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宇宙探検(最終稿)  作者: 爺痔オンライン
第0章 不可能への挑戦
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第0章 0-0F_3

 なんとかアリスの設計完了まで漕ぎ着けました。読者の皆様のご協力に感謝です。

(6)数とは何か、図形とは何か(代数と幾何)


「少し脱線します、ご容赦下さい。私が学生の頃、ある日、夢を見ました。夢の中に神が現れ、おまえをY=2Xにしてやろう、と言ったのです。最初は、何か名誉なことだと思ったのですが、よく考えてみますと、それってもしかして、私の存在を消すってこと? と思い直しました。そう、直感的には、まぎれもなく死の恐怖ですね。しかも、存在の完全な根絶です。数というものに疑問を持ち始めたのはその時です」

「我々は、1+1=2と知っている、と公言します。しかし、1とか2とか数字ってそもそも何? これが私の疑問です。何? というのはもちろん物理的な意味で、です。物理的には存在しないのかも知れないですけれど。数学上は悩む必要がまったくありません。”定義だから”それ以上の追求は不要です」

「数の説明は、比喩を使えば実に簡単です。いいかいアニー、リンゴが1個あるだろ、そこにもう1個持ってくれば合計2個さ、簡単だろ? OK、分かったわ、ボブ」

「ええ、実に簡単ですが、私の疑問は、リンゴが、とか、ミカンが、とか、何かが、といった比喩を使わずに1とか2といった数字の本質をズバリ、教えてくれ、これです。そして、これには答えられません。なぜならば、数とは必ず、何らかの存在に付随するからです、虚無が一つ、虚無が二つ、とはなりません、虚無は0ですので。答えられないのですが、我々はまったく数字のことを知らないというわけではなく、それ以上の何かを知っている、という感覚がある、これもまた、事実だと思います」

「そこで次に、疑問の核心は”その感覚は何だ?”になります。経験則から導き出された1とか2の一般的概念、つまり記憶の集大成、それが数字の感覚の正体かも知れませんが、どうも確信が持てません。もっと本質的な、アプリオリな何かが我々の中にはあるのではないか? もちろん外界といいますか、この宇宙には数字が存在していません。それは、私たちの精神の中だけに存在しています。このコップの中身は数字の1の成分100グラムで、こっちは円周率の濃縮2倍エキスさ、なんてことはありません。別の表現をするならば、数字のイデアとは何だ? と質問しているのですが、数字とイデアは等価では? という質問なのかも知れません」

「幾何学で言う図形といったものも同様です。三角形の内角の和が180°であるのは事実ですが、宇宙の中には三角形の実体なんて物は、数字と同様に存在していません。ついでに申し上げれば、物理法則も存在していません。実際にあるのは物理現象で、それをたまたまうまく説明できる計算式などによって、我々の精神の中だけで表現しているに過ぎません。まあ、もちろん、物理法則に相当する何か、力のようなものはあるのでしょうが、我々がその真実にたどり着くことは決してありません」


「脱線し過ぎた感じがしますので、いったん数字に戻ります。さて、この図をご覧ください」


- ∞ ←                  → + ∞

 ――――――――――┴――――――――――

  -10   -5    0    5    10


「数直線です。もちろんこれは、数学的にはまったく問題ありません。しかしです、相当な脱線を覚悟しますが、この際、いろいろなボケには全てツッコミを入れておきたいと思うのです。そうしないと安心して数を探求できない気がするので」

「まず、無限大∞(無限に大きい)ですが、これは5や10などの数ではないです。一言で言えば、人間が考えた概念であって、数ではないです。まあ、数、それ自体も人間の概念かも知れませんが。それはちょっと置いておいて、無限大は数ではないのですから、数直線上にはありません、座標を打てません。右向きの矢印→が書いてありますが、無限大があちら→方向にあるわけではないです、間違いです。ところが、では、プラス無限大は左向き←方向にあるのか?というと、不思議なことに、右向き→よりももっと間違っている、と感じます。つまり、→の方が正解に近い、と感じます。しかしそれらはどれもこれも間違いです。本当は、この図に無限大∞は登場できません。この数直線上には、鈴木一郎という座標や、いろは、や、ABCといった座標もないし、登場すらできないことと同じです」

「次に、負の数ですが、これも宇宙には存在していません。我々の頭の中だけの虚構です。借金2万円は、2万円札と対消滅する反物質のお札を持っているのではなく、自分以外の他人からプラス2万円を借りて来たに過ぎません。だいいち、反物質も物質です」

「絶対温度では絶対零度より低い温度はありません。それはそうです、分子や原子が完全に停止しているのが絶対零度で、ゼロより遅い速度はありません(ド・ブロイ波やら原子振動とかややこしい話はしません)。まあ、マイナスが絶対にないとも言い切れませんが」


 田中さんから。

「鈴木代理、負の温度というか熱量はありえないのでは? レーザー理論では仮想的に出てきますが」

「ええ、ないと思います、常識的には。そうですね、少し前の議論に出てきた、”針の先端のエッセンス”に近い話ですが、もし、フロギストン(熱素)のような、そういった我々が想像もしていない物理現象があって、ある物質は、絶対零度の状態から加熱されても+10Kまでの加熱なら絶対零度を保ったままだ、もし、こういうことがあればマイナス10Kと言ってもよいかも知れませんが、現段階では想像上の話ですので、物理的にはありえないでしょうね、おそらく」


「続けます。ゼロ0はインドで発見されたそうですが、まさに、負の数と同様、0は宇宙に存在しません。角砂糖をどんどん半分に小さくしていきます、限りなく小さくしていきます、我々の思考ではいくらでも限りなく小さくできます、例によってプランク長などの話などはしません。実際の物理現象では、ある段階でほとんど0になります、ほとんど、という意味は、物理的に半分にできない何らかの最小単位に到達したため、という意味です。限りなく小さいこと、それが0、つまり本当は、マイナス無限大-∞とは0のことです。そして、無限大は数直線上にありませんので、本当は0を書き加えることも間違いです」

「実際の宇宙には積分と微分は存在し、足し算と引き算は存在しますが、掛け算や割り算は存在しません。1パック2個入りのトマト3パックは、2×3=6ではなく、2+2+2、もっと言えば、1+1+1+1+1+1で、さらに言えば、6とは、見た人が仮想的に与えている区切り内の合計というだけに過ぎません。トマトたちが、俺たち兄弟は6だぜ、などと主張しているわけでもありません、そんな区切りは、国境と同様、人間が頭のなかだけで仮想的に決めたものに過ぎません」

「我々の思考では、そして数学では、0.5はもちろん考えられます。しかし実際の宇宙には、少数も存在しません、有理数と無理数の区別も無意味です。円周率は3.14159…と無限に数字が続きますが、整数の1も、同じく1.00000…と無限に数字が続きます、どちらも数直線上に座標を打つことはできます、円周率の方は、直径1センチの円、一円玉がちょうど2cmですが、それをゴロゴロと滑らないように転がして半回転したところがπです。座標は打てますが、それはあくまで近似値です、そもそも無限に数字が続く、ということは、それは数字ではありませんから、実際の宇宙で示される値は、膨大な自然数の集合として示される近似値です。仮にその値が極めて正確で、原子1個分の誤差しかないのかも知れませんが、そうだとしてもそれはあくまで近似値です、どうやっても、我々が数学で考える数とはなりません」

「要するに、実際の宇宙は自然数です。ですから、実際の世界、宇宙の数直線の左端はマイナスでも0でもなく、1です。」


 ○  ○  ○ ・・・

 1   2   3  ・・・


「ところがここで、疑問が生じます。宇宙が存在するとき、最低でも何か1はある、御代課長の仮説を使うならば、宇宙の存在自体を1と表現できるかも知れない、しかし1よりも大きい数、2以上の数は果たして存在しうるのか? 宇宙とは、気が遠くなるほどの量の1がひしめき合っている状態であって、2という数で表現される現象は、本当は宇宙では見られないのではないか?」

「何もない状態、真空、あるいは空間すら存在しない虚無は、御代課長の仮説を採用するならは0と表現して良いかも知れない。そして、何らかの素粒子やエネルギーが1つ存在するとき、それは1と表現される、しかし、1つの素粒子やエネルギーが、他のもう1つの素粒子等と隣り合って存在しているとしても、それらは熱運動や、相互干渉を引き起こすかも知れないが、別にそれらの現象は、数字の2を表現、あるいは2を代表、またあるいは2を象徴する現象とはいえないのではないか」


 ○  ○  ○ ・・・

 1   1   1  ・・・


「本当は、たくさんの1があるだけではないのか? そして宇宙には数字がないことは最初の方で確認済みでしたから、1が存在することも、どうも怪しい。そうなると、宇宙の本当の姿は、」


 ○(宇宙、在ります。冷やし中華もあります。)


「ではないのか? だとすると、数字は存在しない、のみならず、”関係性すら存在しない”ではないのか? まあ、最初から存在しないと言っているのですから、関係するはずもない、のかも知れません。いずれにしても、いつもどおりですが、宇宙の真実なんてものは、我々には分からない訳ですね」


「数字の方は、その実存は比較的楽に否定できそうです。1+1=3、これは数学では間違いですが、精神においては間違いではありません。例えば、こういうデザインのTシャツのプリントを洋服屋さんに頼んだとして、気を利かせた洋服屋さんによって、1+1=2に”訂正”されて仕上がってきたとしたら、おいおい、頼んだデザインと違うじゃないか、間違いだよ、と文句をいうことになります。つまり、我々の精神というか思考では、どんな不可能なことも想定できるというわけですね。とはいえ、1+1=2であるという数学的な正解が否定されるのではないから、数字なんてまるっきり存在しない、というのはやはり無理がありそうだし。あ、ところで精神は、精神自身が想定しえないこと、というものを思考できるのでしょうか、例えば、数字の本質を理解してしまう、とか。おっと、これはさすがに脱線し過ぎましたので、今は先に進むことにします」


「図形はどうでしょう? 三角形の内角の和が必ず2直角だということや、ピタゴラスの定理が成立することは、単なる我々の精神の中での幻想と断言するには、あまりにも圧倒的な存在感があるのではないでしょうか。物理定数が異なる別宇宙は想像できても、代数や幾何が成立しない宇宙というのは、ちょっと想像できません。1+1=3になってしまうような宇宙は、おそらく正常な形では存在できないでしょう。しかしここで、例によって”できるのかも知れないが、真実は我々には分からない”に戻ってしまいました」



(7)数とは何か、図形とは何か(代数と幾何)その2


「皆さん、私一人で、かなりいろいろな回り道をしましたが、結局、数や図形とは何か、という疑問に戻ってきてしまって、行き止まりで、堂々巡りでした。さきほど課長から、罠にはまっているのなら、何度も周回しているのなら、罠や周回そのものを見極めろ、と指摘いただきました。課長の言うとおりにしてみたいと思います」


「一つの仮説は、我々は、実は、数とは何かということをはじめから理解している、具備している、という仮説です。本当は知っているのに、我々は知らない、それは何であるか?と、繰り返し誤った自問自答をしているのではないか、という仮説です。もしこの仮説が正しいならば、アリスには算術プログラムをインストールする必要はない、ということになるかも知れません」

「もう一つの仮説は、質問の仕方を間違えている、という仮説です。こちらはまさにこの仮説自体を論理的に仮定はできるのですが、では実際問題として、どこがどう間違っているのか、ということを見極める必要があります。何が間違っているのかを分からないのに、どう間違っているのかを分かりなさい、というのですから、ある意味でこれは無茶な要求です」

「さらにもう一つの仮説は、実は我々は、いろいろな間違いを複合して行ってしまっている、というものです。この場合はもう、解決は絶望的と言えるでしょう。さてそれでは、どこからいきましょうか、という状況ですが、もっと賢いやり方がないか、調べましょう。おそらく、そちらの方が近道です」


「数と形、代数と幾何、もちろんそれらに物質的な実体はありません。それは精神の中にあるだけです。しかし、まったく根も葉もない、空虚なもの、非存在、というのには無理があるように思います。例えば、数字の3とは何か、という単独の質問には答えられません。なぜなら、数字とは何か、ここからして分かりませんので。もうひとつ、図形の三角形とは何か、という単独の質問にも答えられません。なぜなら、図形とは何か、ここから分かっていませんので」

「ところが、数字の3と三角形には何らかの関係があるか、という質問には、明らかに関係がある、と答えることになると思います。少なくとも、数字の2や4よりは関係が深い、と答えることになります。数字の3と三角形、そのどちらも、それらが何であるかすら分かっていないのに、関係性が分かる、と答えているのです。まあ、三角形と4とか2の方が関係が深い、というのが宇宙の真実なのかも知れませんが、例によって我々は、真実を知りえないわけですので、そこはあきらめるしかないです。そこで、我々が、3と△の関係性をある程度分かる気がする、と言うのであれば、本当は我々は、数字や図形が何であるかということを既に知っているのではないか、この仮説の疑いが濃厚になって参ります」

「もちろん、3や△の”性質”については、数学を勉強した者ならば、無知とは言えません。四則演算やらピタゴラスの定理やら。ですから、先ほどからの質問、数字や図形とはなにか、は、性質は知っているのだが本質が分からない、というふうに言い換えられます」

「ここで私は気づきました。私は、数字や図形の本質は何だ? と質問していたのですが、そもそも、本質とは何なのでしょう。私はそれを知らなかったことに気付きました。つまり、自分が何を求めているのか分からないのに求めていたのです」

「A:ねえボブ、アレ、アレを持って来て下さいな、B:OKアニー、ところで、アレって何だい? A:グランパは知ってるけど、わたしは知らないわ、B:それじゃあ、お手上げだね、ハハハ、こういうことですね」

「しかしこれはある意味で簡単です、数字や図形の本質は? と答えを求めているとき、実際には何を求めているかと言えば、それまさに、宇宙(自己を含む)の真実、です。これを我々は知ることはできません。そもそも、そんなものは幻なのかも知れませんから。そう、それこそが、存在しないもの、です」

「となれば、数と形については、実用上、困らなければ十分だ、ということになります。つまり、パンを2つ買いに行って、2つ分の代金を払ったとき、もしパン屋がパンを1個しかくれなかったら、1個足りないよ、と言えれば十分だ、というわけです。ああ、3個だったときは、1個多いよ、です」



(8)存在しないものとは何か


 突然、御代課長が叫ぶ。

「OK!! OKよ、鈴木君! ここまでで十分よ! お疲れ様、よくやってくれたわ!」

「え? これで終わりですが? えーっと、何かが解決したとは思えないのですが」

「あら、気付かないのかしら? 最後にアリスに組み込むべきシステムが、はっきり見えたと思うのだけれど?」

「いや、全然、分からないですが。えーっと、誰か、分かった人はいますか?」

 営業一課一同、みんな呆気に取られている。


「あらまあ、これほど分かりやすい検討はなかったと思ったのですが、うーん、仕方ありませんね。最後のパーツを完全に理解されている阿部様、大変お手数ですが、理解の足りない課員一同にご説明願えますでしょうか」

「もちろん、かまいませんよ。では早速。要するに、存在しないもの、というのは理・・・」

 阿部様は、おもむろに説明を始めた。


(いちおう補足しますと、阿部さんは読者の皆さんですから、説明部分をわざわざ書く必要はないと思いますので省略させていただきます。決して、オチが書けなくなったわけではありません。)

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