表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宇宙探検(最終稿)  作者: 爺痔オンライン
第1章 アリス、大地に立たない
24/45

第1章 1-04

 ペットボトルって、よくみると美しい材質ですよね。

 アリス発案の計画は、概ね以下の段取りである。


(1) 高出力メーザー(レーザーではない)の開発

(2) 金星大気の採取器具の製作(特記:ワイヤーの調達は別途)


 この二つを並行して進める、そうです。


 アリスによれば、ある種の波長のマイクロ波は特定の波形を形成してから大気に照射することで、二酸化炭素を能動的に分解する反応を引き起こすそうだ。分解は吸熱反応、照射されたエネルギーをはるかに上回る冷却が可能、という。

 ちなみにこれは、昨日会社の実験室で確認が取れた。若干の水蒸気が触媒として必須であることも確認した。

 但しこの原理を使って室温まで地球を冷却しようとしても、現在の地球全体の大気組成では二酸化炭素の絶対量が足りず、不足分の+0.3%相当のガスを金星から持って来る、という計画だそうだ。

 さっそく、各サブプロジェクトの担当者が決められ、作業が開始された。

 ちなみに私、鈴木は、今のところアリスから何も指示されていない。課長からも何も指示がない。

 不安だ。

 ああ、ところで。


 アリスに、どうやってこの原理を発見できたのかと質問したところ、「発見したのではなく、過去の論文から拾って来た。著者である研究者は成果が世間に認められる前に死んだので、歴史の中に埋もれていた」とのことだった。

 すごいと思った。生まれてから1分で、しかも出オチのギャグを画策する片手間に論文検索をやっていたのかと思うと、眩暈がする思考レベルだ。


 そんな諸々も踏まえ、実際にアリスと仕事を一緒にしてみての感想だが、アリスの精神というか、頭脳というか、思考力に関して、まあ、必ずしも思考力だけではないのだが、アリスはおまえが作ったんじゃないかと突っ込まれそうだが置いておくとして、正直なところ、はっきり言って、明らかに、実際、現実問題、要するに、人間の能力に比べ、

「アリスの諸能力は、人間をはるかに凌駕している。しかも、あらゆる面で」

 これ以外ではありえない。

 凌駕している、というよりも、差があり過ぎて差を否定する気にもならない。人類では追いつけるとは思えないし、追いつこうという気すら起きない。


 いわば、人間がイルカに水泳競争を挑むようなもので、生物種が違うといえるレベルの差だ。

 思考だけで考えても、人間の頭脳を虫けらのそれとすれば、アリスの頭脳はスーパーコンピューターに例えていいだろう。しかも、現実のアリスの頭脳は、スーパーコンピューターの性能をはるかに凌駕している。(恐ろしいことに、アリスの能力は、足りなければまだいくらでも増強が可能だ。いまのところ、十分間に合っているけれど。)

 控え目に言って、人間の能力とアリスの能力の間には天文学的な差がある、というのが正しいだろう。ロボット・機械ならば、人間の方が優れている部分もまだあろうが、アリスはロボットや機械の優れた部分と人間の優れた部分の両方をあわせ持っている。炭素体ロボットたる人間に、初めから勝ち目はないのだ。

 今度、アリスに、チェスか将棋か囲碁の相手でもしてもらうと、もっと驚くことが起きるかも知れないな。「囲碁の必勝法を見つけました」なんて、言い出すかも知れない。


 一言で言えば、アリスは人間の上位種だ。


 という話をアリスにしたところ、「一時保留にしてあるが、おまえの勇者能力の方がはるかに謎だ」で一蹴された。

 あのねぇ、戦争でしか役に立たない能力なんて、まさに呪われた能力なのですが・・・私は全然、うれしくはないぞ、アリスよ。いやまて、謎、と言っているだけで、褒めているわけではないか。


「ところでアリスさんよ、わたしの仕事がないんだが」

「ああ、そうだったな、父よ」

「いちおう、仕事中は父とは呼びなさんな」

「了解した、鈴木課長代理。長いな。鈴Dと呼称する、よろしいか」

「ちょっと短すぎるんじゃないか。鈴木代理くらいで抑えてくれ。それで、わたしの仕事は」

「その前に、L2へのコロニーの移動完了は今日の午後だな?」

「その予定だが」

「では今日の午後、母、もとい、御代課長と鈴木代理だけで会議室2へ来てくれ」

「わかった、課長にも伝えておくよ」


****************************************


「おーい、アリス、来たぞー」

「ご足労ありがとうございます、御代課長。あ、あとついでに鈴木代理」

「アリスさんよ、そろそろ、いじめは勘弁してほしいのだがね」

「ちっ、仕方ねえ。じゃあ少しは手加減してやるか。だからって調子に乗るんじゃねえぞ、この、すっとこどっこい野郎」

「・・・はい」

 親愛の情なんて、本当にあるのか。すっとこどっこい、って何(中略)


「それじゃあ、アリス。鈴木君の任務を説明してもらえるかしら」

「分かりました。ではまず、今回のプロジェクトのおさらいから」


「金星からの大気採取には、直径120メートル、長さ200メートルの巨大な金属缶100個を用います。その材料は、ちょうどよいことに、鈴木代理が破壊したことで頓挫したコロニー拡張計画、あれで使う予定だったコロニー材(強化ステンレス中心)の残骸を再利用します」

(いや、他に手がなくてやっただけで不可抗力なんだがな。聞いちゃいないか)

「金属缶には耐酸コーティングを施し、内側方向にだけ開くフタを付けます。それから”ヒモ”も付けます。缶を金星に投げ込めば、高い圧力によって勝手に缶の内側に金星大気が入って来るというわけです」

「金属缶の引き上げは、月の自転も利用した”ヒモ”の巻き上げによって行います。缶内部の二酸化炭素が超臨界相に達するまで月面で冷却し、その後、缶を地球に降下させる、といいますか、地球重力に任せて投げ込みます。大気圏に突入後、タンクは破壊され、二酸化炭素が地球の大気中にばらまかれます」

「現在の地球の冷却に必要な二酸化炭素は、計算によれば缶300個分、つまりこれから5年の間にある3回の金星の接近1回ごとに、100個ずつ採取を行います。残念ながら、3回の採取が終了した時点で、プロジェクトは残り1年を切っていますので、1度の失敗も許されません。計算では成功確率50%といったところです」


「アリス、ちょっといいかしら」

「はい、課長」

「”ヒモ”は、どうするのかしら。提案書では特記としか書いてなかったですけれど」

「実は今日、内密に集まっていただいたのは、まさにその”ヒモ”についてなのです。確認しますが、この会議室のセキュリティは万全ですね」

「そうねぇ。アリス、あなたの能力なら盗聴は可能かもしれない、そんなところじゃないかしら」

「0ではないが事実上0、と解釈します」

「クールだわ、アリス。では、話を続けてちょうだい」


「課長のおっしゃるとおり、この計画で最大のネックは”ヒモ”です。現在の我々の技術では、このプロジェクトに耐える”ヒモ”が存在しません」

「まあそうね。吊る荷物ときたら、中が空洞とはいえ厚さ2メートル重量15万トンの金属塊、金星大気のスーパーローテーションと硫酸の超強風に耐え、かつ、高温高圧にも耐える素材で、しかも長さは天文単位で数えた方が早いほどの長さと来てますからね。となると・・・そんなワイヤーは、素材も物量も存在しないわね。それでアリス、あなたはその不可能を可能にする方法があると?」

「はい。一応、プロジェクトの期限内に可能な案を2つ考えました。ただ、どちらの案も、現時点では可能性がある、という段階です。もし失敗したときは、申し訳ありません、腹を切らせていただきます」

「いいえ、アリス。あなたが腹を切る必要はなくってよ。私と部長、専務あたりの首が飛ぶだけだから、失敗は気にしなくていいわ」

「御代課長が解雇されてしまうと、我が家の家計が成り立たないのではないでしょうか」

「そのときは、鈴木君に養ってもらえばいいわ。なにしろあなたの父親なのですから」

「了解しました」

 いやいや、アリスよ、了解じゃないぞ。お前のメンテナンス費用ときたら会社が傾くほどだからな。私の給料で払えるわけないじゃないか。なになに、残業しろ、だと? 勘弁してくれ、アニメを見る時間がなくなるじゃないか。


「さて、悪質な冗談はこれくらいにするとして、これから”ヒモ”に関する2つの案を説明します」


 自ら悪質とおっしゃいやがりますですか、アリスさん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ