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宇宙探検(最終稿)  作者: 爺痔オンライン
第1章 アリス、大地に立たない
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第1章 1-07

「次話投稿しまーす、どうぞ」「こちら地球本部、どうぞ~」

「みなさんこんにちは。我らがコロニーは現在、L2に位置しています。月からの距離は移動前のL1と変わらず、月は見慣れた大きさです。ちなみに視直径は5°以上、地球から月を見たときの6倍ほどです。なになに、6倍なら大したことはないですと? いやいや、実はこれは結構、びっくりする大きさでして、全天を覆う、はさすがに言い過ぎとして、落ちてこないだろうな、と心配になるくらいの大きさですよ。あ、それからクレーターなども肉眼で見えますね。ただ、今日見えているのは月の裏側でして、ちょうど満月(コロニーから見て)です。山やクレーターの影も落ちてなくて、景色はのっぺりとしております」

 などと、独り言を言っていたのは、アリスと私が今、小型の宇宙艇でコロニーの真上、というか真下に見える月の裏側に向けて出発、いや事実上は落下するところで、さすがに緊張に耐えきれず、つぶやいておりました。というか、シロウトに宇宙船の操縦やらせるとか無茶過ぎないか。というかですね、それ以前に私、宇宙はだめなんだよ。

 一方、アリスは特に緊張もしていないようで、そして、宇宙艇の出航準備は相当、彼女には退屈なようで「現地に先に行ってていいですか」などとしきりにたずねてくる。いやまあ、彼女なら真空にも耐えられるし、コロニーと月面の間をジャンプ力だけで往復できるけど、こっちは生身の人間なんだ、頼むから勘弁してくれ。


 ようやく出発準備ができたようだ。

「こちら、コロニー管制センター、調査船1号、応答願います」

「こ、こちらは調査船1号、搭乗員は鈴木とアリスの2名、そ、それで、通信はあの、良好です」

「こちら、コロニー管制センター、リラックスしてくれて大丈夫だ、何も心配はいらない。貴船以外の宇宙船はいない。衝突も進路妨害も考えなくていい。好きにやってくれて構わない。それと、出発時刻は貴船が任意に決めてもらって構わない」

「調査船1号より管制官殿へ、貴官の配慮に感謝します」

「おーい、鈴木代理ー、とにかく早く行こうぜ」

 と、アリスが”無線機を使わずに”通信に割り込んでくる。生身で無線通信をするとはさすがだ。いや、生身ではないか。

「そ、それでは、07時55分に出発します、管制センター、それでよろしいでしょうか」

「わかった2分後だな。何、片道1時間もかからない小旅行だ、デートだと思って気楽に行ってきてくれ。では、君たちの調査の成功を祈る、グッドラック」

 アリスが、デートじゃねえとか、わめいているうちに時間になった。


 コロニーの発射カタパルトを使い、推進剤は使用しない。それなりにすごいGがかかって虚空に投げ出された。ぎゃー、やめてくれ、思わずアリスにしがみつきたくなったが、さすがにやめた。アリスに宇宙艇を壊されたら、確実に死ぬ。

「こちらアリス、軌道監視に入る。と言っても真っすぐ自由落下するだけで、計算も監視もあったもんじゃないが」

「コロニー管制センターからアリスへ、君の優秀さは聞き及んでいるが、かなりのお転婆だとも聞いている。おっと失礼、いちおう、船長の鈴木君を困らせないようにたのむ」

「了解。しかしなあ管制官殿よ、これはだいぶ暇だぞ。ガタガタ震えている鈴木代理を見てもつまらんし」

「ふーむそうか、鈴木君は高所恐怖症か。それならアリス、君から航行レポートでもしてみたらどうだ」

「おお、それは面白そうだな。よし、それで行こう。こちらちゃんぴょん号、ただいま、月に向かって飛行中、コロニー管制センターどうぞ」

「こちら、コロニー管制センター、了解」

「こちら宇宙船ちゃんぴょん号、アリスより愛をこめて、地球は黒かった、どうぞー」

「こちら、コロニー管制センター、地球は黒かった、了解」

 愛がスルーされただと!? アリスがボケをかましているが、ツッコむ余裕がない。たのむ、とにかく早く到着してくれ。


「調査船1号アリスからコロニー管制センターへ。あと120秒で制動噴射に入る。んーそうだな、目視で調査地点の200メートルほど南側に着陸することになりそうだが、そちらで着地点の予測はできるか。調査地点の真上に落っこちる最悪の事態は避けたいが」

「こちらコロニー管制センター、軌道の追跡は継続中。君の見立てでまちがいない。さすがだな」

「お褒めに預かり恐悦至極です」

「目標地点だが、念のため再確認だが、ダイダロスクレーターの内部ではない、これで正しいか?」

「そうだ、クレーターからはわずかに北に外れている。ただ、着陸地点自体はクレーター内部の平坦部だ。そこから月面を移動し、目標地点にアプローチする。目標地点はさっきチラっと見えたんだが、既に異常を認めたが、まあ、それは急がないから後でいい。それより、このギャーギャー泣きわめているチキン野郎を、そちらで何とかできないか」

「ははは、こちらからはどうにもならないな。ガツンと一発、叩いたらどうだ」

「この男、チキンのくせに反撃してくるんだぜ、しかも、ありえないくらい」

「そうか、女の子をいじめちゃだめだぞ、鈴木君」

「りょ、了解」

 辛うじて返答する。

「こちらアリス、そろそろ時間だ。2、1、0、噴射、速度4,000、2,000、500、よし、減速完了。おいこら鈴木、ちょっと運転席を代われ、調査地点の近くまで寄せてやるから。そんなざまじゃあ、ろくに歩けまい」

 宇宙艇はアリスの巧みな操船技術により、今回の調査地点である小さな谷間に滑り込んだ。


「アリスからコロニー管制センターへ。目標地点の谷底に着陸、両名とも船外活動に入ったところだ」

「こちらコロニー管制センター、了解。ところで、鈴木君の様子はどうかな」

「月面に倒れこんでいて、しばらくは使い物にならなそうだ。母なる大地よ、とかほざいているが、お前はルナリアンじゃなかろうに」

「了解した。ところで、アリス、君は着陸前に異常を認めたと言っていたが」

「ああ、ちょっと待ってくれ、今から地面を叩いてみる(ゴンゴン)、やはりそうか。こちらアリス、コロニー管制センターへ報告、よろしいか」

「こちらコロニー管制センター、報告願う」

「谷の上部は砂地だが、谷底は岩盤だ。しかも、ただの岩じゃない。そうだな、私の推測を言ってしまった方が、こちらの状況を理解しやすいと思うがどうか」

「アリス、君の推測を聞こう」

「超巨大な岩を厚さ1メートルの薄さでスライスし、半径1キロメートルの丸いタイルにカットして谷底に置いた、だな。ちなみに岩の下は、このあたりの地形と同じく砂地のようだ」

「・・・なるほど、人工建造物ではないかというのだな。しかし、フラットな岩盤というだけなら、溶岩が冷えて固まった可能性などもあるのではないか」

「そのフラットさが問題だ。あまりに凹凸がなさすぎる。完全な真円で、ほぼ、幾何学的な平面だ。ほぼ、というのは、岩板の縁は中心から全方向に144ミリメートルほど下がっているからだが、ちなみにその144ミリメートルは何だと思われるか」

「月を球とみなしたときの球面と一致。どうかな?」

「さすが管制官、冷静だな。正解だ。そして、叩いた感触では、この巨大な円盤は縁で144ミリメートルほど下がっていることによる、構造的なテンションがかかっている」

「ふむ、つまり岩盤は、最初は完全な平板として切り出され、それを月面に置いたために自重でたわんでいる、というわけか。溶岩が冷えて固まったのなら、たわみはあり得ない、か」

「そのとおりだ。人工建造物で確定だ。問題は、どうやって岩から切り出したのかだが」

「おやアリス、人工建造物だというならば、コンクリートなどの人造石の可能性もあるのではないかね」

「いや、それはない。岩盤表面の結晶粒界は、見た限りは自然石だ。だが、表面の結晶を個々に観察すると、明らかに切断面といえる。ところどころ、隕鉄らしい成分も入っている。人造石ではありえないほど材質が不均一すぎる。これも予想だが、アステロイドベルト辺りで切り出し、持って来たのだろう」

「肉眼で顕微分析するとはさすがだな。切断方法が分からないと言っていたが、それはなぜかね」

「レーザーなら加熱痕が残るが、それがない。刃物で切ったとか、研磨したなら加工痕が残るが、これもない。顕微鏡レベルで見ても、全く見られない。完全な平面だ」

「ほう。するとそちらの地表は、光を反射でもしているかね」

「ああ、研磨した大理石どころではない。さすがに金属の鏡には劣るが、自分の顔が見えるほどだ」

「となれば、アリス、君が出航前に言っていた、”平レポートの鏡”は、その岩盤ということか」

「管制官殿、おそらく違うな。平艦長の”鏡”のイメージは丸ではなく四角だった。そして、四角ならこの岩盤の中心に建っているのが見えている。あれはどうみても金属だな。金属の柱なのか。とにかく、これから歩いて調査に向かう」

「了解した、アリス。ところで、鈴木君は立ち直ったかね」

「何とか使い物にはなるだろう、とりあえず、引っ張って行くとする」

 こうして鈴木代理は、アリスに片足を掴まれ、おかしなオブジェクトがある中心部へ引きずられて行った。


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