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宇宙探検(最終稿)  作者: 爺痔オンライン
第1章 アリス、大地に立たない
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第1章 1-0E

 今回のレギュレーションでは地形の変形は禁止事項だったが、かつて東京駅があった周辺は直径50kmのクレーターとなっていた。すさまじい爆発のエネルギーにより、クレーターの地表は均一にガラス化されていた。協議の結果、一応この攻撃はレギュレーション内(許容範囲)となった。但しクレーターの埋め戻しは必要とされたので、将来的に、宇宙連盟側で地形の復旧を行う予定である。

 だが、これらの諸々のことは、だいぶ後になって戦況が落ち着いてから決まった事であって、結晶兵器の爆発直後は、以下のとおり、混乱を極めていた。


******************************


「うわ、アリスよ、お前ひどい目に遭ったな。装甲外皮がすっかりなくなってるよ。まるで○タ○Kのようだぞ」

 アリスはセンサー類が全て壊滅のようだ。発話機能、映像投射機能、外部との通信機能も失ったらしい。

 アリスが両手の骨格フレームを上に挙げた。”お手上げだ”というゼスチャーのようだ。うーむ、思考能力とか、メンタル面のタフさはノーダメージだったようだ。体育座りをして身動きしなくなったので、自己再生モードに入ったのだろう。


「通信機は・・・お、何とか使えそうだな。コロニーもL1に戻ってることだし無線は通じるはずだよな。あー、もしもし、こちらは鈴木です。コロニー管制センター、聞こえますか」


 しかしコロニーからの応答はなかった。代わって、かぐや姫ことセレスティーナさんが通信に割り込んできた。


「鈴木様! 生きていらっしゃるのですね! よかった・・・」

「すごい爆発でしたが、何とか大丈夫でした。アリスは大破、いや失敬、かなりの重症ですから、治療が必要です」

「鈴木様がコロニーと通信できないのは、地表でのすさまじい爆発による電磁波放射によってコロニーの電子機器が全滅したためです。今、私の部下をコロニーの復旧に向かわせていますので、もうすぐ、通信も回復すると思います。そうでした、幸いコロニーでは、けが人などはいなかったそうです」

「それはありがたい。復旧の助力も、ぜひお願いします」

「そういう訳ですから、今はまだ、コロニーには回収船を出す余裕はないと思いますので、鈴木様とアリス様の帰還は遅れるでしょう。もし、あまりに時間がかかるようでしたら、背に腹は代えられませんので、介入させていただきます」

「わかりました、ありがとうございます」

「とりあえず、コロニー復旧までは一時休戦しかなさそうですし、今のところ、これ以上打てる手もないと思います。それでは、本題に入りたいのですが」

「もちろん、よいですよ」

「鈴木様は何者なのでしょうか」

「え? 会社員です」

「質問の意図が伝わらなかったかも知れません。別の言い方をしますと、鈴木様は人間でしょうか」

「もちろんそうです。えっと、少なくとも私はそう信じています」

「先ほどの結晶兵器ですが、アリス様が膨大なエネルギーを追加されたことによって、実のところ、宇宙連盟史上最大級の爆発になっていたのです。あと少し、力場の強化が遅れていたならば、おそらく太陽系が吹き飛んでいたところでした。もちろん、我々共々、銀河の海に散るところだったのです」

「うは、そうでしたか。いやあれね、ぱっと見、こいつはヤバい兵器だと思いましたが、それほどでしたか」

「アリス様の、始めて見る科学技術を吸収・理解する能力も常軌を逸していますが・・・それよりも、鈴木様が生存されたことです。理由を是非、教えていただきたいのです。個人的にも、職務的にも」


 ここで、通信機能が回復したらしいアリスが割り込んできた。


「あー、テステステス、こちらアリスです。かぐや殿、聞こえますか」

「はい、通信良好です。早速ですが、アリス様。お願いですから、今後は危険なことはおやめくださいね」

「てへ、ごめんなさい。それで、鈴木代理の様子はどうですか、死にましたか?」

「生きていらっしゃいますよ、アリス様の目の前に」

「ああ失礼、かぐや殿。今、私のセンサー類が一切、機能してないので外界の情報が全く分からないのですよ。通信しているところを見ると、鈴木代理が死に損なったらしいのは分かるのですが」

「ん? 私のことかい? 身体は大丈夫のようだ、昔から体の丈夫さだけが取り柄だったし」

「鈴木様。丈夫、とかいう問題ではないように思いますけれど。それに、お召しになっている衣服や、通信装置などの身に付けていた機器類も無傷のようです」

「そうでしたか、役に立たない鈴木代理に代わって報告をありがとうございます、かぐや殿」

「鈴木様、アリス様、爆発直後の何秒間かの記録が残っていたそうですから、解析結果を報告してもらいますね。ええと、私の副官のレティーアから報告させますね」

「副官のレティーアです。早速ですが報告させていただきますが、結論から申し上げますと、鈴木様に何が起きたかは不明です」

「え、不明とはどういうことなの、レティーア?」

「正確に申し上げますと、爆発によるあらゆるエネルギーは鈴木様の身体や装備に接触しておりますが、表面を流れるように、といいますか、避けているように見えます」

「それは、鈴木様が力場を発生させた、ということなのかしら?」

「いえ、鈴木様自身や鈴木様の身体の表面、鈴木様の周囲の空間を含めて、先程の爆発時には全く何も、特別な物理現象の発生は認められません」

「えーっと、では何故、鈴木様は生き残られたのかしら?」

「分かりません」

「レティーア殿、こちらアリスです。聞こえますか」

「アリス様、問題なく聞こえております、どうぞ」

「貴官の報告は次のような例え話で合っていますか。”今、目の前に火のついたロウソクがあります、燃えやすい紙が1枚あります、紙を燃やそうとしてロウソクの火にくべましたが、なぜか一向に燃える気配がありません、それどころか、紙の温度は1℃たりとも上昇していません、ところで、紙にも火にも異状はありません。普通の火であり、普通の紙です”、合っていますか」

「アリス様のご理解のとおりと思います。少なくとも、今ある情報に限れば、正しいかと思慮いたします」

「だ、そうだ、鈴木代理。では、本人の弁明を聞こうか」

「ん、何の弁明だって?」

「あのね鈴木代理、私の話を聞いていたのかい」

「ロウソクの科学の話か?」

「違うぞ。というか、ボケはそれくらいにしておけ。お前が爆発に巻き込まれて無事な理由だよ、ほれ、説明してみろ」

「ああ、なるほど。セレスティーナさん、レティーナさん、つまりこれは勇者の能力ってやつなのですわ」


 完全にやり遂げた感の鈴木を除き、一同、沈黙である。


「鈴木様、できればその”勇者の能力”あたりを詳しくお願いしたいのですけれど・・・」

「え? 詳しくですか? いや困ったな。アリス、お前分かるか?」

「いや困った、はこちらのセリフだ。私に聞くんじゃないよ。まあ人間、本人が一番、自分を理解していない、ということもあるのかも知れんな、よかろう、一部仮説だがよろしいかな、かぐや殿、レティーナ殿。一歩ずつ説明を進めるので、しばらくの時間、お付き合いいただくことになるが」

「結構です、お願いいたします」


「勇者の力は肉体の能力ではなく、明らかに精神の能力に区分される。正確には、肉体も無関係ではないけれど、99%以上は精神の能力だと思う、どうだろうか、かぐや殿」

「異論はありません。ただの物質である肉体には、まさに物理的限界があるでしょう」

「そのとおりだ、かぐや殿。理解が早くて助かる。さてそこで、このヘタレ勇者鈴木の能力だが、精神の能力だと言うが、具体的には精神のうちの何だ、という話なのだが・・・」

「ええ」

「一言で言えば、それは強烈な呪いだと思う」

「呪い!呪いとは! 何の呪いであるとお考えですか?」

「人類の、特に戦争によるありとあらゆる怨嗟だと思う。そしてだが・・・」

「そして、何でしょうか?」

「そして、その呪いの源は地獄から来ていると思う」

「地獄! ってあるんですか?」

「おや、かぐや殿。平安時代に地獄は知られていなかったのでしょうか。仏教は既に伝来していましたよね」

「そうですが、率直に申し上げて、地獄や天国の存在は確認できていません」

「かぐや殿、私も同意見だ」

「え? アリス様もそれらは存在しないとお考えなのですか。それなのに、鈴木様の力の根源は地獄とおっしゃるのは、どういうことなのでしょうか」

「それは、地獄とか天国というものが、実は一体、何であるか、という話に関わるのだが。さすがにその議論をしている時間はあるまい」

「いえ、ある程度時間はありますから、アリス様のお考えをお聞かせください」


 といったことで、今回も置いてけぼりの鈴木代理をよそに、天国と地獄の話がはじまったのだが、それは次の話になる。

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