第1章 1-03
地域に激安店があるのですが、駐車場が小さいので客の競争率が高いのです。チャリンコで行くのが正解かもですが、そうすると今度はあまり重いものが買えなくなると。近所の人がうらやましいですね。
アリスは、現在の過酷な地球環境を改善する方法として、冷凍ビームを提案した。が、冷凍って何だ。
「アリスさんよ、エネルギー保存則は知ってるよね。どんな種類のビームか知らないが、何であれ、エネルギーを与えるなら、とにかく熱量は増大するだろうに」
「フッ、シロウトめ。考えが足らぬわ。お前の脳は飾りか」
いちいち、こちらのメンタルを削りにくるのは勘弁してほしい。
「ごめんなさい、考えが足りない私に説明してもらえますでしょうか」
「はあ、仕方ない。では説明しようじゃないか、と、その前に。いくつか確認しておきたいことがあります」
「何かな」
アリスは、私の返答を無視して別の人に質問を始めた。
「渡辺専門官、現在の地球の二酸化炭素の濃度は、(窓の方に歩いて行って、地球を眺め)目視で1%といったところですが、正確な数字を教えていただけるでしょうか。会社のデータベースでは、あなたがお調べになっているとありましたので」
ちょと、アリスさん。私の扱いと露骨に違うんですけど。
「ふむ、目視とは恐れ入るね。それはともかく、地表からの高度・緯度によって多少の変動はあるが、最新の観測結果だと、、、まあ、1.05±0.02%といったところだな。ただ、何しろ気温が千℃くらいだからね。地表での大気濃度は1立方メートルあたり50gしかない」
「理解しました。ありがとうございます。次に、田中係長、よろしいですか」
「いいよ。何でも聞いてくれ」
「2点ありますが、まず1点目です。もし、月から金星まで、片道の宇宙船を飛ばすとしたら、準備と航行にどれくらいの日数がかかりますか。運搬する荷物は約1トン、無人航行で、その宇宙船はロスト確定です」
「特注品の宇宙船じゃなくて、汎用型を使い捨てにするってこと?」
「そうです。本当は特注がほしいところですが、とりあえず汎用型で」
「そうだなあ、ちょっとまってね。どれどれ、ふむふむ。いま金星は、太陽の反対側にいるから遠すぎるね。当然、再接近を狙うよね?」
「基本的にそうですが、わけあってギリギリは狙えないので、2倍ほどの距離でお願いします」
「宇宙船の手配はすぐにでもできるよ。それから、そうだなあ、んーまあ、金星までのフライトは150日も見ておけば十分だろう。問題は、金星の地球への再接近の時期だが、だいたい、一年先になる感じだな」
「ミッションは5年ですから十分ですね。我々の勝ちです」
「いやいやアリス、一課全員、まだキミの作戦の内容を全然聞いてないのだが(こういうところは鈴木代理そっくりだよな)」
「失礼しました。いまちょっと不快な思考を感じましたが、気のせいですね。そうしますと残る問題は、ワイヤーですか、さてどこから持ってきましょうか・・・あ、すみません、作戦全体の説明がまだという話でしたね、その前に2点目の質問、よろしいですか」
「あ、ああ、どうぞ、どうぞ」
「コロニー法では月面での活動について、月の資源開発・採掘を除き、滞在日数その他の制限は規定されていないと思いますが、会社の慣習法、人類一般の不文律、社会通念上その他、何らかの規制がありますか」
「資源関係以外で? いや、なかったと思いますが、御代課長、ありましたっけ?」
「ないと思うわよ。もちろん、コロニーの資源を圧迫するような活動は禁止されていますけれどね。具体的には?」
「ある一人の人間が月面で約半年間、肉体労働に従事する、というものです」
「半年も? 補給さえ問題なければ可能だと思うけど、確実にメンタルをやられそうね、って一人いたわね」
「はい、適任者がいます。それに別段、補給なしでもいいと思います」
「ほほう、実に面白そうね」
ちょちょちょ、それって私? 拒否権は? はい消えた。
「最後に、御代課長に質問です」
「ええ、よくってよ」
「現在、我々のコロニーはL1(第1ラグランジュ点)に所在していますが、半年以内程度でL2に変更できますか?」
「それは・・・実に・・・簡単だと思うわ」
「よろしくお願いします。では、計画全体の説明に移らせていただきます」
何だろう、そこはかとなく身の危険を感じるぞ、っていつものことか。




