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嘘のウソは「嘘」。  作者: しゅしゅしゅ
序章 10月の半ばに、死の宣告された。
7/10

結果、天文学的確率で余命半年になりました

「えー松田さんが罹患している病名は、『後天性突発死亡症候群』です。ご存知でしょうか? 」


えっ…聞いた事がある。というかそれなりに知ってる。


ガキの頃に、ニュースでひっきりなしに話題になった新種の病で、かかっていない子を「こいつそーなんだぜ!!」と決めつけてクラスからハブる低級なイジメが、社会問題まで発展したくらい知名度が「あった」病気だ。


感染ルート不明。治療法もなく、致死率100%。根治する事はない不治の病。


過去に例がない特殊な病気で、かかっても身体に異常が起きる事も感じる事がないので、罹患しているかどうかを自己判断する事は100%出来ない。が、発症するとすぐに死ぬ。しかも、感染ルートは全く不明。


まったくの未知なる病「後天性突発死亡症候群」は、人類にとって最大の脅威……のはずだったのだが……


全世界で見ても、後天性突発死亡症候群の発症者は極めて少なく、日本でも多くて年間6000人ほどと言われている。


突然死で亡くなる人は年間7万人ほどいるそうなので、その内の10%にも満たない数だ。


もっとも、死亡前に発見出来るケースは年に数人程度で、ほとんどは死亡後に発症していたと発覚するそうだ。


その為、当初は「そんな病気があるわけない」「都市伝説だ」「陰謀論」だとまで言われていた。


ただ、それも死亡後に「後天性突発死亡症候群」だったのかどうかを確認する方法が確立されてからは、そういった類の噂は鳴りを潜め、故人が突然死を迎えた場合、死亡診断書を書く前に必ずチェックをする事を国が各医療機関に義務付けるようになった為、年間の患者数(故人がほとんどだから患者というのもおかしいが…)はほぼ間違いない数値とされている。


はっきりと公表されてはいるわけではないが、現状、患者が「その程度」しかいないという理由で、


「人が交通事故で不遇の死を遂げる確率も、遥かに低い可能性でかかる病気」


という理不尽な結論を出されている為、そのまま解決策も対応策も講じられず静観されている。


と、いつぞやか懐かしくなって某ウェブ辞典サイトで調べてたのを思い出した。



「大変申し上げにくいのですが、松田さんはその後天性突発死亡症候群。通称『ASS』に罹患しています」


「生前の血液検査で発見出来るケースは年に稀な為、間違いがない様、再検査を含め時間をかけて血液検査を実施させていただきました」


「期間が長かった事で不安にさせてしまい、大変申し訳なかったと思っております」


申し上げにくくないでしょ。申し訳ないって思ってないっしょ。

さっき、あんだけふざけた余命宣告しておいて。


理解出来ない事が多すぎるが、とりあえずはっきり分かっているのは、


俺は半年後、100%死ぬ病気に天文学的確率でかかった。


という事だけ。



イケダメは、真面目なトーンで話を続ける。


「医師としてこういった発言をするのは好ましくはないのですが、人は生物として生まれた以上、例外なく『死』という病気に罹患していると言えます」


「死はいつ発症するか分からないだけでなく、100%回避する事が不可能な病であり、我々医師はその発症を遅らせる為に抗う事を生業としていると言っても過言ではありません」


「松田さんが罹患したASSは、発症後すぐに死に至るとされていますが、厳密にいうとそれは誤りです」


「正確には、発症すると『死に至るまでの期間が明確になる』。言い方を変えると、発症をする事で『寿命』が確定されてしまう。それがASSの本当の症状です」


寿命が決められてしまう病気。こんなファンタジーな病気があるなんて。

驚きながらも、話の続きが気になってしょうがなくなっている自分がいる。


「不甲斐ない話であり、断言はしたくはないのですが、現代の医療の限りを尽くしても、ASSによる「死」という病の発症を遅らせる事は出来ません」


「ただその代わり、松田さんの最大の理解者として、松田さんの余生が実りあるものになる様、私を含めた当院のスタッフ全員が全力でサポートをさせていただきたい。心からそう思っております」



そうか……。 思い出した。


いつだったかテレビ番組で、この「伊月総合病院」が、日本で唯一、「後天性突発死亡症候群」の患者の【終末期医療ターミナルケア】をしている病院だって紹介されていた事を思い出した。


しかもローカル番組でちょろっと特集が組まれていたくらいで、某ニュースサイトにも出てこなかったレベルだ。


だからこの病院を知ってる気がしてたんだ。


つまり、俺の主治医としてつくのが、この「伊月先生」というわけか。

治せるわけじゃないだろうから、主治医と定義していいのかわからないけど。


そうか。だから「担当」なのか。


自分の「最期」を看取るという意味で。



「そうです。ASSのターミナルケアを唯一行っているのがこの病院です」


な……心を読めるのか!? この医者は!? 


イケダメは、真面目な顔とトーンを崩さず話を続ける。


「人生の質を維持し、高める事で、苦痛や不安を緩和させる事がターミナルケアの本質ですので、死の直前まで健常者と変わらない、ASS罹患者のターミナルケアは単純ではありますが、生活環境を現在の状況よりも高める事を第一としています」


「当院の敷地内には、様々な娯楽・リラクゼーション施設を併設していますし、罹患者専用の居住スペースも用意してあります」


「また、一定の上限・条件付きですが、国から支援として、残りの余生を有意義に過ごしていただくための資金援助も可能です」


「ただ、発症しているとはいえ、最期の時まで健常者と何ら変わりがない状態ですので、このままご自宅に戻られて、今まで通りの生活をする事も出来ます。それが人生の質を高める事に繋がるという方もいらっしゃいますので、強制・強要はしていません」


「この病院で私たちと過ごすか、このままご自宅に戻って普段通りの生活をするか、それともまた違った過ごし方をされるのか。残された時間をどう過ごすのかは、松田さんの自由です」


「あまりにも突然の話で、状況を整理しきれないのは重々承知していますが……私たちとしては、出来れば私たちと一緒に最期まで『生き抜いて』ほしいと願っています」


さっきとはうって変わり、あまりにも淡々と真面目に話されていたので、ただただ…… 黙って聞くしかなかった。


普通、資金援助とか言われれば、


「ひゃっほーい!! まじかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 」


と狂喜乱舞している所だが、この短時間に散々ふざけた態度をとっていたイケダメが、ASSという現実離れしている病気にかかった自分に真摯に向き合ってくれていると思ったら、そんな事を考えられなくなっていた。


思えば、さっきまでふざけていたのも、俺の動揺を最小限に抑える為にしていたのでは……


だとしたらこの人は……



「まぁーここにはこんなたぷんたぷんナースもいるしぃー、ボクもいますしー、間違いなく超たのしいですよぉ!! 」


何の前触れもなく、いきなりシノちゃんの豊満な胸を下から上へたぷんたぷんした事によって、すぐ真下の地面と熱いキスを交わすことになったイケダメ。


前言撤回。やっぱり……頭おかしいだけだこいつ。




────────。




死にたくない。本当に死にたくはない。


でも、気持ちは驚くほど落ち着いていて、ふとある一つの考えが頭の中に膨らんできた。


もしかすると……



ほぼ地面にめり込んでいるイケダメにこう尋ねる。


「先生、1つ質問なんですけど」


「な……なん…でしょう……か……? 」



「これってドラマチックな人生になるって事ですかね? 」



ドラマ・アニメ・ラノベの世界なら、こういう状況になった時は何かしらのイベントが起きたりするものだ。


クズでゲスでバカで、中二を拗らせてる俺は、そんな世界に猛烈な憧れを持っている。


余命を告げられ、理不尽に怒り狂い落胆すべきはずなのに、俺は今、そんな世界と同じ舞台に立っているんだ! という状況に喜びを感じ、興奮さえしている事に気づく。




でも、そんな奇跡的な出来事は現実では起きない事も理解している。


急にものすごく好きだった幼馴染と再開できたり、最期の最期までずっとそばにいてくれる優しい子に会えるなんて事もない。


そんな都合のいい事なんて起こり得ない。絶対に。


それが現実。それがリアル。





そう思ってた俺は、ある時一人の少女と出逢う。


同じように余命を告げられている少女と。


彼女は信じてる。


自分の余生が充実したものになると。


しわくちゃな紙に書かれた、「やりたいことリスト」を握りしめて。

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