病院から帰宅⇒荷物をまとめよう
「寒い……」
荷造りをすれば、暖かくなると思っていたが甘かった。
もう暖房をかけないと、死にそうな季節になっていた。
余命宣告を受けてから1週間。
短い間だが散々悩んで、残りの余生を伊月総合病院で過ごす事にした。
ただ、病院の中にずっといるのはイヤだから、外出は自由にさせてほしいとワガママといってみたらすんなりと通った。
本当に俺は半年後に死ぬのかな。受け入れるまでに、まだまだ時間がかかりそうだ。
荷物をダンボールにつめながら、余命宣告を受けた日の事を思い返していた。
────────。
「これってドラマチックな人生になるって事ですかね? 」
伊月先生はむっくり起き上がる。
「ドラマチックな人生……松田さんがどういうドラマチックさを求めるかにもよりますが……。」
「そんな人生になれる様、私とシノりんが全力でサポートしますよ!!! はははははは!!! 」
バシッ!
「シノりんとは私の事でしょうか? 勝手に名字と名前を合体させないでくださいませ。」
看護師の篠崎さんことシノちゃんが、先生の頭をひっぱたく。
どうやら名前は「りん」というらしい。
「いててっ……んもう…。ホントはMっ子ちゃんなのにねぇ……」
シノりんの黄金の左が、イケダメのボディ下に刺さる。
「ふごごごっごごぉぉぉぉぉ……」
「先生(ボスッ!) それを(ボスッ!) 今(ボスッ!) 松田様に(ガスッ!) 何故(ボスッ!) お伝え(ボスッ!) する(ゴッ!) 必要性が(ガスッ!) おあり(ドスッ!) なの(ボスッ!) で(ボスッ!) しょうか?(グスッ!) 」
ボスッボスッガスッドスッと鈍い音が診察室の中に響き渡る。
そして否定しないのね。Mっ子ってのを。
もういいよ。そのまま爆発してしまえイケダメ。
イケダメが再起不能状態の為、変わりに篠崎さんが今後について説明をしてくれた。
「申し訳ございません。『コレ』が息絶え絶えのゴミくずになっておりますので、僭越ながら私、篠崎が松田様の今後についてご説明させていただきますわ 」
「あ……はい……お願いします 」
完全に無機物扱いされているイケダメ。ちょっとだけ気の毒になった。
「先程も申し上げましたが、今後どうするかは松田様のご意志が最優先で尊重されます」
「ただ1点だけ。余生の過ごし方をお決めになられたら、必ず伊月先生にご報告くださいませ。」
「分かりました。『コレ』に報告すればいいんですね? 」
伊月を指さしながらそう答える。
「はい。ご不満があるかと存じますが、その事をお忘れになると、国からの支援を受ける事が難しくなってしまいます 」
「こんな『モノ』でも、ASSの第一人者という立場にいられる方でして、余生の過ごし方が適正であると判断し、国に支援を申し込む事が出来る唯一のお方なのですわ 」
うずくまって立てない伊月先生が、言葉なく親指を立ててそれに応える。
「そうなんですか……。えっと……ちょっと…いやかなり変わっている人ですよね……この人。篠崎さんもホント大変ですね。ははっ 」
「やっと、私にちゃんと話しかけてくださいましたわね。ヒロ…さん」
「えっ? 」
「いえ、なんでもありませんわ。とにかく松田様には選択していただく必要がございます」
「期限を切るのはあまり好ましくありませんが、来週の28日、日曜日までに余生の過ごし方についてご返答いただけると幸いですわ」
「こちらは24時間365日無休で対応しておりますので、決まり次第すぐにご連絡くださいませ」
篠崎さんが、すっと何かが書いてある紙を出してきた。
ん?番号とID?
「これは? 」
「私のプライベートの連絡先ですわ。もし万が一病院に繋がらなかった場合は、こちらに連絡していただければ、私がすぐに対応させていただきますわ」
マジか!!!!!
まさかこんなタイミングで、天使と連絡先交換が出来るなんて。
これぞ運命なのでは!?
「ちょ……ちょっと待った…!!!!」
ふいにイケダメが立ち上がって……
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