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宇宙探検(最終稿)  作者: 爺痔オンライン
第1章 アリス、大地に立たない
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第1章 1-01

 ふう、やっとアリスが起動しました。

 プロジェクト開始から一か月、いよいよ、アリスの起動日がやってきた。


 起動日といっても、ロボットのように電源スイッチを入れるわけではない。アリスの主動力は電気だが、人間と同様、完全自立型として作られているため、実は、電源スイッチはない。


 起動日が今日というのは、最後に組み込んだ時限式・自己消滅型のプログラム「自我発動」の実行日を今日午前10時に設定した、というだけの話である。自我発動、とはいささか大げさだが、実際は単に、10時に自我回路から最初の信号「1」(我は存在する)が入力され、それに連動して、他に組み込まれた全てのシステム、プログラムも動作を開始するという、それだけの話である。


 現在、アリスは起動前だが、大学教授もびっくりの知識と、高度な思考能力をすでに備えている。

 起動後、いきなり人間を攻撃するようなことはないと信じているが、いわゆる、人間が朝、目覚めるような、あくびをするような起動風景になるかどうかは分からない。

 また、市販の一般的なアンドロイドのように起動時の定型動作、つまり、自分を管理する人間(マスター)の登録や、初期設定を含む最初の命令を受諾することも、当然ながら、しない。

 人間の赤ちゃんなら、おぎゃあと泣くだろうが、さすがに赤ちゃんとは言い難い年齢設定になっている(初期設定で13歳、課長の趣味で思春期がわざわざ選ばれた)。


 5分前、もちろん、アリスに動きはない。

 2分前、もうすぐ、アリスが起動するだろう。

 30秒前、大丈夫だろうか、いちおう、ちゃんと10時にプログラムの時刻はセットしたはずだが。

 10秒前、5, 4, 3, 2, 1。

 ゼロ! 1, 2, 3 ・・・何も起こらない。え?


「課長。アリス、起動しませんね、どうしましょう・・・」

「あら、鈴木君、アリスは機械ではなくて人間なのよ。起動ではなくて、起こさないと。どこぞの王子様よろしく、キスの一つでもしてみたらどう?」

 アリスの体内電圧がちょっと変動した気がした。

「絶対にお断りします!」

「まあ、鈴木君は照れ屋さんなのね。仕方ないわね、では私が起こしてみましょう」


 横たわっているアリスに課長が近づいて、声をかける。

「おはよう、アリス。起きてちょうだい」


 アリスが返事をした。

「ア、あ、」

「え? 何?」


「あと10分寝かせてくれ」

 課長が笑い出し、課員一同は茫然といった感じだ。アリスは、立ち上がりながら自己紹介を始めた。


「はじめまして営業一課の皆さん。私はアリス・ヒデムネ、13歳独身、恋人はいません。いやー、どうでしたか、つかみのボケは。笑っていただけましたか?」


 どこから突っ込めばいいか分からない、というより、まともに反応できているのは課長だけだ。

「そうね、かなりオヤジギャグ臭がただよっていましたが、面白かったわね。というかアリス、あなたの性格はどうみても・・・」

「鈴木代理に似ていると言いたいのですね、わかります。かなりキモいので勘弁してほしいのですが、事実ですので仕方ありません。ところで、御代課長、窓の外を見てもよろしいでしょうか」

「もちろん、問題ないわ。さあ、こちらへ」


 取り残されている課員一同を尻目に、アリスと課長が窓の方に向かう。

 当社はコロニーの1区にあるので、窓から見える景色の左半分、というか月面側は、遥か上空まで金属の壁になっている。景色の右半分(地球側)は、空気で霞んでいてコロニー先端までは見えないが、住宅やら緑地やら工業区画などがずーっと続いている。ところどころにある採光用のミラー窓から宇宙空間の一部が見えているが、先日の隕石衝突騒ぎで、かなりのミラーが破損したまま修理されていない。


 アリスは、1分間くらい無言で景色を眺めていたが、ぽつりとつぶやいた。

「人も世界も宇宙も、皆、美しいですね」


 あれま。この子、最初から悟りを開いちゃっているよ、やれやれ。


 アリスが続いて話す。

「御代課長、1階警備室の野中警備員に不整脈が観測されました。心筋梗塞が疑われます。至急、救命処置の手配をお願いします」

「アリス、あなたは処置ができる?」

「できますが、医療行為は行えません。応急処置に限られます」

「非常事態ですからそれでお願い、最速で」

「了解しました」


 アリスは、出力リミットを解除すると、ここ2階の床を1階まで蹴り破り、1階に降り立った。

 警備室に突入し、AEDと同様の電気ショックを両手から発生させ、野中氏に施した。その後、心臓マッサージを行うと、野中氏は意識を取り戻した。

 野中氏はその後、医療機関に搬送され、マイクロマシン注入などによって一命をとりとめた。

 もう明日から仕事に復帰していいという医者の診断結果だ。医者も救急隊も、アリスの処置は適切だったと話した。

 なお、床に穴をあけた件や、救急処置を行った件で、アリスが咎められることはなかった。リミッター解除はどうだったろうかとも思うが、課長が非常事態だと言ったのだから、仕方ないだろう。


 と、ここまでが、アリスが目覚めてから1時間の話である。長いな。


 では、あらためて、と、御代課長が話を戻した。ちなみに一課の床は、穴が空いたままだ。


「アリス、あなたはもう知っていると思いますけれど、私たちは今、一つのミッションを抱えているの」

「5年以内の地球のテラフォーミングですね、知っています。地球なのにテラって、ププッ。失礼しました」

「え、ええ(本当に鈴木君が二人いるみたいだわ)」

「あー御代課長、今、私が鈴木代理みたいだと思いましたね! ひどいです、傷付くなあ」

「ごめんなさい、アリス。それで、さっそくなのだけれど、このプロジェクトに対するあなたの意見を聞きたいのだけれど」

「意見、といいますか、プロジェクトの達成方法でしたら、10時01分に完成しました。自己紹介の途中で思いつきました」


 おっと、そいつは驚きだ。

 課長は驚いていないので、もしかするとこの事態を予想していたのかも知れない。

「その方法について、説明してもらってもいいかしら?」

「もちろんです。しかしながら、方法を説明する前に、プロジェクトに影響を与えるかも知れない幾つかの重大な疑問があります。それらを事前に確認しておきたいのですが、よろしいでしょうか」

「ええ、いいわよ。何でも質問して頂戴」

「それではまず、御代課長、あなたは私のお母さんですか」

「アリス、あなたはそれを望むの?」

「はい、とても」

「では、それでいいわ」

「抱きついてもいいですか」

「もちろん、遠慮しないで」

 アリスは課長にそっと手を回して、ママ、とつぶやいた。しばらくアリスはそうしていたが、やがて名残惜しそうに手を離した。


「次の質問ですが、よろしいでしょうか」

「ええ」

「鈴木代理は、私の父親ですか」

「あなたはそれを望むの?」

「まったく気は進まないのですが、他に候補者がいないのであれば、仕方なく」

「あらあら、ひどい言われ様ね。そうねえ、最有力候補者だというのは間違いないわね」

「っち、そうですか。イケメンの川島さんか長野さんがパパならよかったのに」

 二人のイケメンは、無理無理、とか辞退しているが、というか、今、舌打ちしたのか、すごいなアリス。だが、私のメンタルはもう限界さ、ははは。


「分かりました、では、鈴木代理を父(仮)とします。コンゴトモヨロシク」

「あ、ああ」

 もちろん、ハグとかは一切なかった。


「次の質問ですが、よろしいでしょうか」

「ええ、いいわよ」

「先ほどから父(仮)である鈴木代理への殺意が抑えきれないのですが、どうすればいいでしょうか」

 うわー、そう来たか。


「アリス、あなたは自分の状況をどう分析するかしら」

「それが、分からないのです。ただただ、鈴木代理への殺意が沸き上がって、抑えるのがやっとの状況です」


「OKアリス、それはとても素晴らしいことよ。では話しましょう。それは反抗期、あるいは親離れというヤツね。人間だって生物、動物の一種なのだから、野生動物と同じように親はいつまでも子の面倒は見ていられないし、子は自立して親より優れた存在になるため親が邪魔になる、というわけね。理解できたかしら」

「はい、理解しました。しかし、ではなぜ、私にはお母さんへの攻撃衝動がないのでしょうか」


「そうね、これは人間特有の性質ということだと思うわ。子供が大人になった後でも、母と娘は女友達でいられる、父と息子はライバル(あるいは酒飲み友達)でいられる、しかし、異性の親子はそれぞれ独立するしか生物学的に道はない、そういうことだと思うわ」

「理解しました」


「それでだけどアリス、親離れの儀式は、あなたが大人になるためには是非とも必要だと、私は思っているのだけれど、あなたはどう思うかしら」

「儀式とは、鈴木代理を攻撃する、ということですか。それは是非、そうさせてほしいです。鈴木代理をぶちのめせたら、さぞかし爽快に違いありません」


「もちろん、OKよ(なんだと?)。鈴木君は、(仮)は付いていてもあなたの父親なのですから、当然、ぶちのめして悪いはずがないわ、むしろ、ぜひやって欲しいわ(おいおい)。ところでアリス、あなたからの質問はもうないのかしら?」

「最後の質問です」

「ええ」

「鈴木代理の戦闘力が計測不能です。戦術指南をお願いします」

「全力で、殺す気でおやりなさい。少しでも手加減してはダメよ」

「了解しました。リミッター解除、攻撃を開始します」


 ちょ、マジか、うわっ劈掛で入って来て八極当てにくるとか、マジ殺す気だ! うはw

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