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宇宙探検(最終稿)  作者: 爺痔オンライン
第1章 アリス、大地に立たない
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第1章 1-0D

「かぐや殿、こちらアリスです。聞こえますか」

「アリス様、こちらかぐやです。よく聞こえます」

「鈴木代理が地上で戦闘中のため、代理交渉させていただきます。鈴木本人の了解は得ております」

「承知しております。では交渉をどうぞ」

「本日提案いただいた戦闘停止には同意しますが、その前に明日以降の戦闘について交渉したいのです。よろしいですか」

「結構です。よろしければ早速どうぞ」

「ありがとうございます。では早速ですが、そちらの攻撃能力の増加率が低すぎるようです」

「えっ・・・っと、ということは、私はアリス様の戦略を見誤っていたでしょうか」

「気を悪くしないでいただきたいのですが、おそらくそうです」

「アリス様、アリス様は以前、”この戦争は人類側の勝率が100%でなければならない”と仰いましたね。アリス様にはその100%の戦略が見えている、と思ってよろしいのですか?」


「いいえ。私に見えているのは、勝率が0%を超え100%未満の値を持ち、却下された無数の戦略群と、唯一勝率が計算不能なひとつの戦略のみです。勝率100%の戦略が存在しないので、その不確定な戦略を選択せざるを得ませんでした」

「アリス様、その不確定、と仰っている戦略の勝率は、如何程なのでしょうか?」

「計算や予測はできません」

「精度を下げた計算や予測ではどうでしょうか」

「精度を無視するなら、その戦略、といいますか、作戦の成功率は、0%か100%のどちらかです」

「それは、数値というよりは別の何かでしょうか」

「素晴らしい思考能力です、かぐや殿。鈴木代理ならぽかんとするところです。そうです、詳しくは申し上げられませんが、この作戦は必ず失敗するか、必ず成功するかのどちらかしかないのです。そして、成功のためには・・・」

「わたくしの協力が必要ということですね、承知しました。できる限りの協力をさせていただきます」

「話がとても早く、実にありがたいです、感謝申し上げます。では早速、具体的な話に入っても?」

「もちろん問題ありません、どうぞ」


「明日の攻撃手段は、そちらの戦力のうちで実弾又は実体を有する方法に分類されるもので、レギュレーション内の最大攻撃を行っていただきたい」

「アリス様、我々はそれを”結晶兵器”と呼んでおります。鉱物あるいはその他の物質の単結晶に、まだ人類が開発していない方法により、ほぼ無限に近いエネルギーを蓄え、攻撃対象の近くでそのエネルギーを一気に開放する、という方式のものです。要するに、”結晶爆弾”とでもいうべきものです」

「おお! それは何と素晴らしい技術! それで、例えば一立方メートル相当の物質の単結晶があったとして、それにはどのくらいのエネルギーを蓄えられるのですか」

「今回のレギュレーションでは、小島が消える程度までの環境破壊が許されておりますが、それくらいであれば、余裕で蓄えられます」

「実に素晴らしい。それでは、明日はそれをベースにしていただきますよう、お願いします」

「アリス様、鈴木様は絶対に生き延びられないと思うのですが」


「まあまあ、結論を出すその前に、さらにもう一段、提案しても?」

「わかりました、どうぞ」

「その、結晶兵器とやらですが、起爆地点の地表を保護して、地形が変わらないようにすれば、もっとエネルギーを上げてもよいのではないでしょうか」

「・・・確かに、地球表面を力場で、力場というのは御承知と思いますが、お二人が最初に月に到着された際にご覧になられた不可視の扉と同じ原理によるものですが、それで地表と成層圏を保護すれば、地球環境が大きく変わることはありませんから、事実上、エネルギーの上限はなくなります。実際には力場のエネルギー次第、というところですが」

「それは実に素晴らしい。とはいえ、私の記憶では、力場というものは、少なくとも音波は通過しますよね。ドアをノックしましたから」

「そうでした、力場を透過する爆発のエネルギーは完全な0ではなかったです。そういう意味でエネルギーの上限は存在します」

「では、明日の攻撃は、その上限一杯でお願います」

「アリス様、わずかなエネルギーが透過するとはいえ、力場が遮るエネルギーは膨大です。そうですね、もしその上限をざっと見積りますと、おそらく放出可能なエネルギーの総量は、超新星のレベルに匹敵すると思います」

「実に素晴らしい! ということは、あなた方は超新星の近くすら探検ができる、ということですね!」

「はい、他の技術との組み合わせによりブラックホールの表面に到達した実績もあります、ではなく、アリス様。話が鈴木様の命の確保とずれていますが」


「ああ、なるほど。それは失礼した。ということは、最初から議論がかみ合ってなかったようです」

「そう思います」

「いや何、簡単な話です。今回、鈴木代理には死んでもらうつもりなのですよ」

「そんな! 一体、どういうことでしょうか!」

「申し訳ない、かぐや殿、これは地球側の秘密だと思ってほしい。どうだろう、明日の攻撃は上限一杯でお願いできないだろうか?」

「承知しかねます、アリス様」

「先ほど、できる限り協力いただける、と聞いたが」

「それは鈴木様の生命が大前提です」

「かぐや殿、私を信じてはもらえないだろうか」

「だめです。ひとりでも人類側に犠牲者が出るような作戦には同意しかねます」

「なかなか頑固な方だな、貴女は。それとも愛ゆえなのか」

「解釈はお任せします。でもダメです」

「分かった譲歩しよう。譲歩なのかどうかよく分からないが。明日は、鈴木代理がギリギリ死なないか、それより弱めでその結晶兵器とやらを使っていただきたい。おそらくその後、鈴木代理がギブアップするか、あるいはしないかも知れないが、とにかくそういう話が出る可能性があるでしょう」


 セレスティーナ女史は、かなり長い時間、迷っていたが、最終的には渋々、承諾、と言った。


******************************


 翌日正午、戦闘が再開された。

 午前中のうちに再度、降下船で地球表面に送られた鈴木は、またも東京駅(跡地)に立っていた。


「鈴木様、それでは”結晶兵器”を転送します」

「りょ、了解です!」

「転送5秒前、2、1、0、転送」


 鈴木の目の前に、両手を広げたほどの大きさのある、透明で正八面体の光輝く物体が現れた。


「鈴木様、即座にその場所から逃げて下さい! それは1時間後に爆発します」

「セレスティーナさん、これは何の結晶でしょうか。ガラスにしては光がおかしいですが」

「鈴木様、それは金星大気から抽出した炭素の結晶、つまりダイヤモンドですってそれはいいですから! 早く逃げて下さい」

「おお! ダイヤモンド! これを買うとしたら国家予算が必要でしょうな」

「鈴木様、とにかく早く逃げて下さい! できるだけ遠くに!!」

「す、すみません、了解です」


 そのとき、鈴木代理の目の前で突如、爆発が起こった。

「うおぅ、何事!?」

 濛々とした土煙が晴れると、アリスが立っていた。

「静止衛星軌道からの大気圏突入と受け身に成功、って、何か似たネタがあった気が、お! よう、鈴木代理、しっかり戦ってるか」

「ゲホゲホ、お前も無茶するねえ、アリス。お転婆は程々にしておけよ」

「ほう、これが結晶兵器か。かぐや殿はダイヤモンドだと言っていたな。おおすごい、純度100%だ! 我々の現在の科学技術では作れないシロモノだぞ、鈴木代理」

「そ、そうですか」

「さてさて、どれどれ、かぐや殿には申し訳ないが、エネルギーの蓄積技術を盗ませてもらおうかな」


 セレスティーナ女史が通信に割り込んできた。

「アリス様、鈴木様、もう時間がありません。直ちにお逃げ下さい!」

「ふむふむ、ほうほう、これはこれは。かぐや殿、これはエネルギーを複数の次元に積層しているという理解でいいのかな?」

「そうなのです。兵器であり、我々の主たるエネルギー装置でもあります。というより、お願いですから、早く逃げて下さい」

「よし、理解した。理解はしたが、これは人類の技術では、今のところ作れないな。結晶の積層に秘密があると見たが」

「まあ、そこまで分かってしまうとは、驚きました。ではなくて! とにかく早く逃げて!」

「だがな、かぐや殿。悪いがこのエネルギー量では全然足りないので、追加させてもらうぞ」

「え? え? あっ、そんな、ありえません! すごい量のエネルギーがありえない速さで、ってこれはアリス様が注入しているエネルギーなのですか!?」

「ぐへへへ、そのとおりです、って、こりゃすごいぞ、ふぁあ~、見て見ろよ、鈴木代理! あははは、惑星が吹き飛びそうなレベルだぞ(笑)」


 通信機からは、アリスが発する嬉々とした壊れた発言と、セレスティーナ女史の悲鳴が聞こえていた。

 ダイヤモンドの結晶は震動しはじめ、いまや目を開けていられないほどの光を発している。


 あ、これはヤバいレベルの兵器だ。


 いままでいろいろな兵器を見てきたが、直感でこれは恒星兵器(核兵器)どころじゃない。これたぶん、今すぐ惑星の反対側まで逃げても即死だわ、マジでやばい。

 セレスティーナ女史は、これを実弾兵器といっていたが、エネルギー兵器に分類した方がよさそうだな。

 ところで、やばい、って、矢場と何か関係が・・・折角だから検索してみるか、何々、厄場とな、なるほどなるほど。


 って、あれ? アリスさん。なぜ私の後ろに隠れるので?


******************************


 その瞬間の記憶はない。

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