第2章 2-01
唐突で恐縮だが、今回の戦争の結末は、要約すれば「引き分け」となった。
これ以上、戦闘が激化した場合、この宇宙自体、消失するおそれがある、というのが理由である。
無論、それは地球側が優勢だったから(戦力・攻撃力が高い)ではない。鈴木社員の防御力が高すぎたためである。彼を滅ぼすためには、宇宙規模のエネルギーが必要と判断されたようだ。
鈴木社員の攻撃力はほぼゼロである。彼が反撃能力を発揮するのは(あるいは、できるのは)、自己防衛かまたは誰かを護衛するときのみである。それ以外の状況では、彼は戦闘とは無縁の一個人であり、ただのサラリーマンだ。
いわば、国家と個人が戦争をしていたのであるから、そもそも戦争という条件が成立していない。もし集団戦において、今回のような状況が続くならば、いつまで経っても双方、勝利にも敗北にも至らない。
只々、無為で、面倒で、不経済な戦闘が続くだけである。
ともかくも、戦争は終結し、終戦協定は締結された。
過去、銀河連盟側では、引き分けですら前例はなかった。到底、自らが敗北したなどと宣言できるわけがない(そう宣言すべきだ、と主張する人々もいたそうだ。主に、武を重んじる星の人々が)。
苦肉の策として、引き分けとして、「何もしない」ことになったのである。実に無難な選択だ。
終戦協定には、双方の一切の戦闘行為を無期限に停止する、とただ一行、書かれているのみである。あとは日付と時刻と署名があるのみだ。
引き分けであるため、今回、地球人類は、光速を超えて宇宙を移動する手段、その科学技術を、連盟側から得られなかった。
しかしその後、アリスがあっさりと、銀河連盟側の技術を超える移動技術を開発してしまい(彼女はそれを「転送」と言った)、晴れて?人類は宇宙市民の仲間入りを果たした?のだった。
自力?で開発したのだから、相手も文句が言えない。
そういう訳で、きちんと宇宙文明としての試練を乗り越えた、他の星系の正当な宇宙市民(つまり、宇宙人)からは、地球人類はイレギュラーと認識され、白い目で見られることになった。
そうはいっても、彼らが地球人類に敵対してみても、時間の無駄であり、徒労に終わるしかない。それは先の戦争で、全宇宙規模で証明されてしまった。
嫌な顔をされつつ、渋々、地球人類は隣人として受け入れられた、という状況である。
それはそうだろう。
我々人類は、言ってみれば宇宙そのものを破壊しかねない危険な可能性を有しているにも関わらず、図々しくも、宇宙共同体に乱入して来た野蛮人以外の何者でもない。
正当な宇宙市民から見れば、地球人類は最大級の厄介者である。
とりあえず、地球人類の総数が現在、一万人にも満たないことは、他の知的存在からすれば慰めではあるのだろう。
宇宙規模の大きな流れとしては、今回の戦争は終結した。代償を支払っていない人類に、さらなる災厄が訪れるのは自明の理である。
だが、そのような大きな流れとは無関係に、人類側では別の戦いも続いていたのである。同じ人類として、次はその戦いにも目を向けてみようと思う。
なに、慌てずとも災厄はいつか必ず来るのだ。いつもいつも、戦争やら災厄やら、そんなものばかり見ていなくてもいいだろう。




