第2章 2-00
会社の応接室で、セレスティア女史と御代課長は、打ち解けて楽しそうに談笑していた。
二人の会話の輪から追い出されているアリスと私は、特に何もすることがないので二人の横で雑談していた。
「ふうむ、意外だったな、修羅場になるかと思ったが。やはり御代課長の第一声『鈴木代理と結婚するつもりはない』が効いたねえ」
「ああ、効いた、私もな。立ち直れない気がする。いままでプロポーズしてもずっと断られていたけど、本気だったんだな…泣けるよ」
「当たり前だ、この唐変木。これでストーカー行為から足を洗う気になっただろう? いや、ストーカーをやってたのは課長の方だったな。まあ、あきらめることだな」
「アリスよ、お前も存外、厳しいねえ。なぐさめの言葉もかけてくれないのか」
「ん? ああ、そんなつもりは毛頭ないが。まあ、そうだな、昔の人類のライブラリの中に人生相談ってのがあるから、そこから引用してもいいぞ」
「よろしくたのむ」
「どれどれ、検索検索と。おお、これがピッタリだぞ、よしよし。あのな、いいか鈴木代理、告白やら求婚やら男女の恋愛に関してはだな、ふった女ってのは、まあ別段、変わり映えはしないものだがな、ふられた男ってのは、人間的に成長できる機会を得た、ってことだそうだぞ。良かったじゃないか、鈴木代理、人間的に成長しろ」
「それは…良くはないように思えるぞ。いや、ちっとも良くはないんだが」
「しゃんとしろ鈴木代理、特別サービスでお前の好きなアニメから検索してやるから。男は涙を見せぬもの、だそうだぞ。あとは、仮面の下の…これはちょっと違うか。どうだ、立ち直ったか? 人間的に成長したか? 早く成長しろ」
「無茶言わんでくれ」
「仕方ない、もうちょっとフォローしてやるか。ほらお前の好きなアニメからだぞ。あの孤児も言ってただろ? 生きる事は戦いさってな。もしいま戦いになったら、お前は課長を守れるのか? しょぼくれてていいのか?」
「良くはない、良くはないな、確かに」
「だろ? よしよしその調子だ。大体だな、母いや、御代課長にふられたからといって悲観することはないぞ。我々の存在をすっかり忘れているみたいだが、このかぐや殿はお前に気があるぞ、絶対な。彼女と付き合えばいいじゃないか」
「あのな、アリス。男心ってのはそう簡単には割り切れんのだよ。それにだ、セレスティアさんは確かに素敵な女性だ、私のようなダメな男ではふさわしくはない程にな。だから私ではダメだ」
「鈴木代理こそ、女心を分かってないと思うが、まあいい、もしかぐや殿にもふられたら、私が結婚してやってもいいぞ」
「あのなアリス、お前は私の娘なのだから、結婚の対象にはならないぞ」
「ぐはっ。まさに女心を分かってない。これはちょっと効いたぞ」
「ん? どうしたアリス」
「…鋼のメンタルを持つ私がダメージを受けるとは、やるな鈴木代理。というか、鈴木代理よ、他の女性にこの手の発言するときは気を付けろよ」
「気を付ける?」
「とはいえ、そんな相手はあまりいないか。いやいやこの男、無自覚な女たらしだからな。うちの会社でも密かに狙っている女子社員はそれなりにいそうだ。ここは予防線を張ったほうがいいだろうか、いやいやさすがにそれは卑怯だろうか」
「おーい、アリスさんよ」
「母も結婚は拒んでいるが恋愛感情がないわけじゃない、まだ油断はできないかも知れないな。現状、本命:かぐや殿、対抗:レティーナさん(かぐや殿補佐官)、大穴:御代課長、といったところか。一応、自分も出走馬に入ってはいるが、マークすら付けられないのは泣けるところだが…」
「もしもし、アリスさん?」
「ということで鈴木代理よ、貴様、さっきから良いとか良くないとか気軽に言ってるが、その自覚はあるのか!」
「ど、どうした突然」
ということで、私とアリスの傷心旅行が始まる・・・といった話ではない。人類に更なる災厄が訪れることになるのだった。




