペーパーで尻を拭いたときのものだろう。


「ふう、やれやれ・・・あ、渡辺さん!すみません、お騒がせしまして」

「いや別に迷惑ではないぞ。それより、田中君の痔は、なかなか大変なようだな」

「ええ、切れ痔8割、いぼ痔2割といったところです。治療はしてますが、なかなか良くならなくて」

「ふーむ。この医学が発達したご時世に、完治しないと?」

「そうですね、AIドクターからいろいろと指摘されていますが、どうも、なかなか」

「いろいろ、とは、例えば、ドクターは何と?」

「本当にいろいろです。食事から、睡眠から、生活習慣から」


「そうですよね、田中係長の下の話についちゃ、社内では日常風景ってところですし」

「まったくもってお恥ずかしいところです、って、アリスさん! いつの間に。というか、ここ、男子トイレなのですが」

「まあまあ固いことは言わずに、私も話に混ぜてくださいよって、あらら~」


 アリスを男子トイレから廊下に強制退室させ、ついでにお小言も言っておく。

 レディの行動としては、いささか問題がある、というよりも、よくも抵抗なく男子トイレに入れるものだ。

 めげないアリス嬢が、トイレから出てきた田中君に声をかけた。


「田中係長! この際、貴殿の下の話に、きっぱりとけりを付けたいのですが! 下だけに!」

「あのぅ、けりを付ける、というのはどういったことで?」

「田中係長、私は医学にも造詣が深いのですよ、だから、田中係長のおもしろ(けふん)、田中係長の健康に関する話を聞き取らせていただきたい、ということです」

「いま、面白い話、と言いかけませんでしたか」

「言ってないよ、おいら、あやしいもんじゃないよ、アリスってんだ」


 割って入る。

「まあまあ、田中君。本当に、いい治療法を見つけてくれるかも知れないぞ、アリス嬢は。この際、話してみたらどうだ」

「はあ、渡辺さんがそうおっしゃるなら。分かりました」

「アリス嬢、田中君は話してくれるということだが、もう昼休みも終わりだし、午後は梅木財団一行も来るから忙しいだろう。帰りに飲みに行くということでどうかな」

「渡辺専門官のおごりですか?」

「・・・まあ、それでいい」

「やったぜ、御大尽様! よ、よし、じゃあ、さっそく母、もとい御代課長と鈴木代理に了解もらってくる!」


 言ったか言わないかくらいで、実にうれしそうなアリスの姿が目の前から消えた。高速移動すぎて、瞬間移動でもしているかのようだ。


「子供なのか、大人なのか、よく分からん。そういえば、アリス嬢は酒を飲んでよかったのだろうか、年齢的に」

「どうなんでしょう。メチルアルコールを原液で飲んだとしても、何の影響も出ないと思いますが。人間の法律を適用していいのかもよくわかりません」

 などと会話している間にアリスが戻ってきた。

「渡辺専門官! 両親に了解をもらって来ました。300円までならおごってもらっていいそうです!」

「安いな・・・じゃあ、アリス嬢、田中君、19時にいつもの居酒屋『めんどう』でいいか」

「よっしゃあ!」


 アリスのツボはどうもよく分からなかったが、楽しそうなので何も言わないことした。

 起動したばかりの頃は奇行も目立ったが、いまやアリスは営業一課全員の娘みたいなものだ。誰からも愛されている。


******************************


(ガラガラガラ)

「めんどうですが、いらっしゃいませ。お客様は3名様ですか?」

「予約していた、渡辺という者だが」

「予約の渡辺様ですね、めんどうですがご案内します。こちらへどうぞ」


 なぜこの居酒屋の店主が、こんな接客方針にしたのかは分からない。他店との差別化を図ったのだろうか。

 このホール店員のお兄さんの口癖のような発言「めんどう」は、この店の名前でもあるのだが、会話だけ聞くとまったくもって失礼だが、実際の接客態度やサービスは、むしろ他店より行き届いている。料理の味、店の雰囲気、コスパも他店より優れている。

 大抵の客は変な発言はやめればいいのに、と思っているが、それでも続けている理由は不明だ。

 あるいは、面倒だと発言することによって、実際の行動はめんどくさがらずにする、といった効果があるのかも知れない。いや、実際は全く分からないが。


「あー、とりあえず生ビール2つと、アリス嬢は・・・オレンジジュースでいいのか?」

「いえ、とりあえずお冷で」

「生2丁、お冷をピッチャーですね、めんどうですがすぐお持ちします」

「よろしくね」

 本当にすぐ、1分もかからずに頼んだ飲み物とおしぼり、箸その他諸々が出てきた。

 優秀すぎるだろう、この店員。めんどうですがごゆっくりどうぞ、とか言いながら去っていく。

「よしじゃあ、乾杯、今日もお疲れ様」

 一同、唱和する。しばらくの間、出てきた料理やら追加の飲み物を各自飲む。


「うまい!枝豆の殻とかレモンの皮、最高かよ」

とは、アリス嬢の発言。

「アリス嬢、もっとおいしいものを食べてもいいんだが」

「いやいや、300円までと言われてるから、高価なやつは厳選しないとですよ。とはいえ、じゃあ、せっかくの渡辺さんのお勧めだから、焼き鳥の串から肉を1個ばらしたのをもらっていいですか」

「ものすごく控えめだな(串から外した肉をアリスの取り皿に乗せる)、肉1個でいくらの計算なんだ?」

「30円です!あ、ちなみに30円だと、焼き鳥の串1本の問屋からの仕入れ値と同じくらいですね」

「うあ、アリス嬢、それは店の中では言ってはいかんよ」

「了解であります、渡辺さん」


 宴会が半ばまで進む。


「さて、そろそろ本題に入ろうか」

「本題?なんでしたっけ?」

「田中君、君の健康問題についてだよ」

「あ、そうでした。これは失礼」

と田中君。

 ん?何だかアリス嬢も、あっ、みたいな顔をしているな。もしかして、忘れていたのかも。

「こほん。では、田中さんの健康問題、特に下の問題について、ヒアリングしていきたいと思います。まず、チェックする項目ですが、これは基本、全項目をチェックしていきたいと思います」

「全項目、というと、健康診断の全項目ってことかい?」

「いえいえ、ここで聞き取る項目は、ネタ(げふんげふん)、失礼、下に関する症状といいますか、そちらから行ってみたいと思います。なお、当然ですが、田中さんは男性ですから、女性に関する項目はおたずねしません」

「わかりました」

「ヒアリング項目を表にすると、こんな感じですね」

 と言いながら、アリス嬢が割り箸の箸袋を開き、両手の指先を押し付けるようにして、文字どおりはんこを押すように文字を印刷していく。

 いやはや、こんな小さな紙切れによくもまあ、印字できるものだ。印刷された文面は以下のとおりだ。


1.尿

1-1.通常の尿と通常でない尿

1-2.通常の放尿と通常でない放尿

1-3.その他、尿全般


2.便

2-1.通常の便と通常でない便

2-2.通常の排便と通常でない排便

2-3.その他、便全般


3.排泄全般


 ・・・あえて言おう。アリス嬢、君は徹底的である。そして、これほど飲食の場にふさわしくない話題もあるまい。

 店員や周りの客に放り出されないとよいのだが。


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